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千晶回。
そんなに契約したがるのは何か理由があるのかと貫太が掘り下げてきたとき、話したほうが自分に有利に動くと千晶は瞬時に判断した。
貫太は契約に乗り気ではない。気持ちの優しい男だから相手を従えるような契約をしたくないのだろう。
神使契約などと言ってはいるが従属させられることは間違いない。
乗り気でないなら仕方ないと、あのときはあんなことを言ってしまったが、貫太の気持ちを動かせそうだと思った途端に目の前のチャンスを逃したくないと思ってしまった。
確信があった。
これを言えば貫太はきっと断らない。
貫太の優しさにつけこむのは気が咎めるが、迷いを振り切る。大事なのは契約までこぎつけることだ。
会うのが久々すぎて最初は誰か気づかなかった。話をして、貫太は幼稚園児のころからまったく変わってないという感想を持つのに時間はかからなかった。
貫太が聞いたら、いくらなんでも幼稚園のときからは成長してると反論するだろうが。
人の言うことを真に受けるのも人のことを疑わないのも幼稚園児のころから一緒。
相手に感情移入しやすいところも。
千晶が自分側の事情を告げると、案の定
「わかった。そういうことなら契約するよ」
貫太はそう言った。
まだ何も始まっていないし、終わってもいないのにその言葉を聞いただけで体の強張りがとけていく。貫太がその気になってくれてよかったとただ安堵した。
契約自体は年内には結ばれることになる。なるべく早いほうがいいが、決定権は自分にはない。
まだ契約は成されていないが、契約後のことに思いを馳せた。
弥彦達が自分にどういう立ち回りをしてほしいかはわかっている。
高等部での最初の仕事はおそらくあの男をなんとかすることだろう。貫太に気づいたら真っ先に絡んでくるに違いない。
面倒な男だから関わり合いにはなりたくないがやむを得ない。
主の守りは従者としての役目だ。
もし貫太が契約を破棄しようとしたとき、それは惜しいと周りの人間から止めてもらえるように誰から見ても役割はきっちり務めあげよう。
同情だけではいつ貫太の気持ちが変わるかわからない。契約の終了を告げられないように貫太を手抜かりなくサポートし、有用だと認めさせる。従者としての役割をこなし、信頼を得る。
それが貫太を妹に会わせる近道だ。契約したら、恩恵が妹にもいい影響を与えるはずだが、会ったほうが効果が強くなる。
そのために契約をするのだから。
貫太を観察しなければならない。機嫌のいいとき……タイミングを見計らって……。
そういうことばかりが頭を占めている千晶を貫太は一言でフリーズさせた。
「紬希ちゃんだっけ? そのうち会わせてよ」
契約前でも直接会うことで寿老人の御利益なら、わけてあげられるからと貫太はこともなげに言った。
有用だと認めさせる。役割をこなして信頼を得る。
機嫌のいいとき?
そんなことばかり考えている自分を思いきり殴られた気分だった。
そうだった。貫太はそういう人間だった。貫太の何を見てたのか。幼稚園児のころから変わってないと自分もそう思ったはずなのに。貫太はこんなとき、小賢しく立ち回って周りの人間にはいい顔をしつつ千晶に無理難題を言ったり、千晶の事情を知ってどうしようかなどと焦らしたり、そんなことはしない人間だ。
「ありがとう。助かる」
素直に助けてくれとただそう言えばよかったんだなと思うと千晶は久々に心から笑った。




