73
翌日の放課後。
いつも通り一緒に帰ろうと声をかけてきた牛島に断りをいれ、貫太は帰り道を急いだ。
千晶と約束した時間前に自治会館につきたい。
公民館騒動やらイベント説明やらクイズ大会やら。バタバタしたせいで部屋を貸してほしいと来門に言い忘れていた。
しばらくは来門に関わりたくないが、致し方ない。
また来門に軽く騙されそうな気がして貫太は自分に気合を入れた。
自治会館についたが、千晶はまだ来ていないようである。ほっとして来門の元に赴くとフロックコートの王子様は貫太を見て、ふふふと笑った。
「なんだ、もうバレたのか」
貫太の表情を見ただけでわかるとは羨ましいほどのお察し能力。
自分もその能力がほしかったと貫太は心底思った。
「そのうちあれはちょっとした冗談だと教えようと思っていたんだよ」
思っていた。
思っていただけだ。スーも教えようと思っていたと言っていたが、教えてはくれなかった。
来門の澄ました笑みを見て貫太は顔が引き攣る。
「そのうちっていつですか?」
「そのうちはそのうちだよ」
そのうちなんてものは来ないと相場が決まっている。教えるつもりはなかったということだ。
バレなかったら、ずっと泳がせるつもりだったのだろう。なんて恐ろしい人なんだ。
嘘を真に受けて公民夫妻の話をペラペラと話し、それを聞いた人間が面白がって本当のことを教えてくれなかったら──。
二次災害三次災害どころではない。
昨日あの場に隆以外の人間がいてくれてよかった。隆だけだったら今目の前にいる来門同様、澄ました笑みを浮かべつつ真実を教えてくれることもなく、そのまま放流されていた可能性大である。想像するだけでゾッとする。
ぶるりと体を震わせた貫太に来門はまたきりりとした表情を見せた。
「ちなみにここに飾られている彫刻はわたしの叔父が彫ったものだよ。叔父は幼少の頃から天才と呼ばれていてね」
「へぇ〜、そうなんですかぁ〜」
ロビーの中央に鎮座しているうさぎの彫り物を見つめる。今まで気にしたことはなかったが、ふと思った。なぜうさぎなのか。
「叔父は卯年生まれだったせいか、うさぎばっかり彫っていたなぁ」
「へぇ〜。……って全部、嘘ですよね!?」
「ははは」
「やっぱりだ! 騙されませんからねっ!」
「面白いなぁ」
「面白い!? 面白いって言った、この人!」
騙される側は何ひとつ面白くない。
騒ぐ貫太に部屋の鍵を渡すと来門は外の人影に視線を移した。
「ほら、君の従者くんが来ているよ」
来門の視線の先に制服姿の千晶が佇んでいる。
貫太は千晶と合流しようとして歩きだしたが、ふと思い出したように足を止め振り返った。
「千晶ちゃんは従者じゃないです」
「まだ契約してないから?」
「違います。契約しててもしてなくても千晶ちゃんは従者じゃないです」
それだけ言うと貫太は来門の返事も待たずに歩きだした。
その後ろ姿を来門は嬉しそうに見送っていたが貫太はそんなことは知らぬまま千晶の元に向かった。




