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 七宝情報はもうお腹いっぱいだったが話はまだ続くようだった。


「恐らく誰かに言われると思うので言っておきますが。貫太、あなたは安西家初の七宝です」


 どこかで聞いた話を祖母がさらっと切り出す。


 安西家は常に無役(むやく)であった。

 安西という家が成り立ってから、これまで安西の家系からは七宝が一度も生まれてこなかったのである。

 

「俺が初めてってそういうことだったんだ。そこまで無役の家って他にないの?」

「ええ、一度も七宝が生まれていないのは安西家だけでした」

 

 祖母が苦く笑う。

 あまりにも長期間、無役のため七宝一族としての血筋が絶えているのではないか──そう疑われたことは何度もあった。

 安西家は継承してきた一族の力を示すことで一族であることを証明してきたのだ。


「一族の力……」

「手の甲に出てる七宝の印が見れるのが一族の力なの」


 誰に聞くともなしに呟いた貫太に教えてくれたのは紅葉だった。


「え、それだけ?」

「それだけです」


 貫太の驚きに祖母が一言で答えてくれる。


「それだけが一族の女であると証明できる唯一の方法です」


「お兄ちゃんは今まで隆お兄ちゃんの手の文字見えてなかったの」


 見えていたのかと妹を見ると隆お兄ちゃんは二年前から布袋なのと紅葉はこともなげに言ってのけた。


 確かに自分は見えていなかった。この二年間、隆とは何度も会っていたのに手の甲に文字があるなんてまったく気づいてなかった。

 なんなら二日前にも会ったがその時も気づかなかった。

 七宝となった今日、初めて気づいた。いや七宝となったことで見えるようになったと言うべきか。


 男と違って一族の女は全員、遅くとも10歳までには七宝の印を視認できるようになると聞いて、同じ親から生まれてるのになぁといまいち腑に落ちないが、実際自分は見えてなかったのだからそういうものなんだなと思う。


「そうそう、みだりに誰がどの七福神かは漏らしてはいけませんよ。しつこく誰がどの神の力を受け継いだか特定しようとする輩がいますが相手にしないように」


 朝から始まった情報の詰め込みはまだ終わらないようだ。情報の多さに頭が痛くなる。


「一族のこと、ちょっとくらい教えてくれてもよかったんじゃ……?」

「だってねえ? 今の今までずっと無役だったのよ? 貫太が七宝になるなんて思わないじゃない。知らせないのがベストだと思ったのよ。どうせ見えてないんだし」

 母は仕方ないのだと澄まして答えた。


「お兄ちゃん、明日からモテモテかもなのー」


 聞き捨てならないことを聞き、貫太がものすごい勢いで紅葉のほうに顔を向けた。

 自分をガン見する貫太に紅葉はたじろぐ。


「結婚相手を探すのはなかなか大変だから……その点、貫太みたいな印持ちの男は都合がいいわね。七宝のことも後継ぎのことも了解してるし。力にも目覚めてるし。相手が外部の人だったら説明をして納得してもらわないといけないわ」


 続けて、わたしは玄さんと出会ったからよかったけどなどと宣う母。

 父とお互いの名前を呼びながら二人の世界に入っていく両親を貫太は砂を噛む思いで見つめた。


 自分は今、何を見せられているのか。


 だが、母の次の言葉が貫太の気分を浮き立たせた。


「将来の結婚相手としてロックオンされる可能性大よ」


 結婚はちょっとまだよくわからないけど、モテるというなら文句はない。


 必死で真顔を維持しようと無駄な努力をする兄を紅葉は冷めた目で見ていた。


 人生初のモテ期。

 来るかもしれない。


「お兄ちゃんがニヤニヤしてるの」

「我が子だけど気持ち悪いわ」


 母よ、なぜ息子をディスる。

 でもそんなことも気にならない。


 そっかぁ。モテちゃうかぁ。


 寿老人になった甲斐がある。


「いいですか。いきなり結婚などと言われても迂闊に返事をしてはいけませんよ。一族、親戚といっても血は繋がっていないのですから簡単に心を許しては……聞いているのですか、貫太。貫太?」

「おばあちゃん無駄なの。お兄ちゃんはもう何も聞いてないの」


 妄想を膨らませていた貫太は祖母の注意を右から左に聞き流した。


 こうして少年の寿老人初日は終わった。


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