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死なない君がおっちょこちょい【1/31完結】  作者: 市み
前章 死なない人達。
3/51

退行化

「できたでー!」



 居間で待っていると、少女の声がした。



「おぉー、待ってました!」



 冷蔵庫にあった物を片っ端から入れた鍋がやってきた。


 正直な話、俺でも直ぐにできる料理だ。

 それでも俺の為に作ってくれたという事実が感慨深いものがある。



「あ、そうだ。一緒に食べようよ」


「ええってー、御兄さんの為に作ったんやから」


「そう言うなよ。俺たちの仲じゃないか」


「どんな仲なんよー」



 少女は笑みを浮かべる。

 しかし考えてみたら、俺達は名前さえ知らない仲だった。



「名前も聞いてなかったね」


「ウチは符楼不死(ふろうふし)いうんよー」



 ギャグみたいな名前だった。

 だけど、そんなことはどうでもいい。



「俺は俯木下弦(うつむきかげん)だよ」



 俺もギャグみたいな名前だから。



「下弦くん、えぇ名前やなー」


「不死ちゃんも良い名前さー」



 俺達は笑いあう。

 与えられた名前を貴ぶこととしよう。



「さぁ、いただくとするか!」



 俺は菜箸を取ると鍋をつつく。


 最初の具材は何かなー!

 ワクワクしながら、持ち上げたそれは。


 指だった。


 ……。

 最初に掴んだのは、不死ちゃんの指。


 小指っ!!!!



「あぁー! 其処におったんー!」


「其処におったんじゃねぇですよ! 指を煮込んでますけどぉ!?」


「だ、出汁でとるよー、きっと」


「出てない方が良いけどねぇ!?」


「あ、指食べるのは止めてや?」


「食べねぇよ!」



 菜箸を不死ちゃんの方に持っていく。



「ありがとなー」



 不死ちゃんは御礼を言うと指を受け取った。

 小指にくっ付けるとグーパーしていた。


 俺は改めて鍋に向き直る。


 正直、食べたくねぇ。

 だが、折角作ってくれた鍋だ。


 諦念のような覚悟を決める。



「いざ!」



 俺は白菜を口に頬張る。

 その時、不死ちゃんの言葉に衝撃が走った。



「ちょっと溶けとる」


「ぶふぅーっ!?」


「御兄さん、急にどしたんー?」


「どしたんじゃねぇよ、指溶けてるのかよ!?」



 不死ちゃんの小指は不自然にへにょっとなっていた。



「手の油がちょっとやよ、ちょっとー」



 そのちょっとが割と致命的だと思うんだけど!?



「はっ、これが脂肪吸引!」


「脂肪融解って感じですけどねぇ!?」



 本気で喰うのが嫌になってきたぞ。

 どうすんだよコレ……。


 鍋は具沢山、たんまりと作られている。


 俺の心は追い詰められていた。

 縋るものは無い、目の前の現実を受け入れるしかない。



「たーんと御食べやー」



 不死ちゃんはそう言うと笑みを浮かべる。


 ……。


 今日は色々なことがあった。

 死なない少女に出会い、ご飯を作ってもらうことになった。


 それ以前に仕事で普通に疲れている。

 頭もちゃんと働いていない。


 だからだろう。

 何か魔力のような物を感じている。



「御食べー」



 不死ちゃんは笑っている。

 母親ような優しい眼差しで。


 遠い記憶にある、懐かしい眼差し。

 大切なことを思い出して俺は。


 俺は……俺は……………。


 退行してしまった。



「ぼく、たべるよ!」



 げんきよくへんじをすると、ぼくは”おわん”をてにとります!

 ぐらつくしかいで、いきおいよく”はくさい”をたべます!



「うん、おいしい!」



 ちゃんと出汁も取ってるし、鍋になってる。

 不老不死の実力は伊達じゃなかったなー、あははー。


 ”何か(ちのう)”を犠牲にしてムシャムシャと頬張る。


 今の俺には”何を”犠牲にしたか分からない。



「良かったぁ」



 不死ちゃんは心底嬉しそうに笑った。



「あー、飲み物用意するなー」



 不死ちゃんは立ち上がると、冷蔵庫に向かう。

 キンキンに冷えた自家製麦茶の登場だ、そろそろ底にカビが生えてそうなヤツ。



「コップ何処やろ?」


「うえのほうだよー、あははー」


「急に上機嫌やなー、良かったわー」



 不死ちゃんは俺の様子に満足しているようだった。

 コップを見つけると早足で帰ってくる。



「おまた、あっ」



 そして何かに躓いた。


 瞬間、スローモーションのようにハッキリと全てが分かった。

 不死ちゃんは、もうこれしかないという軌道を描いて……。


 バシャンっと、顔から鍋に突っ込んでいった。


 …………。


 熱々の鍋に顔を突っ込んだ少女を見ながら。

 俺は白菜をすすった。


 うん、おいしい!



「て食べとる場合かぁ!? 大丈夫かぁ!?」



 自分にツッコミを入れてしまう。


 俺は不死ちゃんの犠牲により。

 大事な”何か”を取り戻したのだった。

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