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「よう、貫太。今帰りか?」
振り向くとりんごがぎっしり入った紙袋を一つ抱えて隆が立っていた。
大学帰りのはずだが、買い物帰りとしか思えない姿に見入ってると、紙袋がかなり変形していることに気づく。りんごの詰め込みすぎだろうか。
「兄ちゃん、その袋……」
「ん? ああ、大学のな」
紙袋ではなく封筒だった。
貰い物のりんごを入れる袋がなくて手近にあった書類用封筒に詰め込んだらしい。
A4判がそのまま入る大きさの大学名などが書かれた名入れの封筒はりんごを無理やり入れたせいで歪な形になっていた。
隆は貫太の隣で所在なさげに立ち、どこか一点を見つめるスーに愛想よく笑いかけ挨拶と自己紹介をする。
どうもと言いながらスーも名乗りつつ、やはりどこか一点を見ていた。
貫太は気づいた。
りんごだと。
スーはりんごを穴が開くほど見ているのだと。
「りんご好きなの?」
「え? あ、いやあの……」
しどろもどろになるスーを見て、やはりと確信を深める。
二人のやりとりをじっと見ていた隆は唐突に「鈴木くんさ、このあと用事ないなら一緒に来ない?」と公民館での勉強会に誘った。
いきなりとんでもないことを言い出した隆をガン見してしまう。案の定、スーが戸惑っている。
「俺が行くのはダメなんじゃ……」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。宿題しといたら? わかんないとこあったら教えるよ。あ、貫太と一緒に問題集する?」
問題集はしないだろう。したくないだろう。
何を言ってるんだと貫太はさらに隆を強く見つめる。
ずいぶん強引だが、隆はどうやらどうしてもスーを連れていきたいらしい。隆が何を考えているかさっぱりわからない。つまりいつも通りということだ。
困ったように貫太の方をスーが見てきたので、隆に一応確認をとる。
あの部屋が七宝以外立ち入り禁止だというのは記憶に新しい。
「兄ちゃん、部屋だけどさ、えっと他の人いれてもいいの?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
何も考えていないような軽い答えだが、隆がいいと言っているので連れていっても問題はないのだろう。
「……大丈夫みたいだからスーさんさえよかったら来る? 俺も最初は宿題するから一緒にしようぜ。問題集はしなくていいから。したくないよね」
家庭教師代を支払ってるならスーを連れていくのはダメだろうが、隆には無償で教えてもらっている。
以前、本当に無償でいいのかと聞いたら七宝に関することは無償で行う決まりがあると言われた。無償でいいのかではなく無償でないといけなかった。
「……行く」
スーは相変わらずりんごをチラチラ見ている。
「で、りんご好きなの?」
「えっ」
突然の隆の追い討ちにスーは普通ですと小声で答えていた。
スーはりんご好き。
どこかで役に立つかもしれないので貫太は心のメモに書き留めた。




