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死なない君がおっちょこちょい【1/31完結】  作者: 市み
前章 死なない人達。
9/51

眠れない夜に

 中年の夜中は目が覚める。



「うぅ、トイレトイレ……」



 ん?

 ふと周りを見渡しても、不死ちゃんの姿が見えない。


 まさか今度こそ本当に出て行ったのだろうか!?

 そんな事を考えながら、俺は慌ててトイレに向かった。


 あれ、電気が付いて……?



「ぎゃー!? トイレから人が生えてる!?」



 逆さまになった少女の霊が、便器の中から伸びていた。

 恐怖でちびりそうだった。



「ってか不死ちゃんじゃん! その死に方はなくない!?」



 頭を便器に突っ込んで、サボテンみたいに手足を開いている。

 最低レベルの死に方だった。



「ごぽごぽ」



 俺が引っ張り上げると、トイレの水を吐き出す不死ちゃん。



「汚ねぇ……」



 トイレの中身が撒き散らされていた。



「死ぬとこやった!?」


「死んでたよね!?」



 色々と聞きたい事はあったけど取り合えず

 不死ちゃんを御風呂に突っ込んでおいた。






「出たデー」



 お風呂から不死ちゃんが出てきた。



「ちょっと匂っていい?」


「えー、照れるなー」



 恥ずかしそうにモジモジする不死ちゃん。



「いいから匂わせろ!」


「変態さんやー!?」



 トイレに頭を突っ込んでた人に言われたくない。



「うん。良い匂いだ、え、これが女の子の匂いか」


「御兄さん御兄さん?」


「あ、しまった! はめられた!? 俺は悪くねぇ!?」


「何も言うてへんよー」



 正体を現してしまったようだった。



「実は、二時ぐらいまで水道水の水滴が落ちるのを見てたんだけど」


「それ時給貰えそうなやつ!」


「このままじゃいかんってなーって、フラフラしてたら」



 不死ちゃんは胸元で手をグッとすると。



「気が付いたらトイレにダイブしててん!」



 力説した。



「うん、全く分からないぞ」


「ウチ、不眠症やねん」



 そっちじゃ無いですけど……。



「でも寝ないのは駄目だぞ、寝ない奴は大体性格悪いからな」


「凄い偏見やー」


「経験に基づいてますー」


「いっぱい経験したんやなー」


「てめぇ、喧嘩売ってるのか?」


「何で怒るん!?」



 てめぇは全国のDTを怒らせた!

 皆さん怒って下さい!

 こいつです!


 そう言いたい気持ちを、心の中に閉まっておいた。

 口に出したら終わりなのだ。



「しかし、不老不死だと睡眠も難しいのかな」


「そうなんかなー、前は寝れたんやけど戦争があってからあんまり寝れんくて」


「おっとー、急に戦前の話が来ましたね」


「見慣れた景色が焼野原やー、思い出の場所は記憶の中にしかあらへんねん」


「それは悲しいな……」


「せやー、戦争は良くないー!」


「それは勿論です」


「文化侵略も良くないー!」


「それは御互い様の所もありますけどねー!?」


「せやけど国がアニメやゲームに金出してへんやろー?」


「え、どうなんだろ……?」


「御隣の国はジャブジャブ使ってるデー」



 マジかよ。

 支援無しで戦っている業界に涙を禁じ得ない。



「途中で抜かれても良いようにジャブジャブいかんと!」



 それは抜くやつが悪くない!?



「ちなみに誰に聞いたの?」


「ネットで見たでー」


「ネットかよ!?」


「せやー!」



 ドヤーみたいに言っていた。

 信憑性は定かでは無い。



「けど思い出の場所がもう無いってのは悲しいね、俺も経験あるよ」


「そうなん?」


「俺の行ってた小学校がさ、閉校して」


「あらまぁ」


「中学校は新しく建て替えてさ」


「おぉー」


「高校は別の学校と合併して名前が変わってる」


「凄い、パーフェクトやんか」


「へへっ」


「ほな大学はー?」


「……」


「御兄さん?」


「大学って何でしたっけ」


「行ってないんやなー」


「高卒舐めんなよ!?」


「まだ何も言うてへんよー」



 まだとは一体。



「べ、別に行こうと思えばいつでも行けるし……」


「ごめんなー、長い人生高卒でもええと思うデー」



 何か微妙な慰めだった。



「さて、そろそろ寝るか」


「一人にせんとってー」



 そう言った不死ちゃんの顔は真剣そのものだった。


 考えてみれば夜の長い時間、ずっと一人で起きているのだ。

 それは悲しいことだと思えた。

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