番外編13 アエラボ商会の実力(6)
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◇◇ バッセ王 ◇◇
私の思考能力は、一般人よりも優れていると自負していたが、単なる思い違い・・・いや、思い上がりだったと思い知らされた。
「これは私の商会で新しく販売される予定の、疲労回復効果のあるハーブティーです。試飲した商会メンバーには、爽やかな甘みもあり飲みやすいと好評です」
アエラボ商会のロゴ入り白磁のティーポットに、優雅な所作でお湯を注がれている覇王様は、会談の冒頭、正式な挨拶もされずに何故かマジックバッグからティーセットを取り出し、私たちの為にお茶の準備を始められた。
正式な会談では、一番地位の高い者が第一声を口にするまで、他の者から声を掛けることができない。
だから、どのようなお叱りを受けるのだろうかと緊張していた我々は、いきなり会議机の上に湯気の出ている鉄瓶が出てきて、何が起こったのか理解できなかった。
つい先程、倉庫街の建物に突入した私と側近3人は、大罪人である外務大臣と副大臣を捕らえて、覇王様を救出した。
王であると名乗った私に剣を向けた手下の男4人は、ボンテンク様に氷魔法で瞬殺された。
死をも覚悟して地下室に急ぎ、監禁されていた覇王様を救出した私は「どうか首都の破壊はお許しください」と深く頭を下げ、側近3人は跪き平謝りした。
本当は土下座したかったが、覇王様がアエラボ商会の商会長として遇することを望まれているので、それが精一杯の謝罪だった。
「はじめましてバッセ王さま、私はコルランドル王国の王都ダージリンに本店を置くアエラボ商会の商会長をしているアコル・ドバインと言います。
折角ですので、ミルク公国連合にとって有意義な商談をいたしましょう」
ミルク公国連合の大臣に捕らえられたことや、マジックバッグを奪われたことには触れられず、にっこりと微笑んで覇王様は会談を希望された。
大罪に対する賠償請求や、ドラゴン討伐に対する出動料金等を話し合うための話し合いをされるのだろう。
王宮に到着した私は、お二人を最上級の貴賓室へとご案内し、こちらの諸々の準備ができるまでお待ちいただくようお願いした。
会談に出席する宰相や財務大臣、その他の主要メンバーを急いで集め、いくらまでなら賠償金や討伐料が出せるのかを、大至急議論しなければならない。
議論の冒頭、外務大臣の裏切りで親書が届いていなかった事実を伝えると、皆は大きなショックを受け絶句した。
どんなに忙しくても、王自身が覇王・勇者学園都市に出向くべきだったと、年長であり私の伯父である宰相から厳しい意見が出された。
……確かに、王として取り返しのつかない判断ミスだった。
「レイム公爵夫人からお聞きしていた覇王様のお人柄であれば、直ぐに和議協定を結べると考えていたのに、私は外務大臣から面会を拒否されたという報告を信じてしまった。
全ては、疑念のあったバタドタを、外務大臣に任命した私の落ち度だ」
バタドタは、他の大臣たちとも表向きには上手く信頼関係を築いていたので、誰も私に文句を言わないし、騙されていたことが信じられない様子だ。
重い空気が流れ、皆の溜め息が漏れるが、悠長にしている時間などない。
直ぐに出せる上限額を決め、この国を守るために頑張ろうと一致団結する。
ハーブティーの爽やかな香りが広がり、緊張でガチガチになっていた私や大臣たちを癒していく。
「このカップは覇王ブルーという名の新作で、もともとミルク公国連合と学園都市との友好の証としてお渡しする予定だったモノです。
さあ、遠慮なくお飲みください。お茶は私の趣味なんです」
あっという間に10人全員分のお茶を淹れられた覇王様は、美しいブルーの模様の入った白磁のマグカップを、我が国との友好の証として用意されていたモノだと仰った。
……もしかして、カップ1つが金貨5枚は下らないという噂の覇王ブルー?
……こんな高価なカップを頂いて、私は何をお返しすればいいんだー!
皆は飲んでもいいのか分からず挙動不審になっていたが、覇王様とボンテンク様が口をつけられたので、恐る恐るカップを持って飲み始める。
カップから漂う爽やかな香りは、お茶を口にすると少し甘くて優しい味に変化した。
……ああ、なんて美味しいお茶なんだ。
「さあ、それではアエラボ商会の商会長として、ミルク公国連合の皆様にとってもアエラボ商会にとっても、有益となる商談を始めましょう。
今回私がご提案するのは、ミルク公国連合の首都に、アエラボ高学院・中級学院を設立する案件についてです」
「はい?」と、私と数人の大臣は思わず声に出してしまった
……賠償金や討伐料金を話し合うための会談だったはず・・・だよな?
……えっ? 商談?
「あのー、賠償金やドラゴンの討伐代金の話しでは・・・」と、財務大臣は恐る恐るではあるが、勇気を出して確認する。
「商会長は、ミルク公国連合の経済発展と土木技術の発展、ホバーロフ王国との差別化をお望みです。
待っている間に、2つの学院の概要と設立に要する期間や規模等を書き出しておきました。
アエラボ商会としましては、ミルク公国連合から2つの学院の土地の提供を無償でお願いしたいと思っています。ああ、学院は城壁の外側で構いません。
それと学院の周辺に、多くの民をケガや病気から守るための薬草園と温室をつくりたいので、少し広めの土地をアエラボ商会に売ってください」
ボンテンク様はそう言ってにっこりと笑うと【学園都市が後援する学院設立について】と書かれた大判紙を、会議机の上に2枚並べられた。
「ミルク公国連合の、学園都市と覇王に対する友好の証は、2つの学院の土地の提供だけで結構です。
覇王学園と勇者学園の優秀な卒業生を教師として派遣するので、楽しみにしていてください」
覇王様は夢のような話で、賠償金や討伐代金の受け取りを固辞され、城壁の外側の安い土地を友好の証にと望まれた。
あまりにも有難い申し出に、私も大臣たちも感動して涙が溢れそうだ。
「ああ皆さん、ボンテンクと一緒に、今から被災地支援に行ってください」
商談の終了後、先程までの商会長とは別人かと思う威厳を漂わせ、今度は覇王として命令された。
一瞬で場の空気を変えた覇王様の御身体は、七色のオーラに包まれていた。




