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54 大改革のはじまり

 今回の大改革で、最も衝撃を受けたのは魔法省だった。


 なんの相談もないまま、国王は魔術師試験と資格内容について、トップダウンで大改革を行ったのだ。


 これまで年に一度だった魔術師試験を、年二回(2月・8月)に変更し、D級魔術師を廃止、C級魔術師はそのままだが、B級魔術師から資格内容を【一般資格】と【作業資格】とに分けた。


 【一般資格】は魔獣討伐ができると認められた者にしか与えられず、B級であれば()()でボアウルフなどの中級魔獣を倒す能力、冒険者であればCB~Bランク資格が求められる。


 A級であれば、()()で上級種に近い魔獣を倒せる能力、冒険者であればBAランクの資格が必要になる。


 よって、これまで得ていた資格は、全て【作業資格】となり、【一般資格】が欲しければ魔獣討伐ができると、冒険者ギルトに証明してもらう必要がある。


 冒険者をバカにしていた魔術師たちは、【一般資格】を取得するために《冒険者登録》が必須となった。

 プライドの高いA級魔法師たちは、きっと冒険者登録などしないだろう。


【作業資格】の魔術師や魔法師は、以後、魔獣の討伐に同行する時は後方支援のみを行い、Aランク以上の冒険者の指示を守り、土魔法で待機エリアを作ったり落とし穴を作ったり、防御魔法を展開して上官や兵士や冒険者を守ることになった。


 魔法省や魔術師や魔法師、そして魔法部の学生たちに大きな衝撃を与えたのは、【作業資格】では、これまでの給料を4割カットされるという内容だった。


 逆に【一般資格】を取得すると、給料は2倍近くに上がる。

 この新制度により、魔獣と対戦できない魔法師の死亡率を大きく減少させ、冒険者の無駄死にを防ぐことが可能になった上、魔法省の人件費削減になった。


 当然、魔法省副大臣であるヘイズ侯爵や魔法省の高官たちは、直ぐに国王に撤回して欲しいと願い出たが、これまで魔獣討伐で結果も出せず散々だったことや、多くの魔術師や魔法師を死なせた責任を問うがいいかと脅され、渋々引き下がらずを得なかった。


 その上、死亡した魔法師や兵士へ支払う保証金を捻出するため、王宮で働く全職員の給料を2割カットすると、財務大臣であるレイム公爵が発表したので、軍と魔法省を掌握していたヘイズ侯爵派は、他部署の職員から無能と罵られ恨まれることになった。




 ◇ ◇ ◇


 新しく指定された教室に入り、学生たちは適当に座り始める。

 1・2年生は、貴族部・魔法部・商学部・特務部の学生全てが、各学部ほぼ同数の割合で全クラスに割り振られている。


 1年生は150人居るので、A~Dの4クラス(37×2と38×2)に分けられ、2年生は120人居るのでA~Cの3クラス(40×3)に分けられている。

 3年生は貴族部と魔法部しかないので、AとBの2クラス(30×2)に分けられた。


 クラス分けの方法としてアコルが考えたのは、魔力量を基にした分け方で、1年生の場合でいくと、貴族部の一番魔力量が多い学生がA組。2番目に多い学生がB組という風に、AからD、DからAへと順に割り振られる。


 魔法部は反対に、一番魔力量が多い者をD組から順にA組へと割り振り、商学部はA組から、特務部はD組から順に割り振られた。 


 アコルはDランクの冒険者で登録されているので、魔力量は35扱いだ。

 アコルのクラスはD組で、クラスメートには魔法部で一番魔力量の多いワイコリーム公爵家のラリエス君や、商学部で仲が良かった伯爵家のスフレさんとイーサンが一緒だった。


 クラスの内訳は、貴族部8人・魔法部12人・商学部8人・特務部10人の合計38人である。


 担任は、A組が貴族部の担任だったリベルノ教授(数学)、B組は魔法部の担任だったデントール教授(魔法陣発動)、C組は商学部の担任だったカモン教授(経済学)、アコルのいるD組は、特務部の担任だったパドロール教授(要人警護)で、そのまま留任である。


 クラス委員は、パドロール教授の指名で、ラリエス君に決まった。





 学院長が高学院の大改革を発表してから僅か三日後、王立高学院の全学生と医学科と薬師科の学生総勢350名と、担任の教授が9名と医師と薬師5名が、ドラゴンに襲撃された町レブラクトに向かって移動していた。


 学院長は留守番で、救済活動の代表としてトーマス王子が全員を引率している。


 護衛兼指導員として、冒険者ギルドからAランクの【宵闇の狼】4人、Bランクの冒険者パーティーが三つ、そして救済協力者の代表として、モンブラン商会からセージ部長が、商業ギルド職員や他の商会の代表10名を率いて同行している。


 実は今回、モンブラン商会は商業ギルドと協力して、商業ギルドの登録者に、食料や衣類、不用品などを支援して欲しいと呼び掛け、支援物資を集めてくれた。


 モンブラン商会は、率先して窓ガラスや陶器(平民用に作ったもの)を、支援物資として出してくれた。



 俺が今回の救済でカギとなる活動として考えていた炊き出しは、予想通りというか期待を裏切らないというか、学生で料理ができる者が殆どいなかったので、自腹を切って他の人にお願いすることにした。


 俺が白羽の矢を立てたのは、高学院の食堂で働く10人の女性たちである。

 こちらも予想していた通り、ドラゴンに襲撃された町になんて怖くて行けないと尻込みされたので、俺は得意の奥の手を使った。


「もしも協力して頂けるなら、お金では失礼だと考え、平民なりに頑張って用意した、心ばかりのプレゼントをお渡ししようと思っています」


 俺は少年にしか見えない容姿をフルに活かし、懸命に被災者の役に立とうとする健気な学生キャラで勝負に出る。


「あたしはミレル。確かにあたしらは、この学院に雇われてはいるけどさ、学生の昼食分はサンドイッチを持たせるんだから、特別手当もなしにレブラクトの町まで行くのはねぇ。

 平民の坊やのプレゼントじゃちょっと……」


女性にしては珍しいショートカットで、話し方がやや男勝りな、食堂のリーダーらしきミレルさんが凄く困った顔をして断ろうとする。


「僕はどうしても、食べ物や服や家を無くして困っている人達に、お姉さんたちの美味しいスープを食べてもらいたいんです。


 美味しいスープは人を幸せにするって、僕の母さんがいつも言っています。

 困っている時はお互い様、弱い人を守れる男になれって、……魔獣の変異種に殺された父が……父さんが言っていました。


 だから僕は、たくさんの人の役に立てる人間になれるよう、商会で働いていたけど、この高学院に入学しました。


 お願いします。これで、この匂い袋で助けてください。僕がこれまで一生懸命に働いたお金で買ったものです。ダメでしょうか?」


ちょっぴり涙を浮かべ、上目遣いでミレルさんに匂い袋を差し出す。


 同じ年頃の子供が居るらしいおばさんは、「お父さん亡くなったのね」とか「自分で働いたお金? ああ、あなたは平民だったわね」と呟きながら同情的な視線を向けてくれる。


「匂い袋? あたしたちに匂い袋なんて・・・あら、これって、モンブラン商会の紋章に似てるわね」


 香木を入れているのは、先日モンブラン商会に寄った時にタダで頂いた小袋で、ミレルさんは驚いたように紋章を見たり匂いを嗅いだりして、他の女性にも回していく。


「はい、僕は父を亡くしてからモンブラン商会で働き始め、有難いことに会頭の秘書見習いになれました。そして会頭のご厚意で学院に入学できました。


 それで、今回の救済活動のため会頭にお願いして、王族や上級貴族の方々のために特別に用意された、最高級の香木から作られたこの匂い袋を、最高得点で入学したご褒美だからと、半額で売っていただきました」


「王族や上級貴族用の匂い袋だって?」


「なんて好い匂いなんだろう。こんな香りは初めてだわ」


「あら、あなたが最高得点で入学したっていう平民の子だったのね」


「自分のお金を使ったのかい? ええっ? これって、いったい幾らなんだい?」


「はい、確か売値は金貨1枚(10万円)以上したと思います」


「はあ? 金貨1枚以上? 10袋あるんだから、一袋は約小金貨1枚(1万円)ってことかい? あたしの給金は小金貨5枚だよ? 半額ってことは、あんた小金貨5枚も払ったのかい?」


「いいえ、王族に献上できるモノですから、一袋が金貨1枚以上です。僕が払ったのは原価の半額だから金貨3枚です」


「「「 ・・・・・ 」」」 全員が息を吞むのが分かった。


「あ~っ、確かに困った時は、お、お互い様だね」


「そ、そうですねリーダー、美味しいスープは人を幸せにしますから」


「やったー、初めてモンブラン商会の高級品を手に入れたわ!」


「ちょっとアンナ、恥ずかしいわよ」


「でもいいのかい? 自分の大事な貯金で買ったんだろう?」


「はい、情けは人の為ならずって、母さんが教えてくれました。きっといつか、巡り巡って僕にもモンブラン商会にもいいことがありますから」


 ということがあり、食堂のおばさんたちはモンブラン商会が用意した辻馬車に乗って、セージ部長から用意された材料や調理器具の説明を受けている。

 到着したら直ぐに、町の女性たちと一緒に炊き出しの準備を始めてくれるだろう。



 今回の救済活動の事前準備で最も大変だったのが、土魔法を使ったカマド作りや、壊れた家を修復したり、廃材や瓦礫を片付ける作業の練習と班分けだった。


 急遽決定した執行部役員のメンバーを中心に、仕事内容や班分けを決め、午後の講義を練習にあてたのだが、皆のまとまりは悪いし協調性もなかった。


 魔法部の学生は、3年生のB級魔術師資格を取得した学生(主にマキアート教授の研究室の学生)を中心に、建物の修復作業や地下室を造る練習をした。


 特務部は冒険者を講師に招いて、瓦礫の撤去作業の練習、土魔法が使える者はカマド作りの練習をした。


 役に立ちそうにもない貴族部の女学生は、炊き出しの手伝い(給仕くらい)と、ケガ人を救護所に案内する係りにし、纏めてくれるのは、新聞部編集長であり俺の応援隊長もしている、3年生のマリード侯爵令嬢のノエルさんと、同じく3年生でマギ公爵令嬢のミレーヌさんだ。


 商学部の学生は、モンブラン商会のセージ部長や救済協力者の人たちと、救援物資の分配や不足している物資の確認をする。


 一番の問題が、最も役に立たない貴族部男子の役割分担だった。


 貴族部でも魔法が得意ではない学生は、トーマス王子に直接管理監督して貰うようお願いし、町の被害状況を詳しく調査することにした。


 魔法がちょっとばっかし使える貴族部の男子は、町の治安維持という名目の自警団のようなことをするらしい。


 貴族部の魔法が使えるらしい男子のリーダーになったのは、執行部の学生ではなく、3年生のデミル公爵家の子息イスデンだった。


 彼は自己顕示欲が強く、自分こそがリーダーとして相応しいと立候補した。

 しかも、執行部に誘われなかったこと根に持ち、執行部が決めようとすることに文句を言って困らせ、傍若無人な態度で良識人を呆れさせた。


 イスデンが選んだ仕事は、肉体労働をすることもなく、住民の世話をするでもなく、ただブラブラと町の中をぶらつくだけの仕事?で、自警団という意味を知っているかどうかも疑問だが、もしもドラゴンに襲撃されたら、自分が率いる自警団が町を守ると宣言までしたらしい。




 到着したレブラクトの町は、想像以上に建物の損壊が多く、背の高い三階建ての建物は全壊していた。


「想像していたより酷いな。ドラゴン三頭でこれ程の惨状とは」と、あまりの惨状に口を閉ざしていたトーマス王子は、町の中心部に到着してようやく口を開いた。

 

「はいトーマス王子、そして、やはり住民は見捨てられています」


 冒険者ギルドで聞いてはいたが、ドラゴンはどうやら人間を食料と認識したようで、至る所に無残な血痕が残されていた。


 到着はしたが、あまりの惨状に恐怖し、馬車から降りられない女子学生もいる。誰だって目を背けたくなる光景だが、ここで逃げ出しているようでは貴族失格だ。


「あぁ……なんということだ。【建国記】を読んだ今なら分かる。王族としてすべきことを学んでいなかった代償を、民に背負わせてしまったと。この現実を、私はしかと心に刻まねばならない」


 トーマス王子は王族としての責務を果たそうと、心を新たにし瞳に力を入れる。

 俺は平民代表とかいう変な名目で、何故かトーマス王子と一緒に行動している。


 馬車に乗る時から一緒だったので、高位貴族の子息たちから嫉妬と怒りの視線を向けられ、到着してからもずっと居心地が悪い。しかもこれから、町の代表者たちと面会する。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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