番外編12 アエラボ商会の実力(5)
◇◇ バッセ王 ◇◇
今回のドラゴン襲撃の救済と、覇王様にご支援いただいたことについて会議をしていたら、覇王様の契約妖精だと名乗る者が、私の席の真横に突然姿を現した。
その者は1メートルくらいの身長で、踵まである深緑のローブを着ていた。
童話に出てくる賢者と同じような杖を持ち、6色の輝く4枚の羽根を見れば妖精であることを疑う者はいないだろう。
溢れ出る魔力に、誰も彼も上手く息をすることができない。
『我は覇王様の契約妖精ロルフ。バッセ王よ、覇王様から手紙を預かってきた』
近付くことさえ畏れ多いが、私は覚悟を決めロルフ様の前に跪き、差し出された手紙を受け取った。
お世話になっている隣国のレイム公爵夫人からお聞きしていた、賢者妖精ロルフ様で間違いない。
突然届けられた覇王様からの手紙に、会議室内の全員に緊張が走る。
たった今まで、覇王様の真意について議論していたのだから。
渡された手紙に急いで目を通した私は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、思わず立ち上がり絶句した。
……な、何ということだ! 選りにも選って覇王様に手を出すとは!
『して、どうするのじゃ?』
「た、直ちに救出に向かい、反逆者を断罪いたします!」
私は再び跪いて返答し、申し訳ありませんと深く頭を下げた。
「バタドタ外務大臣とネンザ副大臣が、覇王様のマジックバッグを奪い、あろうことか、覇王様を拉致監禁し殺すと脅迫している。
30分以内に覇王様を救出し反逆者を断罪しなければ、王都ミルクは壊滅してしまう! 全員武装し、倉庫街に監禁されている覇王様をお救いするのだ!」
私は怒りと恐怖で拳を震わせながら、部下に手紙の内容を伝え命令した。
『あやつは、ホバーロフ王の間者だ』
「はっ? それでは、この手紙に書いてある密偵からの報告書とは、バタドタ宛ではなく・・・まさか私宛の・・・」
私は目を大きく見開き、それ以上何も言えなくなった。
バタドタ外務大臣が、自分宛に届くはずの密書を他者に奪われ、取り返そうとして誤って覇王様のマジックバッグを奪ったんじゃぁ・・・?
ホバーロフ王の間者?
……外務大臣であるバタドタは、これまで2度ほど親書を携え覇王様との謁見を求めて学園都市に出向いたが、宰相から謁見を断られたと報告していた。
……せめて親書だけでも渡して欲しいと懇願したが、それさえも却下されて悔しい思いをしたと、涙ながらに語っていたが・・・あれは嘘だったのか?
そこからは全員、生きた心地がしないまま全速力で走った。
もしも覇王様にケガでも負わせようものなら、国際問題どころではない。
建国したばかりのミルク公国連合が、滅ぼされてしまうかもしれないのだ。
用意された王の馬車になんて、悠長に乗っている場合ではない。
早馬に跨り、側近3人を連れ「緊急事態だ! 道を開けろ!」と叫びながら首都の石畳を疾走していく。
緊急事態を知らせる王宮の鐘が鳴り響き、人々は慌てて道の端に寄っていく。
賢者妖精ロルフ様に教えて頂いた倉庫街を視線に捉えた時、馬に乗った男が前方の横道から現れ、行く手を塞ぐように道の真ん中で立ち止まった。
……緊急事態だというのに誰だ!
どけ!と怒鳴りそうになったが、男の特徴を見て私は息を呑んだ。
……独眼?
……左目に眼帯・・・あれは、覇王様の従者ボンテンク様か?
数々の覇王伝説は、我が国にも伝わっている。
特に従者であるボンテンク様は、ミルク公国連合と懇意にしてくださっているレイム領のご出身で、公爵夫人から桁外れに優秀なのだと聞いている。
私は直ぐに手綱を引き、馬の速度を落として馬上の人物に近付いていく。
「はじめましてバッセ王。私は覇王様の従者でボンテンクといいます。
ひとつ確認しますが、ミルク公国連合はこれまで学園都市や覇王様に親書を送られたことはありますか?」
……やはりボンテンク様だ。
……そして嫌な予感というか、大変な裏切りの確証がとれた。
「この度は本当に申し訳ありませんボンテンク様。
嘘偽りなく、私はこれまで外務部に命じて3度親書を送り、外務大臣が直接親書を持参し二度学園都市を訪れたと・・・つい先程まで信じておりました」
悔しくて情けなくて唇を噛み締めて頭を下げる。
王である私が頭を下げたことに、見守っていた側近たちが驚いた顔をする。
私は王だ。だが、覇王様はこの大陸の覇王であり、従者様は大国コルランドル王国の大臣にさえ頭を下げることはないと聞いている。
そもそも、今、私は目の前の従者様に斬られても文句が言えない状況だ。
私やミルク公国連合にとって、外務大臣と副大臣は許し難い裏切り者だが、覇王様や従者様からみれば、外務大臣も副大臣も私の臣下に過ぎない。
「まあ、そんなことだろうと思っていました。
覇王様も私も、ミルク公国連合にもバッセ王にも、特別な悪意など抱いていませんし、内政に干渉する気もありません。
本日アコル様は、アエラボ商会の商会長として首都ミルクに来ておられますから」
ボンテンク様はそう言われると、同情を込めた眼差しで微笑まれた。
……アエラボ商会の商会長?
……そう言えば手紙の中には、私がアエラボ商会の会長だとは気付いていないと書かれていた。
大きな外交問題になり得るという文言は、大商会であるアエラボ商会の会長に対しての暴挙ということだ。
……危なかった! 覇王様は、ご自分を商人として扱うよう示唆されているのだ。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。
更新遅れました。今週はもう一話更新したいと思います。




