夏休みの宿題を最終日ギリギリに終わらせるタイプの俺は幼馴染の女の子が留学すると聞いてもなかなか告白できずにいます。
「私、来月から留学するの」
「え!?」
部活からの帰り道、何の前触れもなく切り出された幼馴染兼マネージャーである一華の言葉に、驚きの声を漏らしてしまう。
「留学!? お前が?」
「そうよ。ファッションの勉強をしに、ニューヨークのFITに行こうと思うの」
脳の処理が追い付かない。
「FITって、大学だろ? 俺たちまだ高2じゃん。来月ってどういうことだよ!」
「高校卒業していきなり現地に行って、すぐ馴染めると思う? 授業だって英語なんだよ? 大学入る前に現地に慣れておこうと思って、早めに行っとくんだ~」
「行っとくんだ~って……」
俺たちは幼馴染で、幼稚園も小学校も中学校も高校も同じだった。ずっと一緒にいた。
それがこうも突然、別れが来てしまうとは。
「じゃ、明日斗。今日寄るとこあるから私はこっち。また明日ね~」
そう言って一華は別の道に曲がっていく。
一人になって、一華の発言についてじっと考え込んでいたが、しばらくしてふと我に返る。
「帰って夏休みの宿題終わらさないと……」
* * * * *
今日は夏休みの最終日だ。
だというのにもかかわらず、宿題がまだ終わっていない。
夏休みとはいえ、お構いなしにサッカー部の練習があり、それで忙しくて宿題が終わっていないのだ。
と、いうのは言い訳で、小学生の頃から今の今まで、夏休みの宿題はすべて最終日ぎりぎりに終わらせている。
この癖は生涯治らないだろう。
この前読んだ本で、この現象は「パーキンソンの法則」と言われていることを知った。
「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」なのだとか。
意外とやり始めるとすぐ終わるのに、やり始めるまでになかなか気が進まないんだよね。
「今度の夏休みは宿題を早めに終わらせて気兼ねなく遊びつくすぞ!」と何度思ったことか。
結局次の夏休みの宿題も、最終日ぎりぎりに焦って終わらせるのだ。
小学生の頃は一華によく手伝ってもらったなぁ~。
しかし中学生になると「その癖早く治しなよ。いつまでも物事を先延ばしにしてると後悔することになるよ」などと言われ、手伝ってくれなくなった。
ちなみに一華とは仲がいいが、彼女でも何でもない。そういうことを意識したことはない。いや、嘘だ。意識しまくっている。
しかし、この関係が壊れてしまうのが嫌で、この想いは心の奥底にしまっている。
一華には好きな人がいるのだろうか。うっ、考えたくね~。
っていけないいけない。宿題やらなきゃ。
* * * * *
深夜4時になって、ようやく宿題が終わった。疲れた。
「今度の夏休みは宿題を早めに終わらせて気兼ねなく遊びつくそ……」
寝落ちする瞬前で、もう次の夏休みからは宿題がないことに気が付いた。
いつまでも物事を先延ばしにしてると後悔することになるよ、か。
「一華にもいつか恋人ができるのかな」
留学で渡米する前に、一華に告白しようと決めた。
* * * * *
一華が日本を発つ日が来てしまった。
結局告白はしていない……。
「まだ時間があるからタイミングが来たら告白しよう!」と思って、ずるずる最終日まできてしまった。
完全に夏休みの宿題パターンだ。
しかし俺には1つだけ自信があることがある。
どれだけぎりぎりになろうとも、一度だって夏休みの宿題を終わらせられなかったことがないのだ!!!
朝早く、一華の家のチャイムを鳴らすと、もう空港に向かったとのことだった。
* * * * *
「あいつ、13時の便じゃなかったの!? 家出るの早すぎだろ……」
息も絶え絶えで空港を走り抜ける。
ようやくたどり着いた国際線の保安検査場の入り口で、そこに並んでいた一華を見つける。
「おい! 一華! はぁはぁ……」
切れた息を整える。
「明日斗!?!? どうしたの!?」
一華は驚き戸惑っている。まぁ驚くだろうな。別れは昨日済ませたはずだし。
「一華、俺はお前が好きだ!!!!!!」
周りの人たちをお構いなしに、一人空港で叫ぶ。
「ずっと昔から好きだった!! 小学生……いや、幼稚園の頃から! ずっと好きだった!! お前は俺のもんだ!!!! だから、ニューヨークに行って、他の男を作らないでほしい!!!!!」
あたり一辺が静まり返り、大量の視線が俺に降り注ぐのが分かる。しかし、そんなこと関係ない! ぎりぎりになろうが、俺はやるときはやるんだ!
心臓の音が高鳴る。一華はどういう反応を示すか。下手すりゃもう一華とは関われないかもしれない。吉と出るか……凶と出るか……。
さぁ、どっちだ! どんとこい!!
「あ、ニューヨーク行くっていうの嘘だよ?」
「は?」
「あ、これ? ちょっと気分転換に東京で買い物してくるだけ」
ふざけんなあああああああああああ!!!!!! それはやばいだろああああああああ!!!!!!!
ん?
「東京!?!? ここ国際線のフロアだろ!?」
「うん、だってそうでもしないと、あんた告白してこないじゃん」
「は?」
一華がふぅと息をつく。
「私も幼稚園の頃からあんたのこと好きだったよ? あんたも私のこと好きなんだろうな~ってのも気づいてた。で、いつ告白してくんのかな~ってずっと待ってたんだけど、全然してこないじゃん。あんたは何でもかんでもギリギリになるまでやらないタイプ、でもギリギリになると必ずそれを成し遂げるよね。十数年も一緒にいるんだから分かるよ。ほら、やっと告白してくれた!
『他の男を作らないでほしい!!!!!』って笑 もっと他にないの? 『付き合ってください!』とかさあ笑」
一華が……幼稚園の頃から俺を好きだった……? 俺が……一華のことを好きなのを知ってた……?
「お前が俺のことを好きで、俺がお前のことを好きなの知ってたんだったらさ、お前から告白してくれればいいだろ?」
「はあ? なんで女の子から男に告白しないといけないわけ? 普通男からでしょ?」
めんどくせえええええ!!!!!
「あ、そろそろ国内線のフロア行かなきゃ」
俺を騙して告白させるためだけに、早くから家出てここに並んでたのかよ……。
……。
「あのー、俺と付き合ってくれます?」
「もちろん!」
こうして夏休みの宿題を最終日ぎりぎりに終わらせるタイプの俺だけど、無事幼馴染にその性格を見抜かれ、大切な彼女ができました。
今回の反省を生かしまして、プロポーズは早めに申し込みました。
またいじわるされる前にね。