引っ越し
ゆったりと進めていくので、気長に待ってくださると、ありがたいです。
また、とあるゲームをイメージしながら書いているので、似てしまうかもしれませんが、ご了承ください。
冬の厳しさを乗り越え、力強く咲き誇る桜を眺めながら、俺は車に揺られていた。
俺は、明日から転校先の高校へ通う。転校理由は、よくある親の海外への転勤だ。俺自身外国には行きたくなかったし、親戚の家から学校に通うという事になった。
「のどかなもんだろ。最近は空き巣すらない平和な街だ。君もゆっくり学業に専念できるだろ」
「そうですね。ほんとに綺麗な街だ」
この車を運転しているのは、これから俺がお世話になる家の主、島崎 徹さんだ。今年で39歳らしく、小説家らしい。優しそうな表情と、柔らかい声音が、これからの暮らしへの不安を和らげてくれた。
「ねねっ!君が暮らしていた所って、どんなのなの!?都会って、やっぱり大きなビルがいっぱいあるの!?」
助手席に座り、俺に話しかけてくるのは、島崎さんの娘さんである島崎 明美さんだ。茶髪のボブカットに、ゆったりとしたセーターを着ている。俺と同じ17歳らしく、これから通う高校では同級生になる。
「色んなお店とかがあるよ。クレープ屋さんとか、タピオカ屋さんとか」
「おぉ!!」
俺の話を、明美さんはキラキラした目で聞いていた。どうやら都会に憧れがあるらしい。そのあとも、徹さんと明美さんとは他愛無い話で盛り上がった。
◇ ◇ ◇
「君の部屋は、二階に上がって奥にある部屋だよ。明美、荷ほどき手伝ってあげなさい」
「りょうかーい!」
「ありがとう。助かるよ」
徹さんと明美さんのお言葉に甘えて、明美さんと二階に荷物をもって上がる。
明美さんは、奥の部屋の扉を開け、早く来てと手招きをしている。
部屋に入ると、八畳はあるであろう広さの部屋だった。
「結構広いな」
「でしょう~!この部屋、この家で一番広いんだから!」
「そんな所、使っていいのか?」
「もちろんだよ!ささっ、荷物をさっさと片付けよう!」
明美さんはそう言いながら、段ボールのガムテープをはがしていく。
「私は、こっちやるね」
「あっ、それは――」
俺が止めるより先に、段ボールの中身を取り出した。
「あっ――」
明美さんが段ボールから取り出したのは、俺のパンツだった。段ボールの側面に、下着と書かれていることに気づき、止めようとしたが遅かったようだ。
「えっと、その……ごめん」
明美さんは、真っ赤になりながら、俺のパンツをそっと段ボールへと仕舞った。
……なんとも気まずい空気が流れた。
「や、やっぱりあっちの段ボールからするね!」
そう言いながら、別の段ボールをいそいそと開け始めた。俺も、近くにあった段ボールを開け、荷ほどきを始めた。
◇ ◇ ◇
荷ほどきを終わるころには、外は暗くなっていた。
「おーい、ご飯できたよ」
下から徹さんの声が聞こえる。廊下に出てみると、いい匂いが漂ってきた。
「だいたい終わったし、ご飯食べに行こっ!お腹すいたし」
その言葉に頷き、明美さんと一階へ降りる。
どうやら、今日の夕飯はカレーのようだ。
「いっぱい食べてくれ。おかわりはいっぱいあるから」
「はい。いただきます」
俺は、目の前にあるカレーを一口食べた。
……!すごくおいしい。口の中に広がるほど良い辛さの中に、奥深いコクがある。
「ははっ、そんなにおいしそうに食べてくれると、作った甲斐があったね」
どうやら顔に出てたらしい。少し恥ずかしい。
「お父さんのカレーおいしいんだよ!私大好き!」
そう言いながら、明美さんはパクパクとすごい勢いで食べている。
「そういえば、明日から通う学校まで道、分かるかい?」
俺は首を振った。
「まぁ、そうだろうね。明日は、明美と一緒に登校するといい。明美もそれでいいかい?」
「いいよ~!てか、そのつもりだったし!」
「ならよかった。じゃあ、明日は頼むよ」
「は~い」
「よろしく頼む」
「うん!こちらこそ」
屈託のない明美さんの笑顔に、思わず笑みがこぼれる。
◇ ◇ ◇
「えっとね、こっちの道を行くと商店街、あっちには総合体育館があるよ。友達とたまに遊びに行っているんだ~」
明美さんと学校まで一緒に登校している。
明美さんは、登校ついでに大まかな施設の場所を教えてくれた。
「ちゃんとした案内は、今度の休みの時にでも行こっ!」
「楽しみだ」
「私も!」
そのあとも、明美さんは色んな場所を楽しそうに教えてくれた。
「あっ!なっちゃん!おはよ~!」
明美さんは、曲がり角から出てきた女子に後ろから抱きついた。制服からして、同じ学校の生徒だろう。
その女子は、後ろで髪を結んでおり、その佇まいは凛としており様になっていた。どこか武士のような雰囲気がある。
その女子は、明美さんに抱き着かれ、若干鬱陶しそうにしていた。
「あいかわらず、朝からうるさ――元気ね」
「今うるさいって言おうとした!?」
「ところで、そちらの方は?」
「無視!?」
女子から雑にあしらわれ若干明美さんが涙目になっていた。
「霧野 悟だ。昨日から島崎さん家にお世話になっている。よろしく」
「今川 奈菜です。こちらこそよろしくおねがいします」
奈菜と名乗った女子は、丁寧にお辞儀をした。礼儀の正しい子だ。
「襟のピンをみるところ、同級生ですね」
「あぁ、だからそんなに畏まらなくていいぞ」
「いえ、これは癖のようなものなのでお気になさらず」
襟には、学年の色を表すピンがついている。一年は黄色、二年が赤色、三年が青色だ。俺と明美さんと今川さんは赤色のピンだ。
「では、今日は委員会があるので、お先に失礼します」
「もう!なっちゃんは堅いんだから~……」
明美さんは、頬を膨らませ、足早に去っていく今川さんを見ている。
「さっ、私たちも行こ!遅刻しちゃうよ」
俺たちは、他愛無い会話をしながら学校へと向かった。