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閑話 恵比寿と大黒天、ときどき布袋尊による、えびすの行事 其の三


 帰りの新幹線で恵比寿達は大黒天と合流した。


「良い恵比寿でした。初仕事どうだった? あらぁ、ナオちゃん元気ないわねぇ。失敗しちゃった? でも失敗しようがないわよねぇ。技出せばいいだけだもの」

「……よい恵比寿でした、デース」


 帽子を目深にかぶった恵比寿は肩を落とし、のそのそと席に座った。


 大黒天は布袋にこれはどういうことだと目で問いかける。


「良い恵比寿でした。いやー、ナオちゃん、人前で商売繁盛ウェーブするの初めてだったらしくて、周りの人からすごい目で見られて心が折れたみたい」


 笑いを必死でこらえながら説明する布袋。


「……撮ってる人もいたデース」


「大丈夫よぅ。あ、もしかして聞いてない? まあぁ。隆ちゃん、それは良くないわ。意地悪よ」

「え、あれ言ってなかったっけ? あ、言ってなかったかー」


 布袋のわざとらしい言い方に何のことだと大黒天を見る。慈愛のこもった表情で大黒天は恵比寿に向かって頷いた。


「あのね、私達が技を使ってるときって人の記憶には残らないのよ。見てもすぐに忘れちゃうみたいなの。だから正体がバレるなんて心配もないし。写真? とられたって関係ないわ。神様パワーっていうのかしらね。お仕事してるときってなぜか写らないのよ。だから見られたって撮られたって平気よ。まあ、記憶にも記録にも残らないってわかってても、恥ずかしいわよね。わかるわぁ。わたしも初めてのとき、踏ん切りがつかなくてなかなか言えなかったもの。初仕事のときね──」


 大黒天の一人語りを聞きながら、恵比寿は向かいの席に座る男を睨みつけた。


「そんな怒んないでよ。大丈夫って言ったっしょ」


 ヘラヘラとまるで反省のない布袋に恵比寿がかみつこうとしたとき、大黒天が呟いた。


「そういえば誰にも聞こえないように小声で言えばよかったんじゃない? 心の中で言うって手もあるわよぅ。不思議だけどそういうときってキラキラも控えめなのよねぇ。あ、七宝になったばかりだから、ナオちゃんはまだそこらへんの技使えないのかしら。じゃあ、明日から放課後は特訓ね。公民館に集合よぅ。まずは小声で技を使えるようになりましょ」


「……えっ? 小声? 心の中?」

 勢いよく布袋を見ると恵比寿のその動きに合わせるように布袋はあさっての方向を向いた。


 コイツ、絶対知ってた……!

 きっと別行動となった後は小声で言うか、心の中で言ってたのだ。

 なんという性格の悪さ……。

 布袋、許すまじ……!

 恵比寿の心は怒りの炎で包まれた。


 技はある程度の声量ではっきり言うように指導されていた。それを裏付けるように七福神歴の長い大黒天や福禄寿もはっきりと言葉にしていたので、小声でも技が発動するとは思いつきもしなかったのだ。


「隆ちゃん、あなた本当にダメよ」

 大黒天も布袋がわざとしたことに気づいたらしい。

「悪戯では済まないわよ。こんなことしてると()()()()()()天罰が下るんだから」

「大丈夫ですよー。だってこれ俺が先代恵比寿にやられたことですもん。天罰下るならまず先代でしょ」

 先代恵比寿にされたことを根に持っていたということか。

 大黒天は悪戯好きの先代恵比寿を思い出し、ため息をついた。


「この話はまた帰ってからねぇ。初心者はまず大声で言わないと技が発動しないの。だからはっきり大きな声でって教えてるのよぅ。慣れたら小声でも発動できるって言ったと思うんだけど、言ってなかったかしらね? 昔はわたしも小声で言ったりもしてたんだけど、だんだん恥ずかしいって気持ちも薄れてきちゃって。ここ何年かは普通に言ってたわぁ」


 うふふと笑う大黒天のことを恵比寿は呆然と見つめた。

 そうだとするなら聞き逃したのは自分の手落ちである。

 聞いてさえいれば布袋の策略に引っ掛かることもなかったのに。

 大黒天の話は長いからと話半分、流し気味に聞いていたが、今度からは全身全霊で話を聞くことを誓った。


 次の日、恵比寿は小声での技発動の習得最短記録を打ち立てた。

 本えびすは恐ろしい行事でも何でもなかった。


 みんな気軽に福を受け取れ。

 何様だ。

 恵比寿様だ。

 恵比寿はふふんと得意げに思った。


 そして七福神の新メンバーが加入したとき、自分はなるべく丁寧に説明してあげようと恵比寿は誓ったのだ。

 でも──ちょっとだけ揶揄うのは面白いかもしれない。ちょっとだけ、ね。


 ちなみにその後、先代恵比寿と当代布袋は当代大黒天から罰を与えられたらしい。

 それから二人の悪戯癖はおさまったそうな。

めでたしめでたし。


めでたしめでたしってつけると話がなんか纏まるよね。

え、気のせい?

めでたしめでたし。

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