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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
魔王の改革

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85 サナヘ領へ(6)

 警戒していた様子のスノーウルフだが、何も攻撃して来ないと思ったのか、空腹を我慢出来なかった一頭がボアーに咬み付いた。

 それを合図にしたように、他の5頭も寄って来て食べ始めた。


(いかずち)の片鱗よ我の願いに応え、魔力を糧に発動せよ、電撃!」


マギ領の子爵令嬢で執行部のメンバーでもあるチェルシーさんが、電撃の魔法陣を発動する。

 すると銀色に輝くの魔法陣が地面に現れ、ボンテンク先輩にも負けない電流がスノーウルフを襲った。


 あまりの衝撃で身動きできないスノーウルフに、とどめの攻撃をするミレッテさんは、俺に鍛えられたエアーカッターを放ち、スノーウルフの首を狙う。

 魔法陣を発動したチェルシーさんも、得意の氷魔法でガンガン攻撃していく。


 ……う~ん。うちの学院は女子の方が度胸があるよな。頑張れ男子。


 最初に攻撃を食らった仲間を助けに向かった残りの5頭の内一頭だけが、ボンテンク先輩の放つ電撃魔法を避けて、城壁を駆けながら登っていく。


「一頭壁を越えます! 位置、門より5メートル右!」とスフレさんの声が響く。


「任せろ!」と後衛が声を上げ、全員で攻撃態勢に入る。


 後衛は毛皮や肉を気にせず攻撃しても良いと告げていたので、一頭に向かって全員が攻撃を仕掛けていく。鬼気迫る攻撃で、あっという間に大きなスノーウルフは討伐された。



 聞こえてくる声を聞いて、なんとかなりそうだと判断した俺は、変異種と対峙するためかまくらを出る。

 スノーウルフの変異種は、両脇にスノーウルフではなく、灰色に近いシルバーの毛並みを持つシルバーウルフの大きな成獣を2頭を従えていた。


 ……へえ、スノーウルフとシルバーウルフが行動を共にするとは珍しいな。変異種とは、これまでの常識を変える存在なのかもしれない。


 これから戦っていかねばならない変異種という存在に溜息が出そうになるが、ここで俺が面倒がっていては何も始められない。


 気合を入れ直そう! 両頬をパンと叩いて目に力を入れ、敵を睨み付ける。

 向こうも俺の存在を警戒してか、首だけではなく体を俺の方に向け直し≪グー、ウーッ≫と唸り声を上げる。


 すると、両脇に控えていた感じのシルバーウルフが、全速力で俺の方に向かってきた。


 ここで時間なんて掛けられない俺は、自分の眼前にシルバーウルフが来るのを待ち、勝ちを確信し噛み殺そうと飛び上がるタイミングで、2頭の腹に向かってエアーカッターを放った。


 この戦法は、間近でないと成功しないが、外す気がしない。

≪ギャウ≫と空中で鳴いて、シルバーウルフはどさりと雪の上に倒れ、真っ白い雪が赤く染まっていく。


 仲間が殺られたと分かると、変異種は≪フー、グー≫と低く唸り、一気に跳躍し鋭い爪を持つ前足で俺を攻撃してきた。

 俺は後ろに飛び攻撃を躱すと、反撃のタイミングと攻撃方法を思考する。


 それにしてもデカイ。体長は5メートル近いし首だって半端なく太い。

 しかもよく見ると毛並みが普通と違い硬そうだ。弓や剣で倒すのは無理だろう。


 まあ、変異種はただ大きいだけじゃない。

 目の前の変異種の牙は、スノーウルフでは考えられないくらい大きく、牙だけで1メートル近くあるだろう。


 素材的には美味しいところ満載だ。毛皮が硬そうなのは残念だけど、それはそれで防具にもなるし使い道はある。

 つい値踏みしてしまう癖は抜けないけど、それだけ自分に余裕ができてきたって考えればいいか。


 お互い睨み合ったまま、長い長い1分が過ぎようとしたところで、驚いたことに足の爪と牙が銀色に光り始めて、如何にも変異種ですという姿を現していく。


 ……なんて禍々しいんだろう・・・


 今のところウルフ系は毒を吐いたり、火を吹いたりしないことは確認されているから、爪と牙に気を付ければいい。

 だが、あの巨体に捕まったら命はない。


 スノーウルフの変異種がニヤリと笑ったのと同時に、俺は魔法陣の詠唱を開始する。


「我が指に集え、誓約の魔力()を捧げし我に力を! 閃光の弾丸」


 上級魔法の魔法陣を発動すると、突き出した右手の人差し指の先に、大きさ50センチ程の金色の魔法陣が現れて、強く輝きながら高速で回転していく。


 突然指先から青白い炎が噴出し、炎が魔法陣を通過すると拳くらいの大きさになり、一発、二発と目では追えぬ速さで撃ちだされていく。

 その炎の弾丸は、スノーウルフの変異種の眉間と両目を貫通し、後方の岩を砕いた。


≪ グッ? ≫と声にも叫びにもならない音を出し、突っ立ったままのスノーウルフの変異種は、2分経過した頃にだらしなく口を開け、ドサリと倒れ雪を踏みつぶした。


 ……思っていたより凄い威力だったけど、魔力も結構使ったな。


 この攻撃は、もっと魔力量を上げないと、連続して使えそうにない。

 でも、この攻撃が遠くまで飛ばせれば、ドラゴンも倒せるかもしれない。


 俺はハーッと大きく息を吐き、倒したシルバーウルフとスノーウルフの変異種をマジックバッグに収納する。

 そして、白一色に染められたセイロン山の頂を見上げて目を凝らす。

 陽が昇ってもドラゴンの姿が見えないことに安堵し、また大きく息を吐いた。


 町の方を振り返ると、壁の上に居たメンバーが手を振っていた。

 きっと変異種を倒したことを喜んでくれているんだろう。どうやらケガ人も出ていないようなので、壁の外に倒れてるスノーウルフを回収するとしよう。


 倒されたスノーウルフの一部はまだ息があったので、短刀を取り出し眉間を突き刺し息の根を止め、マジックバッグに収納した。


「アコルくーん! 大丈夫? ケガはないー?」


「大丈夫ですスフレさーん! もう見張り塔から下りてもいいですよー。全て片付きましたからー」


心配そうに声を掛けてくれたスフレさんに手を振って、元気よく大丈夫だと返事を返した。


 壁の上のメンバーからも、「やったなアコル!」とか「さすがSランク冒険者!」と声が掛かる。

 閉まっている大きな門の前まで来ると、ギルマスと代官であるミレッテさんのお父さんが、いい笑顔で門を開けてくれた。


「ありがとアコル君。君は本当にSランク冒険者なんだな。早速冒険者カードに今日の戦果を追記しよう」


ギルマスは俺をガバッと抱きしめると、冒険者カードを出せと言って手を出した。


「えーっと、実は俺、冒険者カードはBAランクにしてあるんです。

 俺の年でAランク以上だと却って怪しまれるというか……それに高学院に入学する時は、Dランクって偽ってましたから。

 今回の変異種討伐を書き込んだら、間違いなくAランクになりますよね?」


「はあ? BAランクだと? いやいやもうSランクでいいだろう。学院の仲間だってSランクだって言ってたよな?」


ギルマスは困った子供を見るような視線を向けて、ハアと大きな溜息を吐いた。

 そして渋々「まあ、BAランクの次はAランクだから仕方ない。Aランクで止めておいてやろう」と言って、また溜息を吐いた。


「ありがとうアコル君、ミルクナの町を救ってくれて。

 それにしても、普通の冒険者は早くランクを上げたいと思うんじゃないのかい?」


代官であるミレッテさんのお父さんは、俺の肩をガシッと掴んで礼を言って、笑いながら冒険者ランクのことを訊いてきた。


「これまでは、軍に使い捨てにされないために、ランクを上げなかったんです。

 最近やっと【王立高学院特別部隊】を作ることになり、軍や魔法省に殺される可能性が無くなったと判断し、Sランクだって学院内で公開したんです」


「そうよ父さん。今の軍や魔法省は全然信用できないわ。

 今回だって、軍と魔法省はサナへ領を見捨てて、デミル領に全軍と魔法師を向かわせたの。


 だから私たち【王立高学院特別部隊】がサナへ領に行くの。

 今だって、アコル君は魔法省に狙われる可能性があるわ」


ミレッテさんはそう言いながら、アコル君を守らなきゃって両手を腰に当てた。


 他のメンバーも壁から下りてきて、魔法省と軍を批判する。

 おや、話が何だか重くなってきた。きっとお腹が空いてきたんだ。


「そうだな、俺たちは軍や魔法省とは違う活動をすればいい。

 さあ、朝食にしよう! みんなもお腹空いただろう? 今朝は昨日寄った町で買ったレーズンパンだぞ。

 それと、折角だから町の人も呼んでバーベキューをしよう!」


「おう!!!」とみんなの元気な声が響いた。



 朝食を終えると、土魔法が使える者は地下室造りをし、それ以外のメンバーは、討伐した獲物の解体をギルド職員と冒険者の皆さんとする。

 スフレさんは、俺が渡したお金を持って薬草店で薬草の購入をしてくれる。


 俺は変異種についてギルマスといろいろ検証しながら、毛皮だけ被災地に持って行きたいことを伝え、報酬の計算を急いでしてもらう。


 スノーウルフとシルバーウルフの毛皮と肉は、時間がないので半分だけ被災地に持って行く。それ以外の牙や爪などは要らないのでギルドで換金した。


 今回の討伐はチームとして行ったので、俺が倒した変異種も含めて全員に成果が加点された。


 その結果、特務部1年のゲイルとダンとアステム、2年のヤーブ先輩がCBランクに昇格し、同じく2年のヤーロン先輩がBランクに昇格して大喜びだった。


 そして、ギルドに売った獲物の報酬は、代官からの特別報酬を含めて金貨20枚(200万円)になった。

 変異種討伐には、素材の有る無しに関わらず最低金貨10枚が支払われる決まりだ。「にも拘らず」とは違う


 目標金額の一人金貨1枚を達成し、俺も含めて全員平等に1枚ずつ分配し、残った金貨7枚で、支援物資としてミルクナの町の特産品である、毛皮の敷物や上着を買うことを皆に伝えた。


 すると、変異種を倒した俺の取り分が少ないと、ゲイルやヤーブ先輩が異議を唱えた。


「俺たちは【王立高学院特別部隊荷馬車チーム】だ。全員で協力したんだから何も問題ない」


俺は真面目な顔をして、自分たちはチームでありパーティーなのだから、リーダーの俺が決めたことに従って欲しいと、不満顔のメンバーに文句を言わせなかった。


 町を救ってくれたお礼と地下室を造ってくれたお礼だと言って、町の人たちから食料や支援物資を頂くことになった。嬉しい申し出に全員が笑顔になる。


 皆が、支援物資を荷馬車で回収している間に、俺はスノーウルフとシルバーウルフの毛皮を乾燥させるため、町の中心広場で頑張って風魔法を使っていた。


 荷馬車の幌を外して括り付け、荷馬車の中から温風と冷風を当て、高速乾燥させていく。売り物にするわけじゃないから問題なし。


「Sランク冒険者のすることは滅茶苦茶だなぁ。変異種を討伐した後で、温風と冷風の両方を出しながら全部を乾燥させるとは・・・アコルの魔力量は底なしか?」


呆れ顔で俺のすることを見ていたギルマスは、信じられないとブツブツ言いながら首を振る。


「いいえ、俺には強い味方が居るんです。エクレア」と言って、肩の上で魔力を貸してくれていたエクレアの名を呼んだ。


「な、なんて可愛い妖精なんだ! まさかアコルまで妖精持ちだったなんて」と、突然現れたエクレアに驚きながら、キラキラした瞳でエクレアを凝視する。


 マサルーノ先輩が、友達のレーズンくんを肩に乗せて地下室を造っていたので、昨日からミルクナの町の住民は、愛らしい妖精の姿にメロメロになっていたのだ。




 いろいろ体験して自信をつけた荷馬車組のメンバーと共に、ミルクナの町を旅立ったのは昼前だった。

 時間がないので、昼食は荷馬車の中で食べ、朝が早かったので交替で昼寝をする。


 俺の荷馬車の御者は、5人が交代することにしている。

 警備隊から派遣されて小型の荷馬車の御者をしている二人と馬にも、時々休憩をしてもらわなければならないので、川や池の近くで適時休憩も挟んだ。


 俺たちが進んでいるルートは、セイロン山の北(王都ダージリン内ミルクナの町)から東(サナへ領内モカの町)へと向かうルートで、危険は伴うが他のメンバーが使っている主要街道を通るより、時間にして半日以上の近道だった。


 まあ、道はでこぼこで荷馬車は揺れたが、降った雪も昼前には解けていて、通行人も少なく盗賊が出ることもない。たぶん。



 12月29日夜、なんとかサナへ領内の村に到着し、そこで泊まることにした。


 この村はドラゴンや魔獣に襲われてはいなかったが、ドラゴンに襲撃されたココア村から逃げてきた住民が、50人くらい身を寄せていた。


 宿も無いし、避難民を受け入れて大変そうだったので、女子3人だけ村長さんの家に泊めてもらって、男子と御者さんは荷馬車で寝る。

 支援物資として買った毛皮の敷物と上着を使ったので、凍えることもなくぐっすりと休めた。


 翌朝俺たちは、ココア村から逃げてきた住民から被害状況を聞いて愕然とする。   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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