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廊下では二人の女性が睨み合っていた。
その一歩下がったところで俯き立ち尽くしている女性の手には毘の字がくっきり現れている。
「当主として命じます。帰りなさい。あなたの出る幕はありません」
「どうして姉さんにそんなこと命令されないといけないの。いいですよね、入っても」
ドアの近くにいる真守に自分の意志を押し付けるように言い捨て、部屋に入ろうとした瞬間、当主の拳骨が女性の頭に落ちた。
「えっ、に、兄ちゃん、今、グーで、全力でグーで殴っ」
「気をつけろよ、貫太。中山は武闘派だかんな」
「うえぇぇえ」
武力とは無縁の貫太は慄いた。
中山──決して近づかないようにその名を心に刻みつける。
忠告に続いて、全力で殴った中山家当主が中山穂乃花、殴られたのがその従妹、中山晴香であり、立ち尽くしているのが当主の妹、中山葉月であると矢継ぎ早に教えてくれる。
痛みに悶絶している従妹を放置し葉月の手を掴んで部屋に入ると穂乃花はドアの鍵をきっちり閉めた。
謝罪しながら最敬礼する。
「申し訳ありませんっ」
姉の言葉に合わせて葉月も最敬礼した。
穂乃花は頭も上げずに言葉を続けていく。
「此度のこと誠に申し訳なく思っております。ひとえにこちらの不手際であります。中山家当主であるわたくしから今回、妹葉月が役目から逃げ出した件について説明させてください」
葉月は印の顕現に気づいたとき、正直面倒だと思ってしまった。
そんなに面倒に思うなら逃げればいい、昔からの決まり事に縛られるなんて馬鹿げていると晴香に言われたことも葉月の逃げたい気持ちに拍車をかけた。
そして深い考えもなく、家に帰らず友達の家に泊まらせてもらっていたと。
当主の説明を簡単にまとめるとそういうことだった。
泊まってるときは友達に病院のボランティアや競馬に誘われたというところで紗帆が声を上げる。
「病院? それに競馬……? 競馬はしてないわよね。してたら無事なわけないし。そのお友達は一族の人間ではないわね?」
「家に泊めてくれた子は一族とは無関係な子です。競馬は、していません……。私利私欲で力を使うのはダメだと知ってましたし……。この度は皆様にご迷惑をおかけました。申し訳ありません」
「ここに来たということは毘沙門天として役目を果たすつもりでいるという解釈でいいのかしら?」
「はい。色々考えて義務を果たすべきだと思いました。七宝の皆様としては思うこともおありでしょうが、受け入れていただけたら、と思っています。あの……晴香をここに呼んでもいいですか? 今回のことでずいぶん相談に乗ってくれて……」
「何を言ってるの? ここに呼ぶべきではないわ。晴香はやたらと関わってこようとするし、あなたもどうしてあの子をそんなに巻き込もうとするの」
「私はただ……すごく親身になって話を聞いてくれたから、こういうことになったって報告したくて……」
「七宝が揃っているこの場でしなくてはならないこととは思えないけど?」
喧嘩を始めた姉妹を紗帆が手を打っておさめた。
「とりあえず、お役目を果たすつもりなら必殺技の特訓をしましょうか」
大黒天はまったくブレていなかった。




