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以前、ここには公民館が建っていたため、公民館が移転し自治会館となった今でもそのときの名残で公民館と呼んでしまうと弥彦がそれらしいことを言っている。
「これは本当だぞ、貫太坊」
いまだにジト目の貫太を見て弥彦は苦笑いした。
来門のイメージが完全に変わった。あんなキリッとした顔して嘘をつくなんて。
スーは同じことを聞いていたはずなのに嘘だと気づいているし、間抜けすぎないかと自分で自分を罵倒する。それにしてもスーはどこで来門の嘘に気づいたのか。疑問である。
「あー、何だその、一息いれるか」
いまだ苦笑いの弥彦が提案する。貫太の手は完全に止まってしまった。
弥彦が手際よくりんごをむき始める。
「ありがとう、貫太」
スーの呟きが聞こえてきた。
いや、どういうことだ。礼を言われるようなことはしてない。
目が合うとスーはハッとしたように顔を背けた。口に出したつもりはなかったらしい。もしかしてりんごが食べられることの礼か、と気づく。
「めずらしい色合いのりんごだな」
確かにこんな配色のりんごは見たことがない。
八等分に切られたりんごを一口食べると「あ、おいしいねっ」と貫太は自分でもわかるほどに笑顔になってしまった。
おいしかったのだ。こんなにおいしいりんごは初めて食べた。
「単純だ」
真守が何気にひどい。
ふと見ると遠慮してるのかスーはまだ食べていなかった。
「スーさんも食べなよ」
貫太の勧めにスーはこくこくと頷き、ゆっくり口に運んだ。
「おいしすぎる……」
スーは思わずという様子でぽつりと言葉をこぼす。泣きそうになってるように見えるが錯覚だろうか。
「確かにうめぇな。店では見たことねぇが、これ売ってんのか」
「いや、売ってないですよ。これ地元だけしか出回ってないって話で、名前は確か……」
すぐに隆は思い出した。
「『初恋をとめ』だったかな」
「まさかの『初恋をとめ』派っ!?」
スーの叫びに全員の動きが止まる。
「あ、すいません」
「ねえ、どーいうこと? 教えてよ、ねえ?」
すぐさま自分の口元を押さえたスーにニヤニヤしながら隆が近づいていく。なんだろう、笑っているのに怖い。
あれは完全に獲物に見つけたときの隆だ。
貫太はスーに少し同情した。
隆にガシッと肩を掴まれたスーが貫太には蜘蛛の糸に絡めとられた虫に見えた。




