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43 アコル、道を示す(2)

「アコル、研究室から椅子を持って来なさい」


「いえ、自分の椅子を出しますから大丈夫ですマキアート教授」と言って、俺はリュック型マジックバッグの方から、机と椅子のセットを取り出し、設置しようと思っていた場所に置いた。


 折角だから、自分のカップをウエストポーチから取り出し水筒のお茶を注ぐ。

 

 ……ああ、やっぱり自分用に机と椅子を買ってて良かった。落ち着くわ~。


 つい自分の世界に入ってしまった。いかんいかんと思って振り返ると、三人が呆れたというか信じられないという顔をして俺と机を見ていた。ん?


 学院長が、椅子とカップを持って自分たちと同じテーブルに同席しなさいと指示したので、つい溜息を吐きそうになるのをグッと我慢して渋々移動する。


「アコル、君はマジックバッグを二つも持っているのか?」


「はい学院長、引越しの荷物はウエストポーチ型では心もとないので」


「はあ? 引越しの荷物をマジックバッグに入れて来たのか?」


「はいそうですけどマキアート教授、何かおかしかったですか? 私は冒険者ですから」


 きょとんとして答えると、普通の引っ越しは、荷車に家具や荷物を載せて行われるものだとマキアート教授が教えてくれた。そう言えば、寮の方に荷車がたくさん向かっていたな。

 お貴族様だから、マジックバッグじゃ入りきらなくて荷車なんだと思ってた。

 


「それにしても、そのマジックバッグは何だ!? 陶器が割れないだけではなく、砂糖が容器からこぼれてないなんて、王宮の宝物庫にも存在しないぞ!」


「そうですか? きっと大昔には存在していたと思いますよマキアート教授」


 俺は母さんが持たせてくれたクッキーを、特別サービスしてテーブルの上に出す。嬉しそうに食べ始めたので、皆さん甘党のようだ。


 古代魔法陣を知らない教授は、本当にこのマジックバッグの性能を見たことがないんだ。魔方陣を教えたら、全てを放り投げて研究しそうだ。


「大昔? そのマジックバッグは、古代の遺物なのか?」


「いいえトーマス王子、これは私が自分で作ったものです」


「「「はあ? なんだと!」」」


 ギルマスや会頭たちと同じ反応ということは、この国に存在している国宝級でも、同じ機能を持つマジックバッグは存在していないんだ。成る程、魔力量の問題か……


 さて、この場をどう収拾しようかな。

 

 ……王族が二人もいて、しかも敵ではない。そうであるなら後からポロポロ出すより、面倒なことは教えておいて、周りが勝手に考えてくれればいいか。うん。


「そんなに驚くことなんですか? 間違いなく自分で素材を採取し、自分で魔法陣を書いて作りました。隠してもいずれ分かるでしょうから言っておきます」


 俺はにっこりと笑って、この前セージ部長のためにマジックバッグを作った時に、自分用にも作った手のひらサイズより少しだけ大きなマジックバッグを、ウエストポーチから取り出しテーブルの上に置いた。


「これは・・・ウエストポーチ型とリュック型のマジックバッグの他にも、自分で作った物があるのか?」


「はいマキアート教授。ウエストポーチはボアウルフなので、大して収納できないんです。こっちはアースドラゴンの新種、双頭アースドラゴンの素材で作ってあるので、小さくてもまあまあ収納できると思います。まだ血判登録してませんが」


 その途端「ゴクリ」と唾を呑み込む音がはっきりと聞こえた。そしてテーブルの上のマジックバッグをギラギラした六つの瞳がガン見している。


 ……こ、怖い、そんなに見て穴が開いたらどうするんだよ!怖いから本当に。


「ちょっと聞くが、そのマジックバッグも、陶器が割れないのか?」(教授)


「はい、たぶん」


「もしかして、このテーブルセットくらいは入る?」(学院長)


「そうですね、この部屋の中の家具くらいなら余裕でしょうか」


「そ、そのマジックバッグ、購入するとしたら幾らくらいかな?」(王子)


「そうですねぇ、この半分の大きさで金貨100枚(一千万円)くらいだったから、最低でも金貨150枚くらいでしょうか」


「金貨150枚!・・・私の年間予算額が飛ぶなぁ」


 王子様って、生活費が年間金貨150枚なのか? それとも小遣いの金額か?

 

「「「 売ってくれ! 」」」と、全員の声が揃った。


 そしてお互い、ぐぬぬと牽制し合うように睨んだ。皆さんお金持ち。


「嫌です。それに、このマジックバッグを起動させるには、最低でも魔力量が90以上必要ですし、全ての機能を使うには150以上の魔力量が必要になります」


「「「 はあ? 150以上だって! 」」」


 うるさいなあ。だから売らないって言ってるじゃん。もう・・・


「アコル! マジックバッグの魔法陣を見せてみろ。何処で見付けたんだ?」


「嫌ですマキアート教授。大事な魔法陣をホイホイと見せる魔法師が何処に居るんです? これは私に託された魔法陣。教授とか学生は関係ないですよね」


 マキアート教授は「ウッ」と唸って、俺の意見に反論できない。

 まあ俺は魔法師じゃないし、俺が考えた魔法陣でもないけど。

 それでも三人は、諦めきれないのかテーブル上のマジックバッグをずっと見ている。


「学院長の魔力量はどのくらいです?」


「私はぎりぎり90くらいだ。残念ながらA級魔法師で諦めたからな」


「う~ん、学院長、売ることはできませんが、条件付きで貸すことはできます。如何ですか?」

「貸す?・・・君はこの私に条件を付けて言うことをきかせようと?」


 学院長は急に声を低くし、俺を威圧するように睨んできた。

 まあ、王族なんてこれが当然で、今までの方が異常だったのかもしれない。だからって、俺もここで引き下がったりはしない。


「学院長、私は商人なんです。

 このマジックバッグを売り、簡単に儲けるのは商人の在り方として間違っています。

 まるで楽して儲ける腐った魔法師と同等かのように思われるのは、商人として私のプライドが許せません。


 それに、私は平民の新入生ですよ。王族である学院長に言うことをきかせるなんて発想、どこから出るんでしょうか? 公爵家の子息でも畏れ多いでしょう?

 嫌だなあ貴族的思考って、権力者って心が濁ってくるのかなぁ、はぁ」


 大人になんてなりたくないなぁって小さい声で呟きながら、これ見よがしな息を吐き、13歳の未成年だぞって子供ぶってみる。 


 モンブラン商会でも冒険者ギルドでも、そして高学院でも、トップの偉い人とばかり接してきたから、俺の感覚が少し《?》ずれてきているのかも知れない。

 気付いたら、誰も子供扱いしてくれないし、同等に話してくる。でもまあ、みんな親切だし親身なのは間違いない。容赦なく拳骨は落とすし、叱ってくるけど。


「ゴホン、いや、言い方を間違えた。アコルの考える条件とは何だ?」


「私はこの部屋に住むつもりですが、それはこの王立高学院の決まりに反する可能性があると聞きました。ですから、一旦4人部屋に引っ越しした風に装い、変人だから補助部屋で寝泊まりしているという学生を演じます。その為に必要な段取りと寮費を支払って頂きたい。それから、私が最も望むことを叶えていただきたいです」


「「「 最も望むこと? 」」」


「はい。魔獣の大氾濫を止めるため、古い資料を閲覧させてください。私が最も望むこと、それは閲覧禁止書庫への入室許可です。ブラックカード持ちとして、私には人々を守る義務があります」


 ……うん。建て前は大事だ。本当の目的が、領主に伝わる魔術書について調べることだとしても。


「閲覧禁止書庫? 寮の4人部屋利用のわずかな寮費と、閲覧禁止書庫への入室だけで、金貨150枚はするマジックバッグを貸し出すと言うのか?」


「はい学院長。商人としてお客様のニーズにお応えしながら、自分の利益を長く得るのは当然のこと。私の望みは、千年前に起こった魔獣の大氾濫に関する書物で、覇王がどのように戦ったのかを調べることです。閲覧禁止書庫には、金貨150枚以上の価値があると信じています」


 ぼんやりしている時間なんてないでしょう?って、意味深に微笑んでみせる。

 そもそも、なんであんた達はのんびりしてるんだ?って意味も込めた微笑みだ。


「その許可、王子である私が出そう。魔獣大氾濫対策研究室の専任講師である、第三王子トーマスが許す」


「ト、トーマス王子?」(マキアート教授)


「トーマス、それが君の答えか?」


「はい叔父上。私がなすべき道を、アコルが示してくれました」


 そこからトーマス王子は、俺がサンドイッチ食べながら話したことを、必ず実現させると言ってくれた。

 学部に関係なく、C級魔術師を目指すための講義と、危機対応について自由に議論できる研究室を開設すると。


 そのことについて俺を含めて皆で熱く語り、俺も遠慮なく庶民的立場で意見したり、魔獣の変異種がどれだけ強いのかを教えたりした。

 そんなこんなしていたら、時間はあっという間に過ぎていた。


 夕食時間には食堂に行かねばならない俺は、学院長にマジックバッグの血判登録を急いでしてもらった。

 セージ部長の時と同じように、登録後光を放ったマジックバッグを見て、現在の魔法陣を使って作成したマジックバッグでは、決して起こらない現象だと教授が言った。


 近代では、登録したら魔方陣が消えるだけで光ったりしないと、専門家が言うのだから間違いないだろう。

【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書は、覇王の時代に作られたものだと俺は確信した。




 ◇◇ トーマス王子 ◇◇


 アコルが夕食に向かうと言うので、私は学院長の執務室に場を移した。


「それで、サナへ侯爵からの返事はどうでしたか叔父上?」


「残念ながら、サナへ侯爵家の血族には、アコルに該当する子供の心当たりはなかったよトーマス。だから、レイム公爵家の血族の可能性が高い」


 叔父である学院長から、アコルという少年の話を聞いたのは10日前だった。

 王子は本来、高学院を卒業したら魔法省や軍で働く。私も通例に倣い魔法省で働こうとしたが、副大臣であるヘイズ侯爵に妨害され働くことが出来なかった。そしてそれは、軍でも同じだった。


 仕方なく、当時文部大臣だったモーマット叔父上の下で暫く働くことになった。昔からモーマット叔父上は私を可愛っがってくださっていたのだ。

 しかし、叔父上が高学院に移動されたため、文部省にも居づらくなった。


 次期国王を、第一王子であるマロウ兄上にしたいヘイズ侯爵派と、私を推すレイム公爵派の間で諍いが起こり、仕事に支障が出始めたのだ。

 自分という存在が原因で雰囲気が悪くなることが嫌になり、ここ最近は仕事に出ることも憚られ、自分の歩む道が分からなくなっていた。


 そんな私の所に、凄い天才少年が入学してきたと、興奮した叔父上がやって来た。

 どうしても会ってみたくなった私は、マキアート教授の研究室を訪ねることにした。図書館で偶然見掛けた少年がアコルだったとは、これは運命かもしれない。


「先代のレイム公爵には男児が生まれず、ナスタチウム兄上が婿養子に入られたが、今代のレイム公爵家にも男児が生れていない。だからこそ、優秀なアコルがレイム公爵家の血族であった場合、アコルの存在は王宮をも揺るがすことになるだろう」


 叔父上は真面目な顔をして、アコルの存在の危うさを心配する。

 このまま男児が生まれなければ、国王になれなかった王子の誰かが、レイム公爵家に婿養子に入るだろうと言われているのだ。


 国王になれなかった王子は、大臣などの要職に就くか、領主や高位貴族の家に婿に行く。同じ婿養子なら、名門であるレイム公爵家を望むだろう。

 

「極秘に調査した方がいいですね。妖精使いに信じられない魔力量、それだけでもヘイズ侯爵派に知られたら面倒ですが、私が注目するのはアコルの聡明さです。平民として生きてきた者が、緊急時の対応とか平民を守るためにどうすべきかなんて……そんな思考にどうやったら行きつくのか……本来なら我々が、いえ、国王が向けるべき視点です」


「トーマス、それは言ってはならない。決してアコルの意見だと覚られるな」


「はい、心得ました。アコルには、まだまだ秘密があるようですね。それはそうと叔父上、早くアコルのマジックバッグを使ってみましょう」


 難しい話は置いて、私はアコルが叔父上に貸したマジックバッグに、どれだけの収納量があるのかを確かめることにした。    

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は11日(月)の予定です。

雪が積もって仕事がキャンセルに……悲しいんだけど時間ができた。さあ書こう\(^o^)/

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