怒られっぞ!
コンビニに着くと、女性の店員さんが声を上げていた。
「能登さんに怒られっぞ!!」
「は、はぃー!」
もう一人の店員さんが釣られて声を上げた。
今日はいつもより忙しそうだ、棚卸でもしているのだろうか?
俺達は迷いなく下着を売っている場所へ向かう。
「おぉー、置いとる」
不死ちゃんは驚いていた。
コンビニに下着を置いているのは半信半疑だったらしい。
「何でも聞いてくれ、このコンビニに関しては町内で十番目ぐらいに詳しい」
「微妙な自慢やー」
下着売り場すら覚えているのだ!
割と詳しい自信がある。
けど……。
視線を動かすと、帽子を被った女の子が漫画コーナーに立っていた。
一番詳しいのは立ち読みをしているあの子だろう。
いつ来ても立ち読みをしていて、逆に凄かった。
「なぁなぁ御兄さん、こっちとこっち」
「ん? どうした?」
不死ちゃんに向き直ると。
「どっちがええ?」
そう言って二つの下着を見せてきた。
「ま、待て。タイムを要求する!」
「ターイム」
不死ちゃんの掛け声で試合は一時中断だ。
そう、この短い時間で俺は答えを用意しなければならない。
『どっちの下着がええ?』
その答えを!
まずは下着を見て見よう。
二種類を大別すると分かりやすい。
簡単に言えば、大人っぽいヤツか子供っぽいヤツか。
そう言える。
勿論語弊はある、正確にはそういう括りではない。
だが俺からしたら女子がどういう下着を普段履いているのか。
その、知識も経験も無い。
あるはずも無い!
「それはいいんだよ!」
「きゅ、急にどしたん?」
では次に考えるのは不死ちゃんにどちらが似合うか、だ。
これは俺の好みを反映してはいけない。
不死ちゃんが毎日使うことになるものだ、余計な私情はいらない。
”大人っぽいヤツ”を見てみる。
少し布面積が少ないのは最初の一瞬で分かった。
体をカバーする部分が少ないのは、欠点か長所か。
見られた時に困るのは面積が少ない方に違いない。
見てウォー! って戦が始まるのもきっとこっちだ。
「だからそれは私情だろうが!」
「御兄さんがおかしくなってもた!?」
反対に”子供っぽいヤツ”は安パイだ。
布面積が多いからカバーできる部分が大きい。
それは間違いない長所。
フリルが付いているのも可愛らしいデザインだ。
不死ちゃんに似合いそうなのもこちらに違いない。
だが待って欲しい。
これを選んだ時にロリコンだと思われないだろうか?
俺はロリコンだと思われたくない、だってロリコンじゃないもの。
いやホントにロリコンじゃないから、何でそんなことを言うの!?
「俺は違う!!」
「何が違うん!?」
またも私情に邪魔をされてしまった。
好みとは違うが、ここは”子供っぽいヤツ”にしておこう。
その方が不死ちゃんも使いやすいはずだ。
……使いやすい?
待て、俺は重要な視点を無視していた。
動きやすさを考慮した場合。
布面積が少ない”大人っぽいヤツ”の方が動きやすいのではないか?
可動域に服が引っかかって肩が凝ったりするのは良くある。
寝る時に腕が絞められた感じになって起きた時に腕が痺れたりするあれ。
間違いない、使いやすいのは”大人っぽいヤツ”だ!
俺は正解を導き出した。
諦めなかったからこそ辿り着けた!
もう二度と諦めたりしない、この答えをぶつけてやる!
喰らえー!!!!!!!
「お、俺はこっちの方が良いかなー」
大人っぽい下着の方を指差した。
「ふふっ」
すると不死ちゃんは少し笑う。
「御兄さん。エッチやなー」
「は、はぁ!? そそそ、そういうんじゃねぇし!?」
「そういうことにしとくわー」
勘違いされてしまった。
おかしい!?
完璧な答えを導き出したはずなのに!?
俺の一体何が間違っていたのだろうか……。
「能登さんに怒られっぞ!」
「あ、はぃー!?」
帰る時にも店員さん達が声を張り上げていた。
「能登さんそんなに怒るん?」
「いや、どうなんでしょうね……」
でも能登さんは良い人だと思います。
何となくそんな気がした。
「ふふ、ありがとな。この下着大切にするわー!」
「それはそれは」
何か意味深な話だが言葉通りだろう。
素直に受け取っておこう。
「さて帰って洗濯物でも干すか」
「ウ、ウチのは自分でするよ……?」
「そりゃそうですよね」
「うん! 任せ、つぇ」
つぇ?
何故か傾いていく不死ちゃん。
あ、これもしかして!?
手を伸ばしたが遅かった。
「ずべぇっ!?」
歩道の縁石で足を踏み外した不死ちゃん。
側頭部を強打していた。
「大丈夫!?」
「大丈夫やってー。ウチ、死なへんもん!」
平気なようだけど、頭から血が出て痛々しい。
起き上がるとフラフラしていた、脳震盪を起こしたのだろうか。
「下着は守ったでー」
「そんなの別に気にしなくても」
俺が買った下着を大切に持っている不死ちゃん。
そのせいで受け身が取れなかったのではないのか?
「うふふふー。ありがとなー」
そう言ってレジ袋を持って笑う不死ちゃん。
ちょっとズルいなって思うのだった。
これから、新しい生活が始まる。
肌寒い風が背中を押してくれている気がした。