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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
魔王の改革

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75 魔王、自由を失う

「判定不能! 上級魔獣は炎に包まれても、瞬時に逃げ出すことができる。

 魔法陣に魔獣の動きを止める効果があるなら、上位魔獣の討伐は可能と判断する。

 しかし、変異種を倒す程の攻撃であるとは判定できない!」


 Aランク冒険者である【宵闇の狼】と一緒に競技を見ていたヨーグル先生は、炎が消えたと同時に【宵闇の狼】にどう判定するかを問うように視線を向けたが、4人全員が首を横に振った。


 実際に魔獣の変異種を何度か倒している現役冒険者の判断に納得したようで、壇上に上がったヨーグル先生は、自信をもって判定不能と審判を下した。


「なんだと、獣は火に弱いはずだ。あれでも変異種を倒せないと言うのか!」


カルタック教授は、納得できないのか不満顔でヨーグル先生に異議を唱える。

 そこへ現れたのは、【宵闇の狼】のリーダーであるセイガさんだった。


「私は冒険者ギルドから派遣された、ASランクの冒険者でセイガという。

 私のパーティー【宵闇の狼】は、これまで魔獣の変異種と何度か戦い、討伐した回数は5回くらいだ。


 その経験から言わせてもらえば、跳躍できない変異種なら、今の魔法陣攻撃である程度のダメージを与えることができるだろう。

 だが実際には、跳躍しない魔獣は圧倒的に少ない。


 まあ、それでも、今の炎の攻撃は、変異種の動きを鈍らせたり、弱らせることは可能だと思う」


セイガさんの声は大きい。拡声器から聞こえる話の内容は、明瞭に聞き取ることができた。

 そしてASランクの冒険者という自己紹介で、話の信憑性が上がっている。


「それでは、今の魔法陣攻撃では、変異種を倒すことができないと言うのか?」


学院長も変異種のことを理解していなかったようで、驚いたように問う。


「はい学院長。競技開始前にヨーグル先生が言われたように、そもそも魔獣の変異種を単独で倒せるのは、冒険者であれ魔法師であれSランク・S級以上になります。


 Aランク冒険者やA級魔法師()()では倒すことができない魔獣なのです。

 ですから、我々冒険者が変異種を討伐する時は、Aランク冒険者パーティーが三組以上で討伐に向かい、半数がケガを負い、数人が死にかけます。それが変異種討伐の現状です」


セイガさんは、無知な学生や教育者たちに、ハッキリと変異種討伐の厳しさと現実を教える。

 ここで気休めや噓を言っても何の得にもならないし、むしろ無駄に死人を増やすだけだ。


「では、S級魔法師を討伐に向かわせれば、討伐は可能なのか?」


「いいえトーマス王子。変異種がどれだけ強いのかを知らなければ、あっけなく死ぬことになります」


セイガさんは残念そうというか、あれだけ言っているのにまだ分からないのか?って、呆れた顔をしてトーマス王子にきっぱりと不可能だと突き付けた。


「そもそもS級魔法師の資格を持っているのは、王族や領主の一部だけだ。我々に、魔獣の変異種やドラゴンと戦う術はあるのか?

 本当に魔法陣では討伐できないのか? どうなのだ、答えてくれ!」


 これは演技だろうか? シナリオにはなかったけど、トーマス王子の悲痛な叫び声を聞き、学生たちにも悲壮感が漂う。


「魔法陣を使って変異種を倒した冒険者は居ます。

 できなければ、できる者から学ぶしかない。そうしなければ、ドラゴンの餌になるか建物の下敷きになるかです。


 そのために皆さん、この場に居るんでしょう? 死にたくなければ学べばいいじゃないですか。

 何も単独で倒す必要などないんですから」


何を言っているんだ今更って、セイガさんは再び呆れる。

 これが高学院の実態なら、冒険者ギルドのギルマスから聞いた、高学院で魔物討伐部隊を作るアコルの計画なんて、とても無理じゃあないかと思ったりする。


「冒険者ごときが、魔法陣を使った攻撃魔法で変異種を倒しただと? いい加減なことを言うな! あり得ないことだ」


「そうだ、騙されるな! デントール教授の言う通り、冒険者が魔法陣を使えるなら、それは冒険者ではなく魔術師だ!」


 デントール教授もカルタック教授も、どうしてそこまで頑ななんだろう?

 自分たちのプライドが、どうして学生や住民の命より大事なんだろう?

 


 ……ダメだ。この人たちに学生を任せることは出来ない。

 ……さようなら自由な日々。読書時間。



「騙されるな! ……ですか? はは、レベルが低過ぎて笑えます。

 冒険者でも魔法師でも、変異種やドラゴンと戦えるなら、民はどっちでもいいんです。守ってくれる人が正義であり、強者なのですから。


 くだらないプライドで目が曇っている今のあなた方では、学生に攻撃魔法を教えるのは無理ですね。

 一般魔法を使おうが魔法陣を使おうが、敵を倒せなければ意味がない!


 分かりました。冒険者が使う魔法陣がどのようなものか、見せて差し上げましょう。

 変異種を単独で倒すSランク冒険者の実力をね。ハッハッハ」


覚悟を決めた俺は、なんだか笑いが止まらなくなった。

 口調は蔑んだ言い方で、態度も完全上から目線、逃げ道なんて与えないよう挑戦状を叩きつけた。


 俺はもう、遠慮なんかしない。



 魔王らしく降臨しよう!



 演習場から観覧席に全員を避難(移動)させ、新たに造られたドラゴンの的を見つめる。

 魔王らしく派手に、役に立たない教授たちのプライドを容赦なく叩き潰す。


 負けるものかと這い上がってくれば良し。

 でも、学ぶ気持ちも守る気持ちもない教育者は要らない。

 害にしかならず、思い上がったバカな貴族を産むだけだ。


 ざわざわとうるさい観覧席を完全に無視し、俺はゆっくりと振り返り、ヨーグル先生に準備ができたことを伝えるよう、魔力を集めながら右手を上げた。


 すると、騒ぎながらも俺に注目していた観覧席の観客たちは、スーッと波が引くように静かになっていった。

 先程見せた一般魔法攻撃が効いているのか、今度は期待する視線の方が多いようだ。


《 ピーッ 》とヨーグル先生の吹く笛の音が演習場に響き渡る。



「天と地を、結ぶ光は怒りの刃、誓約の魔力()を捧げし我に力を! 雷撃」


俺は視線を的に向けたまま、右手を高く空に向かって伸ばし、詠唱しながら魔力を上空に放った。


 魔力を放ったのは空に向けてだが、的であるドラゴンをすっぽりと囲むように、金色の魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣は眩しく光り輝くと、魔法陣を囲むように新たな金色の円が現れ、魔法陣の周りを高速で回転し始めた。


「なんだあの魔法陣は!」


「何故光り輝いているんだ!」


「魔法陣が高速回転するだと!?」


学生や教師たちは、初めて見る魔法陣に驚きの声を上げる。

 魔法陣が浮き上がって10秒、目を開けていられない程の眩しい光が上空を走った。


 観客たちは晴天だったはずの空を見上げ、何事だ!と慌てる。

 見上げると、演習場の上空に然程大きくもない濃い灰色の雲が浮かんでいて、バチバチと放電していた。


「キャー!」とか「ワーッ!」とか「雷だー!」と叫びながら目を瞑ったり、逃げようとしたり、完全にパニックになっていく。


 その瞬間、金色の(いかずち)が真っ直ぐ演習場に落ちてきた。

 もちろん雷が落ちる瞬間を、はっきりと目に焼き付けた者もいた。


 ドーン、バリバリと大きな音がして、観覧席が揺れ、凄い衝撃波がやってきた。


 衝撃波が収まり演習場に静寂が戻った時、観客たちの目には、粉々に飛び散ったドラゴンの的だったモノと、何事もなかったかのように立っている俺の姿が映った。


 俺は拡声器を口元に当て、耳がよく聞こえないであろう観客に向かって、これから話をするぞと分かるように右手を上げた。

 すると、「ギャーッ!」と恐怖に怯えた声で叫ぶ学生と教授が数名・・・


「もう終わった。落ち着いて座れ!」と俺は皆を鎮めるため大声で命令した。


「ヨーグル先生、判定をどうぞ。

 これが魔獣の変異種を単独で討伐できる、冒険者が放った魔法陣攻撃です。


 これと同等な攻撃を放てる魔法陣をお持ちの教授がいらっしゃれば、勝負を受けて立ちますよ。


 残念ながら、今の【雷撃】を以てしても、ドラゴンは倒せないでしょう。

 空を飛ぶモノを攻撃できる魔法陣を、早急に構築しなければなりません」


判定なんかすっかり忘れていたヨーグル先生に判定を頼み、驚愕の表情で身動きできない魔法部の教授に向かって、俺は魔王らしく微笑みながら喧嘩を売った。


 信じられないものを見せられ、ある者は恐怖で、ある者は現実を受け止められず、何が起こったのかさえ理解できない者を含め、誰も言葉を発することができない。

 


「すまないアコル君。時間を計り忘れた。でも、ハッキリと断言しよう。

 君は単独で魔獣の変異種を倒せるSランク冒険者であると!」


ヨーグル先生は嬉しそうに判定結果を言って、観覧席から俺の方に向かって駆け出してくる。


 他にも、【麗しの三騎士】やトーマス王子、執行部のメンバーたちが、「アコル―、やったなー!」と嬉しそうに叫びながら駆け寄ってくる。


 俺を信じてくれた人達に囲まれて、ようやくいつもの平民らしい笑顔で「ありがとう」とお礼を言った。




「なるほど、これがアコルの言っていた魔法部や特務部に喧嘩を売るってやつか。それにしても、すさまじいな。Sランク冒険者というのは」


カモン教授は感慨深げにウンウンと頷きながら、ちょっと嬉しそうに呟いた。


「あら、カモン教授、これはアコル君の筋書きだったのですか?」


「ソレイネさん、アコルはドラゴンと戦うため、この学院を変える気です。

 足手まといにならない程度に学生を鍛え、貴族として最低限の責任を果たせと脅すそうです。


 できれば皆を一般B級魔術師以上にして、魔獣の大氾濫に備えたいと……全く、恐ろしい程に責任感を持った平民ですよ。

 まあ、自称平民ですが」


俺が仲間に揉みくちゃにされていた時、カモン教授は隣に座っていた魔法部のソレイネ講師に、俺の目標というか、行動の原点が何なのかを暴露していた。


 当然その周辺には学生も居たわけで、耳の良い一部の学生は、平民の、しかも商学部1年だと思っていた俺のことを、Sランク冒険者であることを含め、本当は何者なんだろうかと首を捻る。



「あの魔力量は、平民ではあり得なーい!」と唸りながら、学生も教師も、いったい何なんだよー! と心の中で叫んだ。




◇◇ マキアート教授とカルタック教授 ◇◇


「あの魔法陣、あれは古代魔法陣なのか? 伝承にあった金色に光り輝く魔法陣が、本当に実在していたとは・・・ああ、あの魔法陣を解明したい」


マキアート教授はそう呟くと、茫然自失状態のカルタック教授に向かって「我々は研究者だ。君は素晴らしい魔法陣を見て、興味が湧かないのか?」と問い掛けた。


「伝承の魔法陣・・・ええ、確かに私は教授になる前、覇王時代に使われていた古代魔法陣を調べたことがあります。


 しかし、現存していた古代魔法陣は全て、発動させるためには魔力量が150以上必要だったんです。

 ・・・アコルの魔力量は・・・調べられたんですよねマキアート教授?」


演習場で友人に囲まれているアコルを呆然とした表情で見ていたカルタック教授は、力のない声でマキアート教授に問い返した。


「その問いに答えるには、君がアコルに敵対せず、アコルの目的であるドラゴン討伐に、真摯に協力することが条件になる」


「私は、これほど誰かに完敗した記憶がありません。

 これほど実力が違う人間に会ったこともありません。


 フッ、あの時私は、古代魔法陣を発動することができないという現実に絶望し、発動できる人間など現れないと自分に言い聞かせて諦めたんです。


 どうやら私は、自分の限界を誰かが超えるということを……恐れていた……いえ、受け入れたくなかったんだと、今、ハッキリと自覚しました。

 諦めていた夢を叶えられるなら、アコルに教えを乞うことも……研究者として悪くないと思えてきました」


カルタック教授は薄っすらと微笑むと、憑きものが落ちたかのように、ゆっくりと優しい声で答えた。


「そうだな。アコルには我々の知らない秘密があるようだ。

 13歳で魔力量が140あるというのは、平民ではあり得ない。

 アコルは【魔王】として学院に君臨し、我らとともに戦い、魔獣の大氾濫に勝利する気だ」 


マキアート教授は、隣に座るカルタック教授の方を向いて、にっこりと微笑んだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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