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死なない君がおっちょこちょい【1/31完結】  作者: 市み
前章 死なない人達。
2/51

押し込まれる強盗

 何とか自宅の前に帰ってきた。

 家は坂の上にあるアパートの一室だ。


 人気は少なく、人が来ることも少ない場所にあった。



「ふぃー、今度こそ到着やー」



 少女は手で顔をハタハタと仰いでいる。

 死なないと言っても体力は無いらしい。



「俺も気疲れしたよ……」



 坂道でこけた少女が、そのまま転がっていったからだ。

 危うく三度目の交通事故が発生していた。



「坂道は苦手なんよー、すぐ疲れてしまうん」



 転がってしまった理由のつもりだろうか。



「いつも同じ状態に戻るから筋肉も増えへんし」



 体が再生するというより、元の状態に戻るという感じなのだろうか?



「筋肉増えないのは、女子的に悪いことでもなくない?」


「んー、せやけどこれ見てー」



 少女は上の服をピラッとめくる。

 街灯に照らされた陰影が目の毒だった。



「ちょっと御腹出とるやん? これ恥ずかしいの」


「わ、分かったから服をめくるの止めて」


「どうしたんー?」



 首を傾げた少女。

 恥じらいはないのか!?



「い、いいから。さっさと入ろう」



 一階にある一〇一号室が俺の部屋だ。

 安アパートだが独り身には上等な建物である。


 鍵を開け、ドアを開く。

 その隙間に少女が頭を突っ込んだ。



「御邪魔しますー」



 真っ暗な部屋に声だけ響いた。



「誰も居ないからね」


「それはそれはー」



 少女はスィーっとこともなげに入っていく。

 男の部屋に入るのに警戒心も何もねぇな。


 俺が明かりを付けると、少女は靴を脱いで廊下に立った。

 クルッと回るようにこちらに向き直る。



「ほな、御礼するなー!」


「どんな御礼してくれるの?」


「ふふん、それはなー」



 少女はニコッと笑うと、おもむろに家探しを始めた。



「え、何探してんの……」



 前振りも無く人の家の中を!?



「見つけた、これや!」



 少女はあたりを付けていたのか、それを見つける。

 こちらを向くと”包丁”を見せてきた。



「なっ!? 待て落ち着け、話をしよう!?」



 押し入り強盗だったか!

 ってか、入れたの俺だ!?



「んー、どしたん?」


「金か? 金なら無い!」


「無いんかー」



 残念そうな顔をする少女。


 何ということだ。

 可愛い顔をして俺から奪おうとしている!


 全てを!!



「せめて命だけは……」


「取らへんよー、人間の命は一個だけ。ちゃんと分かっとるからー」



 少女は少し悲し気な顔をした。

 人間の命って言葉が少し引っかかるな。



「じゃあ、包丁を持って一体何を?」


「ウチが料理するデー!」



 料理するデイ。

 まるで、料理をすることが決められた日のようだった。



「料理とかできるのって思ったけど、不老不死だもんな」


「せや。経験豊富やー」



 経験豊富なのかー、そうなのかー。

 あまり深くは聞きたくなかった。



「美味しいの作って、さっきの御礼や!」


「そんなに気にしなくて良いのに」



 俺は取り合えず手に付いた血を洗いに行く。



「あ、冷蔵庫の食材使うデー」



 食材使うデイ。

 まるで、食材を使うことを決められた日みたいだった。


 俺は全て任せると伝えると、少し寛ぐことにした。

 今日も仕事だったのだ、多少の疲れは残っている。


 この年になると、いちいち体力不足を感じるなぁ。

 トイレを済ませると、部屋のテレビを付けた。



「へへ、今時テレビ何か見てる俺変わってるでしょ?」



 ちゃらけたように声をかけた。

 人が家に居るのが新鮮で、絡み方が行方不明だった。



「何なんそれー、好きな番組があるんー?」


「ううん、一通りチャンネルを変えた後に。切るんだ……」


「ホント何なんそれー!?」



 ファッション視聴者だった。



「ちなみに集金のおじさんが月2回来ます」


「それめっちゃ払っとるやん!? 過払い請求しとこー」



 毎回違うおじさんが集金に来るのも怖かった。

 あいつら何なんですかね……。



「携帯で音楽でも流しておきますかね」


「ほいな、ちゃちゃっと作っちゃうぜー」



 俺は自分の好きな曲をこっそりとかけた。

 こういうところで密かにアピってしまうのである。



「ええ曲やんー」


「お、分かります?」


「分かる分かる……、あぁ!?」



 少女が急に声を上げる。



「どうしたの?」


「んー、指切ってもうたー」


「大変だ、大丈夫?」



 俺は少女の元に駆け寄る。

 机の上は血まみれだった。



「派手に切ってるじゃないか」


「うん、一本どっか行ってもたー」


「はい?」



 少女の左手を見る。

 指が無い。


 全部!!



「はぃいいいい!?」



 一本も無いんですけど!?

 少女は左手の指を全部切り落としていた。



「どういうこと、何で指全滅してんの!? 指ギロチンなの!?」


「やってー」


「やってーじゃねぇよですよ!?」



 切られた指がまな板に残っている。

 正直グロい。



「何でこんなことに……」


「ウチな。こう指で白菜を抑えて、ザクっとやったんよ」


「猫の手は!? 野菜切る時は猫の手にしようねー!!」


「そんな裏技が!」


「基本技ですからね……」



 経験豊富とは一体。

 あまりにも杜撰な仕事だった。



「取り合えず片づけよう」



 まな板の上は真っ赤だった。



「いくら不老不死でも、こんなに血を流してて大丈夫なの?」



 見ていても血は再生していない。

 体とは違って元には戻らないようだ。



「鉄分取っとけば大丈夫やと思うよ」



 何か色々と設定がゆるいな……。



「指を探すの手伝おうか?」


「大丈夫大丈夫! 向こうで待っててー」



 いつの間にかくっ付いた指で押し出された。

 ……ホントに一本足りてないし。



「白菜は洗ってね」


「任せとき。鶏肉も洗うデー」


「それは止めてください!?」



 雑菌が飛び散るからね!

 食中毒を未然に阻止しておいた。

イメージイラスト。


挿絵(By みてみん)

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