狼少年【カラーイラスト有】
お風呂場で感電死していた不死ちゃん。
「取り合えず携帯を取り出さないと」
二次被害の恐れがある。
不老不死の不死ちゃんはノーカンだから、俺が一次被害になるんだけどね!
「あのー、あのさ。あのー」
風呂場を片づけた後。
俺と不死ちゃんは居間で向き合っていた。
あまりの出来事に言葉も無い。
あのしか言えてなかった。
「さのー」
頑張ってもさのしか出てこなかった。
「ごめんなさい……」
「何でこんなことを?」
「携帯の充電が無かったんで、つい……」
「だからって風呂場で充電は普通しないからね」
「こんなことになるとは」
「なるよなるよ! 経験不足ですか貴女様は!?」
「豊富なつもりなんや……」
気持ちだけではどうにもならなかった。
「充電ならこっちのコンセントで出来るからさ」
「ほんまや! こっちにも居たんやなー」
「居たよ! ずっと前から居たよ!!」
コンセントさんは、俺が来る前から居ました。
「分からないことは先に聞いて欲しい」
「でも迷惑じゃないん?」
迷惑を起こされる方が迷惑だが、まぁ言葉が過ぎるか。
「一緒に暮らしていくんだろ? そんなことを気にしなくていいよ」
「……! ありがとな御兄さん!」
「良いってことよ。さて、と現実を見ようか」
「ん、どしたん?」
目の前の不死ちゃんは、裸の上に俺のシャツを着ている”だけ”の状態だ。
”だけ”なのである!
不死ちゃんが着ていた下着は洗濯中だし、一つしか無いのも不便だろう。
「下着を買いに行くか」
「しゃがんだ時に破れたん?」
「貴女の分ですけど!?」
「え、でもウチの下着はあるよ?」
「いや、一個だと不便でしょ。現に今は履いてないし……」
「乾くの待てば大丈夫やよ!」
「こっちが気にするんだよ」
「そうなんやー。でも、この時間なら御店閉まってるんちゃう?」
「大丈夫、24時間開いてる店があるから」
「コンビニ! コンビニ行くん!?」
「何でちょっとテンション上がったの……?」
「コンビニは凄いんよ! 何か色々あって凄いんよ!!」
「知ってますよ。便利ですよねー」
割高なのも仕方ないレベルで便利だよ。
「うーん。でもウチ、御金無いんよ」
薄々気付いていた。
不老不死ということは定住するのも難しいだろうし、定職何て余計だろう。
きっと日陰を歩く様な生き方をしてきたはずだ。
「気にするなって。一人ぐらい養ってみせるさ」
「御兄さん……誰にでもそんなことを言うん?」
「言わねぇよ、言ってたら通報されてるわ」
「そっか、うん。ふふ、ごめんなー」
嬉しそうに笑みを見せる不死ちゃん。
「ほな、行こかー」
「お待ち下さい、その恰好で行くつもりですか……?」
「あかんかな?」
裸にシャツだけで外出は、流石に変質者だと思う。
「通報されても良いなら……?」
「それはあかんよ、おまわりさん怖いもん!」
前に何かあったんですかね……。
「取り合えず俺の服だけど、何か用意するよ」
「うん。ありがとなー」
俺達はアパートを出るとコンビニへと向かう。
坂を下りてから、別の坂を上る。
割と近く、徒歩で通える距離にあるのだ。
隣を歩く不死ちゃんを見る。
俺のジーンズと上着を着ていた。
素肌に俺の服を着ているんだよな……。
「御兄さん、聞いとる?」
「き、聞いとるよ!」
何一つ聞いてなかった。
「前に仮想通貨? ってのを買ったんよー」
「予想外のが出てきたね」
意外と先進的らしい。
歩きながら不死ちゃんの金銭事情を確認することになった。
「ほれがな、値下がりしてもうたんやけど」
「それは残念……」
「現金への戻し方が分からんのよ」
「踏んだり蹴ったりだ!?」
悲しい事情しか出てこなかった。
「おのれー、ウチの三千円をよくもー」
不死ちゃんは茶化したように笑った。
あんまり買ってなくて良かったね。
「全財産やったのに……」
「あんた滅茶苦茶だな!」
「やっぱり携帯持ってると余計なことをしてアカンなー」
そういう問題かな?
「あれ? 携帯大丈夫だったの?」
「うん、この子も不老不死みたいや!」
本人が感電死しても生きてる携帯とは。
「御金が増えるはずやったんよ」
「ネットにある金儲けの話は、基本的にカモを増やす為にやってるからね」
「そうやったん!?」
「金が儲かる話を他人に話したら、自分の取り分が減るし」
「ほんまや!」
「正しい知識を売りたい為に、間違った知識を拡散する人も居るし。他国の工作員が世論を操ろうとしてたりもする、ネットを過信してはいけないぞ」
「ほえー、凄いな御兄さん! 物知りや!!」
「はい駄目ー」
「え、どういうことなん?」
不死ちゃんは驚いた顔を見せた。
「これは俺が適当に思ったことなので、簡単に信じてはいけません」
「えぇー!」
「俺が稀代の大嘘付きなら教材を売りつけているところですよ」
「危ないところやった」
「まぁ俺は神的に優しいので安心していいよ」
「それも嘘なん?」
「これは嘘じゃねぇよ!?」
気が付けば狼少年だった。