感電
「実は大変なことがあるんよ」
不死ちゃんは深刻そうな顔をして言った。
俺は話を聞いてみることにした。
「ウチ、家無し子ちゃんです」
「なるほど」
「実はここにやっかいになろうと考えてます、やっかい勢や」
「勢力を主張してきた」
「御願いします! ここを追い出されたら見知らぬオッチャンのところに行かなアカンのよ」
「今と一緒じゃないか」
「ホンマや!?」
……おい。
「てか、何で見知らぬオッチャンのところに行くんだよ」
「ただで泊めてくれるらしいで?」
「誰が言ってたんさ……」
「ネットで見ました! パパ活言うんやろ?」
「それ体を売るやつだからな!? 止めてね!」
「そうなん? それは嫌やな……」
「そりゃそうでしょうよ」
「ウチ、そういうのしたことないしなー」
「そりゃそうでしょうよ!」
「な、何でちょっと嬉しそうなん?」
そんなつもりは無い。
「他にあても無いんよ、あかん?」
「んー」
少し悩む。
一人暮らしに慣れた身としては考えものだ。
だからこそ、いつまでも独り身何だろうけど。
しかし、可愛い少女(不老不死)と暮らすというのは別の問題がある。
色々と。
「な、なら御奉仕させていただきます、ご、御主人様」
「急にどうした!?」
「御奉仕されるのは嫌いなん?」
「そりゃ、ご奉仕が嫌いな男なんて……俺ですね」
「ここにおった!?」
面倒な男がここに居た。
「俺は誰かに尽くしたい方なの」
「そうなんや?」
「何だったら祀り上げたい!」
「適当なことを言うとるよね!?」
バレたか。
「俺の母親は義理だけど優しくしてくれたからさ。その分、誰かに優しくしたい訳よ」
「良い人やったんやね」
聖人にはなれない。
だからせめて、少しぐらい綺麗事を吐く人間で居たいと思う。
同時に、不死ちゃんに言えなかった言葉を思い出した。
「遅くなったけどさ」
「んー?」
「携帯を見ながら歩いては、いけません」
「……んん?」
「今日事故る前に言いたかった言葉、返事を聞かせて欲しい」
俺は真面目な顔をして言った。
死なない体だったとしても、大切なことは伝えておきたい。
不死ちゃんは考えた後、素直に謝った。
「ごめんなさい。確かに危険やな、二回もはねられてもうたし」
二回目は余所見だったけどね。
「それが聞けて良かった。それならしばらく居ても良いよ」
「あ、ありがとなー!!」
「目を離すのも心配だからね」
「そうなん? 御兄さんは、優しいなー」
「優しい人間は、もっと強いもんだよ」
「そんなことを言えるんも優しい証拠やよ」
俺たちは笑いあう。
いつまで一緒に居るか分からないけど。
ここに居る間ぐらいは……。
おっちょこちょいなこの子の動向を見守って行きたいと、そんな風に思った。
「ならば風呂を御借りします!」
「お、おう?」
「もうね、グチャグチャのドロドロなんよ」
よく見たら、体は治っても服はボロボロで汚れている。
今更気付いた……。
「ってか、家の中あっちこっち汚れてますねー!?」
「せや!」
「せやじゃねぇー!? さっさと風呂に行ってきて下さい!」
「はいなー」
「あ、洗濯機に服突っ込んでおいて、後で回しておくから」
「ありがとなー、ほな御先ー」
不死ちゃんはお風呂に向かった。
不老不死の少女か。
今までよく無事だったなと思う。
不老不死とは人間の一つの夢だ。
捕まって、実験材料にされたりしそうなものだが。
「不老不死より不思議かも知れないな……」
少しして、洗濯機を回しに脱衣所に向かった。
直ぐ横でシャワーの音が響いている。
「後で入るから御湯張っておいて」
「もう張っとるよー」
張ってるのかよ。
シャワーの音が止まると、鼻歌が聞こえてくる。
気持ちよさそうで何より。
俺は洗濯機のスイッチを入れると、脱衣所を離れようとした。
その時。
「びりりりぃいいいー!?!?!?」
急に人間とは思えない声が響く。
「ど、どうした!?!?」
「……」
不死ちゃんの反応は無い。
一体何が……?
俺はお風呂場の戸を開けようとして、気付く。
隣の洗面台から長いケーブル伸びていた。
それは風呂場の中に続いている。
これはまさか……。
「い、嫌な予感がする」
とても嫌な予感だった、命の危険を感じる程に。
慌ててゴム手袋と靴を履いて出直す。
「ゴムの長靴でもあれば良かったんだけど……」
覚悟を決めると浴室のドアを開く。
案の定、最悪の展開が其処にあった。
長く伸びたケーブルが浴槽の中まで伸びている。
「こいつ、やりやがった!」
風呂場で携帯を充電しながら使うのは自殺行為である。
浴槽の中に落としでもしたら、感電死してもおかしくない。
「でも、でもさ……」
当然の様に落とさないで欲しいんだけど……。