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「は、はあぁぁぁっ!?」
「志望校変えた? 七宝学舎? あそこの偏差値……。え、間に合うのか?」
進学志望校の変更を告げると牛島は叫び、九条はめずらしく慌てた様子を見せた。
「スーも何か言えよ。首席様からありがたいアドバイスをしてやれ」
牛島がドンとスーの体を揺らす。スーは塾にも行っていないのに学年首位であり続ける男なのだ。何か成績が上がるコツを教えてくれるかもしれない。
期待をこめてスーを見つめる。
「……願書は?」
「え、願書……? あー……取りにいってない。かも」
スーはすぐに言葉が出ない様子だったが、ようやく口を開いたと思ったら期待したのとはまったく違う角度から攻めてきた。
それに対する貫太の返事に全員が絶句する。
かもとはなんだ。かもとは。
なぜ取りに行かない。
誰も口には出さなかったが、全員が何を言っているんだこいつはという顔つきになった。
「おい本当に七宝学舎受けるのか? だいたい公民館で勉強ってどういうことだ」
「公民館で塾みたいなことしてんの?」
「え、会議室で親戚の兄ちゃんに勉強教えてもらってるだけだよ。管理人さんに言えば部屋を貸してくれるって聞いてるけど」
「それ、部屋借りるのにお金かかるやつじゃね?」
貫太は明日、公民館の一室で千晶と話し合う約束をすでにしていたのだが、お金がかかるとは思っていなかった。管理人の来門に声をかければいいだろうと簡単に考えていたが、公民館はそんなふうに使う場所ではないなと遅まきながら気づく。
「わざわざお金を払って公民館の会議室を借りてそこで勉強を教える? よくわからない状況だな。家庭教師なら貫太の家でいいだろう」
「よし、じゃあ今からその公民館まで行こうぜ」
「何しに」
「確認だよ。確認。本当にそこは公民館なのかとかさ」
そんなことを確認してどうするのだと言いたいが、なぜか牛島はワクワクしている。公民館の確認でそんなにワクワクできる牛島を見てると不憫に思えてきた。日常にワクワクが足りないのかもしれない。
九条はうんざり顔で時間がデカデカと表示されているスマホを牛島につきつけた。
時間を確認し、これ以上の寄り道は塾に遅刻してしまうと悟った牛島は「じゃ、じゃあ明日」と往生際悪く言っていたが、そのまま九条に連行されていく。
「遊びに行けるか聞いとけよー!」
九条にずるずる引きずられながら、牛島は魂の叫びを放った。
スーと貫太は二人とも呆れ顔で姿が見えなくなるまで見送る。
「アイツ、そんなにアニメイベントに行きたいのか」
「だね。俺無理だったら三人で行ってきてよ」
「いや、小学生に混じるのはキツいって」
スーは頭が痛いとでも言いたげに眉間を押さえた。




