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「お待ちなさい」
家を出ようとしたら、祖母に呼び止められた。
何事だろう。すでに五時五十分なので、早く行きたい。
予定通り五時に起きれたので、のんびりしていたらいつの間にか時間が経ってしまっていたのだ。
「これを」
手渡してくるものをよくわからぬまま受け取る。
「べったら漬けです」
見たらわかることを祖母ははっきりきっぱり告げてきた。
「えっと、なぜべったら漬け……」
「今日は福禄寿と仕事だと言うので……」
「誕生日プレゼント?」
「違います。何を言っているのですか」
「違うの? クリスマスには早いし……まさかハロウィン?」
お菓子の代わりにべったら漬けを渡す年寄り。うん、あるかもしれない。
「違うと言っているでしょう! なぜ福禄寿になどプレゼントを渡さねばならないのですか。それは芳実ちゃん用です」
「よしみちゃん……」
誰だ。
祖母の話を要約すると弥彦の妻、芳実の好物べったら漬けでいいものが手に入ったので、ついでに持っていって渡してこいとのことだった。
「いいですか、芳実ちゃん用ですからね? 福禄寿には一切れたりともあげませんよ。まあ、どうしても食べたいというなら仕方ありませんが」
祖母のツンとした発言を背に神社に向かう。
「あれはツンデレって言うのかな……」
祖母の態度はなんなのだろうと思いつつ、現実のツンデレは可愛くないなと貫太はばっさり切り捨てた。
神社につくとすでに弥彦が待っている。弥彦の近くには大人の男二人と大柄な少年がいた。
「おはようさん。時間通りだな。今日は仕事ついでに紹介したい奴らがいて……何持ってんだ?」
べったら漬けが弥彦によって早速、発見された。
「おはようございます。えっと、祖母からです」
弥彦に渡すと物をもらう心当たりがないらしく不思議そうに中身を確認している。
「へえ……? お、べったら漬けか」
「はい、えっと……」
『芳実ちゃん用ですからね!』
「ご、ご夫婦でどうぞって言ってました」
芳実ちゃん用と強く主張する祖母の言葉が聞こえたが、それを振り払い、夫婦用ということにする。
とてもじゃないが、一切れたりともあげないだとか芳実ちゃん用などとは言えない。
弥彦は一瞬ぽかんとしていたが、覚えててくれてたんだなと嬉しそうに笑った。
「なあなあ、新しい寿老人、早いとこ紹介してくれよ」
人のよさそうな顔をした男が弥彦にせっつく。
「ん? あー、こっちの年寄りが亀吉でこっちの若いのが鶴吉な」
弥彦の手抜きな紹介に男は半目になる。
「おい」
「どうした、亀吉」
「亀吉じゃあ、ねえよ」
年寄り二人が戯れあっている。楽しそうだ。その後ろでもう一人の男がにこにこと二人を見守っている姿を見て貫太は思った。
この人達、すごく仲いいなと。
大人二人を紹介される。
紹介をせっついた男は弥彦と同い年の亀山鉄平。
もう一人は 真鶴維吹。弥彦とは二回りほど歳が離れている。
二人とも福禄寿の従者家系の人間であると名乗られたが、よくわからない貫太は「あ、どうも」と力の抜けた挨拶を返すのみだった。
「こいつらは亀吉と鶴吉でいいぞ」
「よくねぇ」
また二人で戯れ始めた。真鶴はにこにこと見守る。
貫太は思った。
よくわからないけどやっぱり仲いいなと。




