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一族を追放されるとはどういうことなのか。
ふと貫太の頭の中に円卓で長老的な人達が一族追放を話し合う図が思い浮かぶ。
「追放者の証が手に出るってことでわかると思うけど、追放は人間の意思でどうにかできることじゃない。七宝の印と同じで神の思し召しだ」
全然違った。
「追放者は神の加護を失うから、人生、結構大変になるみたいだぜ」
七宝一族は力と共に神から加護をいただいたのだが、貫太は初耳だった。
貫太に限らず、そもそも一族の人間は総じて加護をいただいている自覚が薄い。
一族は加護によって世の中に当たり前に存在する、ありとあらゆる悪意から護られている。
その状況が当たり前すぎて自分が護られている自覚が生まれにくいのだ。
「そんなに大変なのかな」
素朴な疑問が思わず口をついた貫太に「大変だろうな」と隆はあっさり答えた。
「とりあえず一族外の人間のことをわかりやすく一般人って呼ぶけど、追放されるってことは加護なしの一般人になるだけだって思ったりしてるか?」
隆がそんな簡単なことではないと言いたげなのは理解した。
「表面上、仲良さげだけど裏では陰口言いまくる奴とか、普段から嫌な奴で敵対心むき出しの奴とか、悪意の塊の奴とかいるけど、でもお前の周り、そんな奴いないだろ? 人間関係のトラブルに巻き込まれたこともないはずだ」
どうだと問われ、考えてみると確かに対人トラブルとは縁遠かった。
小学生のころ、何が気に入らないのかやたらと嫌味なことを言ってきたり絡んでくるクラスメイトがいたが、突然、時期はずれに転校していなくなったことを思い出す。
いなくなった当時は離れられたことをラッキーとしか感じていなかったが。
「え、まさか……」
「身に覚えあるだろ? 加護のおかげだよ。そういうふうに自分では気づけないところで護られてるから自覚はしにくいんだけどさ。それに追放されたら一族の環境と恩恵もなくなるからな」
加護なしになるだけでなく、七宝一族の環境と恩恵に与れなくなることも追放者の人生を困難にする。
「俺達って恵まれてるんだ……」
初めて自分が恵まれているのだと自覚した。
自分を護ってくれていたものがなくなり、与えられていた何不自由ない環境がなくなり、当然のごとく受けていた七宝の恩恵がなくなる。
自分が恵まれていることにすら気づかない状態で追放となり、当たり前に受けてきた幸運がすべてなくなったら生きるのが大変に感じるだろうと納得するしかなかった。




