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「お待たせー。部屋借りたから中で話そう」
「あー、うん」
生返事で明後日の方向を見ている千晶の視線の先を辿るとそこには牛島と九条が建物の影からこちらを窺っている姿があった。スーもいる。
「あ、やべっ。見つかった」
「何やってんだ、あいつら……」
聞こえてきた声から察するに牛島的には隠れていたつもりらしい。
体の半分以上が見えている状態で見つかったはおかしいだろう。スーに至っては隠れてもいない。
何を思って人の後をつけたのかは知らないが、言い出したのは牛島だろう。そういう男だ。スーがすまんと手を合わせている。
その後、スーが苦笑いでひらひらとこちらに手を振ると三人はゾロゾロと帰っていった。
「見つかるとはな」
「いや、見つけたのは貫太じゃないから貫太には見つかっていない!」
「確かに!」
という勝手な会話をしながら。
貫太は一体何だったんだという気持ちをねじ伏せ、「学校の友達なんだ。悪い奴らじゃないんだけど、なんかごめんね」と初手謝罪をした。
それから部屋に入って椅子に座りはしたが、お互い無言のままだった。気まずい。
最初はそうでもなかったが、だんだん緊張してきた。
空気が張り詰めている。
千晶も緊張しているようだ。ここは自分から会話を始めるべきか。
弥彦に腹を割って話せと言われ、この話し合いをしてから契約するかどうか、ちゃんと考えて決めようとこの場をセッティングしたが、緊張のせいで頭が真っ白になる。
何か適当な話題で盛り上がってリラックスしたところで契約に関することを聞いたほうがいいのかもしれない。
考えた結果「本日はお日柄もよく……」というフレーズしか思い浮かばなかったので、うまいこと話をしてお互いの緊張をほぐすのは諦めた。
黙っていても仕方ないので直球で聞く。
「えっとね、契約のことなんだけど」
断られると思ったのか、千晶の表情は強張っていた。
「確認したいんだけど千晶ちゃんは自分の意志で契約したいと思ってる?」
「もちろんしたい。誰かに命令されたわけでもないし、自分で考えてしたいと思った」
千晶は真っ直ぐ貫太を見据えるとなんの迷いもなく言い切った。




