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死なない君がおっちょこちょい【1/31完結】  作者: 市み
前章 死なない人達。
7/51

退魔人は貧困女子


新キャラ視点のスタートです。


 退魔の者。

 古来より人ならざるモノを退けて俸禄を得ていた家系。


 だが現在は依頼が無く、出稼ぎに出る始末だった。



「馬鹿じゃねぇの……」



 私は出稼ぎにやってきたその一人だった。


 はぁ、マジ怠い……。

 今日もクソみたいな上司とクソみたいな仕事をする一日だ。


 その割に全然金が無い。

 貧困だ、貧困女子だコレ。


 最近心が病んでいた。

 理由は他にもある。



「……!?」



 声が漏れてくる。

 アパートの隣が騒々しいのだ。



「ちっ」



 女の声だったな。

 前に見たときは冴えない感じの男だったけど。

 あんなのでも彼女ぐらいは居るのか。


 はぁ、ムカつく……。

 そりゃ誰かと一緒に住めば金は浮くかもだけどさ。

 それが嫌だから志願して出稼ぎに来た訳だし。


 マジクソだな、誰が悪い。

 私か? 政治か? 選挙行かない若者か? 上級国民か?


 全部だろー、ははははっ!?

 全部が悪いというのは最高に平等だった。


 その時、ドタバタと隣の部屋から大きな音が響いた。



「ちっ、いい加減しろよ!!」



 我慢の限界だった。

 私は隣の部屋のドアをガンガン叩く。



「喧しいんだよ、何やってんだぁ!?」


「わぁ、すみませーん!?」


「あぁん? すみませんで済んだら退魔人はいらないんだよぉ!」



 ガチャっとドアを開いて殴り込む。

 ぶん殴ったらぁー!!



「おんどりゃぁああー……?」



 目の前では、男が少女の胸に包丁を刺していた。



「ぎゃぁあああ人殺しぃいいいい!?」



 殺人現場に遭遇であった。



「ち、違いますって、逆だから抜いてるところだから!?」


「はぁ!? 人殺して抜くとか頭おかしいかよ!?」



 私の頭もおかしくなりそうだった。



「だから違いますって、この子自分で包丁に刺さったんですよ」


「そんなヤツ居ねぇよ!!」


「居るから涙目なんですけどー!? 不死ちゃんも何か言ってよ!?」


「そういうことなんよー」


「うぉ、まだ生きてる! こらぁー、離れやがれぇええ!?」


「ぐふゅえーっ!?」



 男を蹴り飛ばして少女を助け出した。



「大丈夫か? 処置なら慣れてるから任せろ」


「大丈夫なんよ、ウチは死なへんから」


「死なへんってそんな訳……」



 少女は苦しむ様子もなく。



「んーっしょ、ん-っしょ」



 包丁を揺すり抜いた。



「抜いたら血が出て失血死するぞ!?」



 だが、あまり血が出てこない。

 それどころか傷口が段々と閉じていった。



「な、これは!?」


「なぁー、ウチは死なへんのよー」


「まさか、魔の者か!」



 人ならざる者、まさかこの少女が!

 私は少女から離れると口上を上げる。



「退魔の心、親心! 人間世界を守ります!」


「ん-?」


「私は退魔人(たいまびと)72期生、三千世界(さんぜんせかい)!」



 そして左手を掲げて、右手を胸の下で横にする。

 退魔人の決めポーズだった!



「おぉー、大麻の人やー。あれー?」



 少女は何かを思い出したように首を傾げる。



「どうした、心当たりがあるのか」



 退魔人は魔の者の天敵だ。

 名前を聞いて恐れるが良い!!



「大麻って違法やなかったっけぇー?」


「大麻じゃねぇよ!? 退魔だよ!!」


「あ、思い出したー」


「今度こそ思い出したか」


対馬(つしま)をタイマって読んでた人おったよなー」


「大物ユーチューバーじゃねぇよ!?」


「よぉ知っとるー」


「知ってる事だけだよ!?」



 何だか調子が狂う女だった。

 だがそれでも人ならざる者だ、滅殺せねば!



「ちょっと待ってください」


「何ですか御隣さん、貴方も人ならざる者ですか?」


「いやただの巻き込まれただけの人ですけど」


「なら引っ込んでいてください、魔を滅します!」


「何故ですか?」



 男は立ち上がり私に問いかけてくる。

 そんな事は決まっている。



「それが退魔人の仕事だからです」


「仕事? 仕事って言いました?」


「それが何か?」


「誰が御金を払うんですか?」


「それは……」


「偶然会っただけですよね? 仕事の依頼でも無い。それだとただ働きですよ」


「なっ!? ただ働きだと……?」



 それは究極的に嫌な言葉だった。

 ただ働きをするぐらいなら、死ぬ!!



「嫌だー働きたくないー!?」


「じゃあ見逃して下さいもらえませんか? 見ての通り壊滅的におっちょこちょいなだけで人に迷惑は……」


「迷惑は……?」


「掛けないと良いなぁ……」


「何で懐疑的な何やろ!?」



 少女がツッコミを入れていた。



「俺が感電死しかけたの忘れたの!」


「あれはツルっと湯船に落ちてやなー」


「風呂場で携帯充電しないでって話だよ!?」


「……ふっ」



 何だろう二人のやり取りを見ていると、笑ってしまった。

 少しニヒルに笑ってしまった!



「いいや、何かするまで見逃してやるよ」



 ただ働きは絶対嫌だった。



「ありがとう、世界ちゃん」


「んな!? 何でちゃん付け何だよ、セクハラだぞ!」


「しまった、不死ちゃんの流れでつい」


「別に良いけどさ……」


「良いんだ」


「良いんやなー」



 二人がニヤニヤした顔をしている。



「う、うるせー! 私は仕事行くから」


「あ、俺も仕事。ちょっと待って」


「何で私が待つんだよ!?」



 しかし律儀に待ってしまう。



「じゃあ、行ってきます。知らない人が来てもドアを開けない様に」


「ラジャーやー」


「子供かよ」


「子供より手が掛かってますね……」


「ははっ」


「では、御二人さん。いってらっしゃいませー」



 深々とお辞儀をする不死ちゃんと呼ばれた少女。

 その姿と言葉に、少し懐かしい感覚を覚えてむず痒くなった。



「あぁ、行ってくるよ」


「行ってきますー。あ、待ってよ世界ちゃん」


「遅いんだよおっさん」


「まだ三十一だぞ!」


「おっさんじゃねぇか!」


「確かに……」


「納得すんなよ……」



 私は、凄く久しぶりに笑っていた。

 誰かと居るのが嫌で飛び出してきたのに、誰かと居る時に笑っている。


 そんな矛盾がやっぱり少し、むず痒い思いだった。

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