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 晴香との待ち合わせ場所に急ぐ。

 なんやかんやで時間を食ってしまった。


「マニュアル読んどきゃよかったなあ」

 気持ちが重くなる。

 読んでいたら──晴香が接触を図ってくることも、部屋を出る間際に弥彦に増やされた戦隊任務の意味もわかったのだろう。

 なるべく早くマニュアルを読もうと決意した。

 文字数が多すぎると眠気に襲われるけど、そこは何とかするしかない。


 待ち合わせている公園に着くと晴香はベンチに座って待っていた。

 晴香と目が合う。


「遅ーい。もうっ、終わったら連絡してねって言ったのに」


 晴香がぷぅと頬を膨らませるのを見て、貫太はドキドキした。

 今からこの人を引っ掛けるんだな、と思って。


 とりあえず当たり障りのない会話から始めることにする。


「すいません、どーも。みんなでちょっと話し込んじゃって。あのー、葉月さんとはお話、できました?」

「うん……。できたことはできたけど、大丈夫だからって言うだけで、何にも教えてくれないの」

 晴香は貫太の質問に悲しそうにしながら仕方ないというように笑ってみせた。

 いつの間にかタメ口なんだなと話の内容よりそっちのほうが気になる。


「葉月、他の人と上手くいってる? あの子コミュ障だし、上手くいくとは思えないんだよね。あ、もしよかったら私、葉月に付き添ってもいいんだよ?」


 晴香はいいことを思いついたとでも言いたげな雰囲気だ。葉月はコミュ障ではないだろうと考えつつ貫太は口を開いた。


「いやー、あの部屋って七宝以外は立ち入り禁止なんで……」


 晴香は「でも姉さんは……」と険しい表情で反論しようとしたが、すぐに表情を押し殺し、何かを飲み込むように口を閉じた。


「今回の件で当主として説明するために入りましたけど、終わったらすぐ出て行きましたよ。あのー、言いにくいんですけど、一族の人間だったらそれ、誰でも知ってることだと思うんですよね」


 立ち入り禁止については実は今さっきまで自分も知らなかったのだが、そんなことはおくびにも出さず、貫太はなぜその程度のことも知らないのだと言いたげに晴香を見る。

 貫太の視線に耐えきれなかったのか晴香は顔を逸らした。


「……私、あの家では除け者扱いされてて……。一族のこととかも何度も教えてほしいって頼んでるのに知る必要ないからって教えてもらえないし……。本当だったら受けられるはずの当主教育も全然受けさせてもらえてないんだ……」


 それは……嫌がらせ、ということだろうか。

 当主も葉月もそんなことをするようには思えなかったが、どういう経緯(いきさつ)でそんな扱いになったのか、家庭の事情がわからないので貫太は黙っていた。

 真守が言った貫太は一族の事情に疎いというのはこういうところなんだろうと痛感する。

 だが、教えてもらえないと言うわりに晴香は貫太より、よほど一族のことに詳しいように思えるが気のせいだろうか。

 貫太は晴香から目を離すことなく、晴香の話の続きを待った。


「就職したらいずれは家を出て行くように言われてるし……。あの家だって本当は亡くなった私のお母さんが継ぐはずだったのに。叔母さん達に乗っ取られたの」


 晴香は目を伏せると怨嗟を含んだ声で呟いた。


「あの家の正当な後継者は私なのに」


 その声音の低さに寒気が走った。


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