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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
魔王の改革

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80 サナヘ領へ(1)

 急に真剣な顔をしたレイム公爵に、どんな話だろうかと学院長とトーマス王子は身構えた。


「アコルは、間違いなく先代の孫だった。

 アコルの母親は、先代と騎士爵家の娘との間に生まれた子供で、サーシム領の養父母によって育てられた。そして未婚のままアコルを産み、母親は産後間もなく亡くなっている。


 育てると約束した養父母は……約束を破り孤児院の前にアコルを捨てた。

 近所の者が、生まれた子供は濃いグレーの髪に銀髪が混じっていたと証言したので間違いないだろう。


 並外れた英知と魔力量を持つアコルを、私はレイム公爵家に迎えたいと思っている。きっと驚くだろうが、公爵家の人間として活躍して欲しい」


レイム公爵は調査結果を二人に報告し、アコルをレイム公爵家の直系だと断言した。


「親ではなく養父母がアコルを捨てたんですか?」


「そうだ学院長。つい最近までずっと養育費を騙し取っていて、姿をくらませたので確認が遅れた」


レイム公爵は腹立たしそうに説明する。


「それで、父親の方の調べはどうなったんですか?」


「トーマス王子、残念だが、養父母が見つからなければ探しようがない」


今度は残念そうに首を振るレイム公爵だが、父親にはさほど興味はなさそうである。


「レイム公爵、それは、先日話しておられた、平民として商学部に入学したのに、ブラックカード持ちの冒険者だったという学生のことでしょうか?」


「そうですサナへ侯爵。私はこの冬期休暇中にアコルを屋敷に招いて、真実を告げるつもりだったのです。

 ですが、アコルは高学院の学生をリードする立場だ。行くなとは言えない。


 軍の兵士も魔法師も同行しない今回の救援活動は、他の上位貴族の子供たちの安全を考えると、アコルの存在がなくてはならないと思う。そうではないかトーマス王子?」


「そうですねレイム公爵(叔父上)。そうですか、やはりアコルはレイム公爵家の血族だったのですね。良かったです。アコルも喜ぶでしょう」


トーマス王子はウンウンと頷き、学院長も嬉しそうに笑顔で頷いた。


 サナへ侯爵は救援を頼む立場だから、本当にブラックカード持ちの学生がいるなら、ぜひ救援活動に参加して欲しいと思っていた。

 まさかの名門レイム公爵家の直系だったことは驚きだが、会ってみたいと興味が湧いた。



『まあ、相変わらず王族って自分勝手ね。何が良かったのかしら?

 特別に優れていなかったら興味も持たなかったはずなのに、なんだか面倒なことになったわ。早速アコルに報告しなきゃ』


執務室の本棚の空きスペースに座って、始めから話を聞いていたエクレアは、フウッとため息をついた後、誰にも気付かれないようにそっと部屋を出ていった。


『このままじゃ、【覇王】じゃなくてレイム公爵家の人間として周知されてしまいそうね。

 アコルは、王子にも公爵家の後継者にもならないわ。あたしのアコルは【覇王さま】なんだから』


エクレアはブツブツと呟きながら、学院内に住んでいる妖精たちに緊急招集を掛けるため、虹色に輝く羽根を羽ばたかせ中庭へと飛び立った。




 ◇ ◇ ◇ 


 出発まで2時間しかないというのに、誰も馬車の心配とか食料調達や救済品の心配をしていない。


 ルフナ王子に質問したら、王様の要請なんだから、国が用意するんじゃない?って言うし、ラリエス君に訊いても、当然国が準備をしてくれるはずだって言う。


 俺はこの国がそんなにしっかりした国だとは思っていないし、信用もしていない。

 ドラゴンに襲撃された町の救済だって、国は何もしなかったのに、今回は出来るなんて思える皆は、やっぱりお貴族様なんだと溜息がでる。


 ルフナ王子とラリエス君、そしてサナへ侯爵の子息であるトゥーリス先輩を連れて、俺は学院長の執務室に確認しに向かった。


「失礼します学院長、あっ、父上もいらしてたんですね。被害状況はどうなのですか? 襲われたのはセイロン山の麓の村ですか?」


ずっと領民の心配をしていたトゥーリス先輩は、執務室の中に父親を見付けて、挨拶も程々に被害状況を質問する。

 平民である俺はとりあえず礼をとるべきか迷ったが、他のメンバー同様、緊急時だからスルーさせて貰う。


「いや、ココア村とは連絡が取れない。被害の連絡があったのはモカの町だ。学生は何人くらい行けそうなのか?」


「はい、マリード領に帰る者も協力してくれるので、50人くらいの予定ですが、親の許可が下りるかどうか分かりません。

 午後1時になれば正確な人数がはっきりします。


 あの・・・アコル君が我々の馬車や食料などの手配は出来ているのかと心配しているのですが、当然準備出来ていますよね父上?」


「馬車や食料の準備? それは当然軍が・・・」と言い掛けて、サナへ侯爵は口をつぐんだ。


 執務室には一瞬沈黙が流れ、妙な空気が漂う。


「王立高学院特別部隊は、殆どの学生が貴族の子息や令嬢です。

 軍の兵のように徒歩でサナへ領に行くのは無理だし、冬だから野営も無理です。


 誰が食事の準備をするんですか? お金は誰が払うんですか? 荷物運びは誰がするんですか? 支援物資は何処で調達するんですか? 


 王立高学院特別部隊には、まだ医師や看護師や薬師は入っていませんが、当然手配は済んでいますよね。最低限の薬も用意してありますよね?


 まさか前回同様、全てを学生の我々に手配させるなんて、そんな無責任なこと考えてないですよね?」


俺は心底呆れた。というか、怒りが込み上げてきた。だから話しながら口調がきつくなる。


「アコル! サナへ侯爵様やレイム公爵様に対して失礼だぞ! そのくらいのことは分かっている」


トーマス王子は俺を睨みながら、強い口調で無礼な物言いを叱咤する。


「では、午後1時までに御者つきの馬車や食料、防寒用の道具や護衛の冒険者を揃えていただけるということで、俺は自分の準備をさせて貰います。


 最低でも宿は各町の領主屋敷や集会所に泊まれるよう、通達もお願いします。

 私は平民で王宮や軍のことは分からないので、出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした。


 全ては責任者であるトーマス王子とサナへ侯爵様が段取りされることでした。

 では、失礼します」


俺は言い捨てるように用件だけ言って、頭を下げて執務室を出ていった。 


 きっと準備なんかできていない。そう分かってしまったが、それは俺の考えることじゃなかった。

 俺の言った最低限のことも出来ないようじゃあ、今後も救済活動を続けることなんてできはしない。


 何事も失敗しながら経験を積むしかない。これくらいのことを乗り越えられないようでは、トーマス王子は国王にはなれない。


「出発は遅れそうだ。仕方ない。これが今の王族と領主なんだ」と呟いて、俺は気持ちを切り替える。


 これから買い物に向かう場所を頭の中で整理しながら、資金が少なかったことを思い出した。


 ……う~ん。商業ギルドで金策しよう。


 学院の正門を出たところで、エクレアが肩の上に乗ってきて、執務室で聞いた話の内容を教えてくれた。


 憂鬱な気分がより憂鬱になったけど、母親が俺を捨てた訳じゃないと分かり少しホッとした。

 もう亡くなっていたことは残念な気がするけど、俺の両親はこれからもずっと、Aランク冒険者だった父さんと母さんだけだ。





 年末で慌ただしい王都の街を、俺は俊足を使って走っていく。


 面倒ごとは押しつけられる人に押し付け、いや、協力してくれそうな人は商業ギルドの人間だろうが、冒険者ギルドの人間だろうが、使い倒すのが俺の流儀だ。


 俺は救援に向かう学生たちの心配をするのを止め、被災者救済のために必要な物資を集めることにする。


「すみませーん! サナへ領とデミル領がドラゴンや魔獣に襲われ、王立高学院特別部隊が、王命で救援に向かうことになりました。

 至急ギルマスを呼んでください。王立高学院のアコルが来たと伝えてください!」


俺は意識して、受付で大声を出した。

 緊急性と王命という二本柱があれば、この場に居る全員の注目を集められる。ここは目立ってなんぼの場面だ。


「やっぱりそうか。年末なのに軍の大隊が王都を出たから、何かあったと思ったが、サナへとデミルがドラゴンに襲われたんだ」


「おいおい、あんな遠くまで、今回も王立高学院の学生は救済活動に行くのか?」


「大変なことになった。俺はこれからデミルに帰る予定なんだ」


 商業ギルドは明日までで、明後日から5日間の休みに入る。だから商業ギルドには沢山の人が居た。俺の話を聞いたギルド内の人々は騒然とする。


 慌てた受付のお姉さんが、「ギルマスは執務室に居ます」と教えてくれたので、勝手知ったる商業ギルド本部の2階に向かって俺は急いで走って向かう。


 そして商談中だった客を、緊急事態だと言って追い出し、サブギルマスも呼んで金策をする(勝負に出る)


「今回、王立高学院特別部隊は、サナへ領の被災者の救済に向かいます。

 しかし軍や魔法省は、ヘイズ侯爵の指示で使える人員を全てデミル領に向かわせました。サナへ領には我々学生だけが向かうことになります。


 そして大変残念なことですが、今回は王命であるにも拘らず、国は救済品の準備をしていません。

 学生である我々の食料だって、全て先発したデミル公爵に奪われてしまいました。


 ですから、緊急時の対応ができない領主や国に頼るのは諦めました。

 王立高学院特別部隊が……主に私が立て替えて準備することにします。


 こういう役は平民である俺でないと、貴族のお坊ちゃまやお嬢様には無理です。

 お願いします。至急ギルド職員や商会員、使える人材ならだれでも構わないので、支援物資の買い付けをさせてください。


 用意して欲しい物品のリストはこちらです。

 忙しい時だとは思いますが、同じように王都がドラゴンや魔獣に襲撃された時、必ず王立高学院特別部隊が救済して恩をお返ししますので、サナへ領の住民を助けてください」


俺は畳み込むように用件を伝えると、救済品のリストをテーブルの上に置いた。


「なんだと、軍も魔法省もサナへ領の住民を見捨てて、デミル領だけを守りに行ったのか?

 準備も出来てないのに王立高学院特別部隊の学生を被災地に行けと、王様は命令されたのか?」


商業ギルドのギルマスは、怒りを込めてデミル公爵と王様を批判する。


「いえギルマス、そこじゃないでしょう。なんで商業ギルドが被災者の救済品を準備しなくちゃいけないんです? 助けたい気持ちは分かりますが、こちらに利なんてないですよ」


サブギルマスは商売人らしく、どうして商業ギルドが協力しなくてはならないんだと疑問を口にする。しかも年末でとても忙しい時にだ。


「ただで・・・とは言いません。

 ここに、新しく作った私が持っているモノと同じ性能のマジックバッグがあります。


 前回私が言った値段は、この部屋くらいの収納量で金貨250枚でしたが、この部屋の3倍入る大きさのモノを、格安の金貨300枚でお譲りいたします。

 金貨300枚が無理なら、半分の大きさのマジックバッグを金貨200枚でお譲りします。


 そのお金で、救済品の購入を大至急お願いします。手伝ってくれた職員やギルド会員の皆さんには、特別ボーナスとして銀貨3枚(1万5千円)出しましょう」


俺はにっこり笑って商談を持ちかけた。

 割れ物が割れず、収納した時のままの姿で出てくる国宝級のマジックバッグだ。喉から手が出るくらいに欲しいはずだ。


「この部屋の3倍だと?」


「アコル君と同じ性能というと、割れ物が割れず生モノが長持ちするアレと同じ?」


 急に真剣な顔をして、目の前の二人は頭の中で計算を始める。

 ある意味、商業ギルドは利益が大きければ動かしやすい。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ようやく仕事が一段落しました。来週は、これまで通り月・水・金の更新ができそうです。

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