番外編7 勇者学園編入試験(3)
停学処分?・・・なんでミレーヌ様が学生の名前を知っているのか分からないけど、ミレーヌ様もトーブルお兄ちゃんも、この男と私をどうしても対戦させたいみたい。
ベルギアスという20歳くらいの男は、停学のことを言われたことが気に入らなかったのか、ミレーヌ様を睨みながら魔法陣以外の攻撃なら相手してやると注文を付けた。
再び的が作られ、今度は的の破壊ではなく、一番得意な魔法攻撃を見せるようにとギルマスが指示を出した。
……一番得意な攻撃? えっ、いいのかなぁ・・・
不安になった私は、視線をボンテンクお兄ちゃんに向けてみる。
すると、ボンテンクお兄ちゃんもトーブルお兄ちゃんも、親指を立てて頷いた。
……いいんだ・・・
先に攻撃魔法を披露したベルギアスは、「行けー! ファイヤーボール」と叫びながら、的に向かって自分の頭と同じ大きさのファイヤーボールを放った。
ドンと音がして、的の上部が少し崩れた。
「フン、化けの皮が剥がれる前に、不正を認めたらどうだ?」と、満足そうにベルギアスが言う。
「クソガキが、女のくせに偉そうにするからだ!」と、何故かエボデルが偉そうに威張る。
ちょっと腹が立ったので、私はベルギアスに向かって「あれが一番得意な攻撃だなんて、びっくりだわ」と言ってクスリと笑った。
そして意識を集中し、的に向かって両手を突き出し叫んだ。
「改良型ドラゴントルネード!」
両手から飛び出した2つの炎は、的に向かって螺旋状に絡まりながら飛んでいく。ローゼリーのお陰で威力が凄いわ。
ドカーンと派手な音がして、的の3分の2は爆破され、砂塵がおさまるとビッグベアーの足だけが残っていた。
……う~ん、なんだかシュール・・・
しーんと静まり返った演習場に、「本当に情けない男ね、2人とも」とノエルお姉さまの蔑んだ声が響いた。
その途端、怒りの形相で振り向いたベルギアスが、あろうことかノエルお姉さまに向かって「黙れ!」と叫んで魔法攻撃を仕掛けた。
でもファイヤーボールは、ノエルお姉さまが展開した反転型魔法障壁に当たり、放ったベルギアスの方に向かって跳ね返される。
跳ね返ったファイヤーボールは、ベルギアスではなくエボデルの右腕をかすめ、エボデルは「ギャーッ!」と大袈裟に叫んで魔法攻撃を放とうとする。
……無抵抗な人に向けて魔法攻撃を放つなんて、信じられない暴挙だわ。
その直後、「天誅!」というミレーヌ様の声がして、2人の男に向かって拳大の尖った氷が飛んでいく。
その数6個。狙い定めたように、氷は2人の男の両肩と股間?に命中した。
「宰相トーブルの命令だ。この2人を直ぐに捕らえろ!」
トーブルお兄ちゃんが指示を出すと、どこからか警備隊員が10人ほど雪崩れ込んできて、血を流し、のたうち回る2人を取り押えていく。
「何をするー! 私の父はサナへ領の伯爵だぞ」とベルギアスは喚いて抵抗するが、警備隊員は完全無視だ。
「お前たちは貴族ではない。エボデル、お前はサナへ領主から既に爵位を剝奪され、実家からは絶縁状が出ている。
男爵令嬢に対する暴行及び宝石の強奪、数名の子供に重傷を負わせた罪、他の余罪も含め領主から指名手配されている。
ベルギアスには、婦女暴行、冒険者コースの子供への恐喝と暴行容疑で逮捕状が出ている。目撃者や証人も居るので逃げることはできない。
よって、本日付けで勇者学園を追放し、その名を抹消する。
私ボンテンクは、学園都市法務部長の権限で、第二級犯罪者であるお前の貴族籍を剝奪し厳罰に処す!」
ばばーんとボンテンクお兄ちゃんが登場し、2人の罪状を明らかにしていく。
法務部長と聞いた2人は「違う、私じゃない!」と叫んで逃げようとする。
「やはり小者ね、往生際が悪いわ。
残念だけどアナタたちには、貴族管理部長である私ミレーヌに対する不敬罪と、産業部長であるノエル様に対する魔法攻撃の大罪も加わるわ。
フフ、極刑は免れないわね」
不敵に笑うミレーヌ様がとどめを刺したところで、2人は引き摺られていった。
「あの美しい方が、泣く貴族も黙る氷の貴族管理部長と名高いミレーヌ様」
「あれが学園都市の礎を築かれたトップメンバー。覇王様の従者であるボンテンク様まで・・・」
学園都市内の噂をよく知る在学生は、憧れの人物の活躍を見て熱い息を吐く。
「あの方が奇跡の医師にして宰相のトーブル様」
「王立高学院特別部隊の隊長として活躍され、女性の地位向上に大きく貢献されているノエル様にお会いできるなんて」
受験者も、信じられない大物に会えたことを喜び感動している。
そして、うっとりとした表情で去っていく4人を見つめ、今日受験して良かったと幸運を噛み締める。
4人が去って冷静になった在学生と受験者は、あり得ない罪を犯した2人の言動や行動を思い出し、拳を握り締め許せないと怒りを露わにしていく。
明日には今日の事件が学園都市を駆け巡り、4人の人気は爆上がりするだろう。
……皆さんは、犯罪者を捕える為に来られたのね。
犯罪者の捕縛もあったけど、きっと私のことを心配して、忙しい中をいらしてくださったんだわ。ありがとうございます。
「メイリ合格! 以上で編入試験を終了する。合格した15人は入学手続きをするように。不合格になった者も、今の悔しさを忘れず、また挑戦してくれ」
ギルマスが笑顔で編入試験の終了を宣言し、不合格だった受験者たちは解散していく。
「さっきの攻撃はどうすればできるんだ?」って、レフィルが瞳を輝かせて駆け寄ってくる。
「ねえメイリ、勇者学園に入学する必要ってある?」って、ユリーカは首を捻って困惑した表情で訊いてくる。
他の合格者たちも見学していた在学生たちも私を取り囲んで、先程使用した魔法陣攻撃と炎の攻撃について質問攻めにしてくる。
……やっぱり炎の攻撃は、やり過ぎだったんだ。ふーっ。
「合格者は早く手続きを済ませろよ。あと1時間で学生課が閉まるぞー」
ギルマスが助け舟を出し叫んでくれたので、私は走って逃げだした。
合格手続きを終えた私は、レフィルとユリーカ、そして今日から同期生になったタニア17歳とミシュリー18歳を連れ、我が家に向かっている。
4人ともアパートが決まっていなかったので、うちに下宿できるかどうかを確認するためだ。料金を勝手に小金貨2枚って言ったけど、大丈夫かな?
道中、皆は今日の出来事と覇王軍メンバーのことを熱く語リ合う。
ミレーヌ様の信奉者であるマギ領出身のユリーカの興奮が凄くて、「生きててよかった」って何度も言い、ミレーヌ様の自慢話をする。
同じように今年マリード高学院を卒業したタニアとミシュリーは、マリード領の騎士爵家の娘で、自領の誇りであるノエルお姉さまの自慢話で対抗する。
そこにボンテンクお兄ちゃんの自慢をする、レイム領出身のレフィルが加わる。
私だって、宰相になったトーブルお兄ちゃんの自慢をしたいけど、元王族でもあるトーブルお兄ちゃんの話は我慢だわ。
……その4人は、時々うちに遊びに来そうだけど大丈夫かな?
……いや、お兄ちゃんが覇王様だって知ったら、倒れるんじゃないかな・・・
買った家は元商家で、商業ギルドに近いメイン通りに在る。
1階の半分は店になっていて、今は覇王学園創薬学部が使用する薬草の管理倉庫として使われている。
残りの半分は、従業員用の小部屋と小キッチンと風呂になっている。
2階は客室が2部屋と、会議室、リビング、キッチン、ダイニング、倉庫で、3階は私たち家族の居住スペースだ。部屋数は5つありメイド専用の部屋も別にある。
3階は階下の3分の2の広さで、残り3分の1はベランダになっているから、洗濯干し場や花壇として使っている。
「何だこれ、デカい屋敷だな」と、レフィルが建物を見上げながら言う。
「メイリちゃんは商家のお嬢さんだったの? ここって、学園都市の一等地よ」って、タニアが辺りを見回しながら訊く。
「う、うん、商家みたいな貴族みたいな?」って、私は曖昧に答えておく。
……アエラボ家は男爵だけど、兄は商会主で覇王だからどうなんんだろう?
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




