53
差し出がましいが、と前置きをしながら弥彦が千晶のことを聞いてきたので、貫太は食堂に向かっていたときのことを話した。
自分が契約に乗り気ではないこともあわせて伝える。
「そんなこと言ったか。そうさなぁ。契約したいのは鹿間の勝手な都合といえばそうだから……。あいつは気持ちの優しい奴なんで乗り気じゃねぇ貫太坊の気持ちを察してそう言ったのかもな。お前さんが断りやすいように。貫太坊も鹿間もお互いのことよくわかってるんだな」
「そう、ですかね? 会うのは幼稚園以来なんですけど」
「ああ、あいつは小学校から学舎に入ってるからな」
突然、千晶が七宝学舎の生徒であることが判明した。なんとも賢い幼馴染である。そんな人間を相手に主従関係を結び、自分が主人の立場に立つなど到底無理筋である。
やはりお断りするべきだ。
貫太は強く決意した。
「……幼馴染とは神使契約したくねぇか」
「紳士契約? 従者契約のことですか?」
「ああ、そういや、あいつらは従者契約って呼んでるな。本来は神使契約なんだが」
「向こうからしたら契約したいものなんですか? 契約しないと怒られちゃったりします?」
契約の名称をわざわざ従者契約と呼び変えるのだから、従わされてる意識なのだろう。好き好んで自分が縛られる契約を結ぶとは思えないが、もしかして報酬として七宝の恩恵が得られることがすごく重要なのかもしれないとふと思う。
「今回の鹿間みたいに契約したがる奴はいるだろうな。まあ、契約断ったって怒られることはねぇよ」
「そうなんですね。じゃあ契約したい人はやっぱり報酬の七宝の恩恵がほしいってことですかね?」
「完全にそれ目当てだな。それがなけりゃ契約するメリットねえからよ」
やはりそうだったのかという納得の気持ちと契約してまで七宝の恩恵を受けたいものかという若干の戸惑いが貫太の中で渦巻いた。
千晶が契約したがっているのはそれ目当てということだ。あの若さで寿命を気にするものなのか。
七宝の恩恵は隆の追放者の説明の時にでも出ていたから、気にはなっていた。
ありがたいことにマニュアルの巻末に索引があったので調べるのは容易だった。
七宝の恩恵とは即ち七福神の御利益のことである。七宝となった者は自分自身を通じて自分も含めた周りの人間にその受け継いだ力──御利益を振り撒く。
寿老人は長寿延命の御利益であるため、そこに存在するだけで長寿の恩恵を周りに与えることになる。
寝る前、意志に反して垂れ下がってくるまぶたと格闘しながら読んだマニュアルの内容を思い出した。
思い出すのに必死すぎて黙り込んだ貫太に弥彦はわかりやすく具体的に説明する。
「簡単に言えば貫太坊は寿老人だから長生き確定だ。周りの人間にも影響を与えるから関わりの深い貫太坊の家族も長生き確定だな。お琴ちゃん相当長く生きるぞ」
一瞬お琴ちゃんが誰かわからなかったが、安西琴──祖母の名前だと気づくと同時に祖母はそんな御利益なくても自力で長生きしそうだなと思った。
ただでさえ長生きしそうなのに、さらに長寿の御利益まであるとは。祖母は長寿運がある。
長寿運てなんだ。わかんない。
「七宝になるってことは一生もんの保証をもらうのと一緒だからな。七宝同士で繋がりができるのかわからねえが自分が受け継いだ力以外の恩恵も受けられる」
隆が勝ち組と言い切るはずだ。
神様に直接確認がとれないので断言はできないが、自分が受け継いだ力以外の恩恵も受けることができるらしい。
そのうえ、現役の時ほど強くはないらしいが印が消えた後もその恩恵は死ぬまで続く。
まさに一生物の保証であった。




