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「何、どうした」
それはこっちのセリフだと声を大にして言いたい。
反応できずにいる貫太を見て隆は訝しげだ。
貫太にとってはそんな隆のほうが訝しいのだが。
何を思って話の途中で雑学ぶっ込みをしたんだろう。
考えても答えが出ないため、疑問と共に戸惑いも脇に放り投げて会話を続けることにする。
「考えてもわかんないから、とりあえずそれはもういいや」
投げやりだなと隆はけたけた笑うが、貫太としては自分ができることはもう何もないと思った。
もし、また晴香から連絡があった場合はどうするか指示を仰ぎ、その通りに動くだけだ。
隆は会議で晴香を止める方法を探すと言っていたが、自分にはそんな方法思いつきもしないし、見つけることもできないだろう。
最終的に晴香を止めることができたら、それでいい。追放なんて後味が悪くて嫌すぎる。
それにしても見た目か弱そうな葉月が気の強そうな晴香に対して当たりがキツいというのもなんだかびっくりである。
見た目だけではわからないものだ。
最後まで解き終わった問題集を隆に渡しながら貫太は率直な気持ちを言った。
「今は明日の朝の仕事のほうが気になってるから」
七宝初仕事である。
五時に目覚ましをかける予定だ。
待ち合わせ六時は早過ぎだろう。仕事内容より起きれるかどうかのほうが心配でしょうがない。
「そっか。会議で気になったこととかわからなかったことは?」
問題集の丸つけをしながら隆が聞いてくるが、いくつかある疑問点はマニュアルを読んで確認しようと思っている。
ただマニュアルには答えが書かれていない疑問があるのだ。
「晴香さんて葉月さんを追放してどうするんだろ」
「ああ、それな。葉月サン追放できたとして晴香サンの立場は変わんねーもんなぁ。ま、色々考えてみろよ。わからなくても自分の頭で考えるのはいいことだ。よし、全問正解」
最後の問題に大きく丸をつけると隆が貫太を見てニッと笑った。
これで今日の勉強は終わったので、一息つく。
「兄ちゃんは明日起きれそう? 俺は一応、五時起きするつもりなんだけど」
「ん? ああー、俺は行かないぞ。今回は福禄寿と寿老人のコンビ仕事だからな」
コンビ仕事とは何だ。
それもマニュアルに書いてあるんだろうか。
「長寿パワー振り撒きに行くんだろ。ダブルボンバーで。弥彦さんにお任せしときゃ大丈夫だよ」
それは確かに大丈夫そうだ。安心感が半端ない。
「おんぶに抱っこで大船に乗ったつもりでいればいいよ」
「おんぶの上に抱っこまで!? さらに船に乗る……?」
貫太を抱えた弥彦が船に乗っているところを想像してみる。
……それはだいぶグラつくのではないか。
とんでもなく不安定さが増した気がする。
変な想像をするなと隆に注意された。なぜわかったのだろうと思うが、不思議なことに貫太の考えていることが隆にはわかるらしい。
暖かくして早く寝るようにと母のごとき注意をすると隆は客間に戻っていった。
風呂に入った後、ベッドにマニュアルを持ちこんで読むことにする。
「あ、やばい、もう眠いかも」
部屋に一人きりだが、声を出して目を覚まさせる作戦だ。一ページ読む間にも絶え間なく睡魔が襲ってくる。
夜は眠るためにあるんだもんなと言い訳をしながら、貫太は必死で目を開けた。




