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志望校変更と願書のことを家に帰ってから恐る恐る伝えると母は呆れたようにため息をついた。
「知ってるわよ」
「え?」
七宝に選ばれた学生が七宝学舎に通うのは一族の人間であれば誰でも知っていること。
弥彦からも連絡があり、すでに願書は取り寄せ済みであること。
担任の教師にも、すでに進学希望先の変更を伝えていること。
母は懇切丁寧に説明してくれた。
「意外なの。おとぼけお兄ちゃんが自分で願書のことに気づくなんてビックリなの」
「おとぼけ……」
「明日は槍が降るの」
「槍は降らないだろ」
「自力で気づいたの?」
そこに気づいてしまったか。
紅葉の鋭い指摘に貫太は黙して語らず。
幼いころから紅葉は無駄に勘がいい。
紅葉によって貫太のイタズラや隠し事はことごとく暴かれてきた。暴かれて怒られてきた日々を思いだす。苦い思い出たち。
貫太はそっと顔をそらした。
「いくらなんでもそれくらい自分で気づくでしょ。それでもだいぶ遅かったけどねー」
遅いとは言いつつ母は貫太をフォローしてくれたが、母の気遣いは貫太の心を抉った。
それくらいのことも気づかなかった自分を思うと顔が引き攣る。
そんな貫太の心中には気づくこともなく、ちょっとは気づくようになってくれて嬉しいと母はにこにこ笑った。
スーに教えられたことは墓まで持っていくことを深く決意する貫太であった。




