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「おめでとうございます」
「あ、ありが、とうございます」
連れていかれた公民館で真っ先に声をかけてきたのは大黒天、加山 紗帆だった。
紗帆は母清香より年上だが、二人は仲がよく、加山夫婦が営んでる食堂には家族でよく行ってる。
「さっき、清香ちゃんにも会ったのよ。喜んでたわぁ。またうちにも食べにきて。お祝いしなきゃね。今日の夕飯が楽しみねぇ。お赤飯かしら」
「えっと、あの、鯛と赤飯って言ってました」
「あらぁ、よかったわねぇ。山本さんとこにいい鯛が入ったって話だったから、きっとそれだわ。しばらくはご馳走続くんじゃない」
「安西んとこは貫太坊が初めてだからな。一週間くらい鯛なんじゃねぇか」
くつくつ笑うのは福禄寿、真島弥彦。
六十八には見えない若々しさで、悠々自適に年金生活をしている。
初めてとは何だろう。
だが、それを聞く前に弥彦が話を続ける。
「おう、そんなとこに突っ立ってないでお前ぇもこっち来な。こいつ俺の孫でな、灰田真守、弁天だ。ほれ、挨拶しねぇか」
弥彦は貫太達を遠巻きに見ていた少年を呼びつけると紹介した。
灰田真守──少年のことは知っていた。祖母の大のお気に入りの親戚である。
三味線の全国コンクール小学生の部で優勝し、インタビューされているのをテレビで見たことがある。
見たというか祖母に付き合わされて見せられたのだ。
三味線のことはさっぱりわからないが、それでも真守の三味線を弾く姿はかっこよかった。
真守と同じ三味線教室に通っているらしく、真守の凄さを語る祖母は親戚ということもあって誇らしげだった。