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妹の名前をくるみから紅葉に変更。
夕食に間に合った。
今、貫太の心を占めているのはその思いだけだ。
「今日は豪華だなぁ」
父がにこにこしている。
祖母と母も薄っすら微笑んでいるし、最近はあまり話しかけてこなくなってた紅葉さえも嬉しそうによかったねと言ってくるのだ。
寿老人になってよかったんだろう。
ドッキリでこんな鯛は出さないよな。
自分に言い聞かせながら貫太は鯛を堪能した。
夕食後、祖母から話があると言われ家族全員が食卓に残った。
食後のお茶で一息つくと祖母は貫太に頭を下げた。
「後継ぎのことであなたには嫌な思いをさせましたね。ごめんなさい」
「うえぇぇえっ。ど、ど、どうしたの、ばあちゃん」
驚きすぎて貫太はあわあわした。
頭を下げた。
あの祖母が!
安西家の後継ぎは妹の紅葉だと言われたのは貫太が幼稚園のときだ。
「かんたはいいよね。ちょーなんだもん。あとつぎなんでしょ。たいせつにしてもらえるよね」
幼稚園でそう言われた貫太は自分は後継ぎなのかと家に帰ってから聞いたのだ。
祖母はとんでもなく怒り、後継ぎは紅葉であり、何があっても貫太が継ぐことはないと断言した。
言われた当時は傷つくというより驚きのほうが大きかった。
あんなに怒った祖母を見たのはそれが最初で最後だ。
「公民館で聞いたかもしれませんが……一族では女が家督を継ぐと決まっているのです。あなたには一族のことを伝えていなかったので後継ぎが紅葉になる理由をちゃんと説明してあげられなくて……。理不尽に上からものを言うような形になってしまって申し訳なかったと思っています」
そうなんだ、としか言いようがなかった。
女を後継とするのは一族の力の継承を行えるのが女だけだからである。男は力を受け継ぐことはできても自分の子に力を受け渡すことができない。
一族の女からしか七宝は生まれない──長い年月を経て、でた結論だった。
「貫太は清香から力を受け継ぎましたが、あなたからあなたの子へは力の継承ができないのです」
祖母が労るように貫太を見つめた。
七宝一族として力を次代に継承できない人間に家督を渡すわけにはいかない。
そういうことなのだろう。
そればかりか男は七宝にならない限り、受け継いでいるはずの一族の力に目覚めることもない。
それならばいっそのこと一族のことは何も知らせずに育てようと思ったと母は語った。
「玄さんもごめんなさいね。あなたも後継ぎのことでは思うこともあったでしょう」
祖母はそう言って父玄にも頭を下げた。
「……頭を上げてください、お義母さん。それに関しては結婚前に説明されて納得した上で結婚してますので。約束も守ってもらいましたしね」
二人の会話を聞きながら家族の中で自分だけ何も知らなかったんだなと改めて知らされる。
父は貫太と目が合うと優しく微笑んだ。




