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番外編3 新しい商売(2)

 完全にビビっているセイガさんとデルさんの前に、片面だけブラックドラゴン雄の翼で作ったマジックバッグ小を置き、王妃様と学院長から預かったカラ魔石を取り出す。


 両面をブラックドラゴンで作ると、膨大な魔力量が必要になる。

 俺以外でも使えるように、魔力量が150以上あれば起動するマジックバッグを試作しておいたのだが、うっかりポケットに入れたままだった。


「はて?」と、俺は首を捻る。

「はあ?」と、セイガさんは出てきた魔石を睨む。

「なんだこの微妙な色の魔石は!」とデルさんは叫んで顔をしかめた。


 出てきた魔石は間違いなく王妃様と学院長から預かったカラ魔石だが、既に魔力は充填され、2つはちょっと不気味な銀色と赤の縞模様になっている。

 残りの2つは銀色と茶色の縞模様で、銀色だけが無駄に輝きを放っている。


「これは・・・2個が火適性の変異種の魔石で、残りの2個は土適性の変異種の魔石ってことかな?」


「いやアコル、それよりもなんで充填済みなんだ?」


「リーダー、そこじゃないっすよ。この不気味な色と輝きの方が変でしょうよ」


 3人で充填済になっている不気味な魔石をガン見しながら、う~んと唸る。



「アコル、そのマジックバッグには何が入ってるんだ?」


俺がやらかした時に叱るいつもの表情で、セイガさんが質問してきた。


 10歳の時から半分親父代わりのようだったセイガさんは、俺の非常識な行動によく拳骨を落としていた。

 ここで視線を合わせてはいけない。きっと俺の目は泳いでいる。

 俺を覇王様ではなくアコルと呼んでいるので、間違いなく叱られるパターンだ。

 

「え~っと、薬の素材として使い掛けのブラックドラゴン雄の幼体が1頭?」


「はあ? なんで疑問形なんだよ! そんな物騒なモン持ち歩くな!」


 ……やっぱり叱られた。


 覇王になった俺を本気で叱れるのは、母さんと会頭とセイガさんとダルトンさんくらいだ。

 久し振りに叱られ、俺はつい嬉しくなってへらへらしてしまう。


「この顔は反省してませんぜリーダー」と、デルさんも平常運転だ。



 突然、俺の頭の中にあるシーンが思い浮かんだ。


 ……これは未来のビジョンか?



 俺が急に黙り込んで思案し始めたので、セイガさんとデルさんは溜息を吐きながらも黙って、俺が話し始めるのを待ってくれる。

 俺がこんな風に思案し始めた時は、問題の解決策が視えている時だと知っているからだ。



「冒険者を引退した後はどうする予定ですか?」


俺は弟分のアコルから商人にキャラ交換し、にこにこ上機嫌で2人に質問する。


「その顔は、また俺たちを何かに巻き込む気だな」


胡散臭い者を見るような目で、鋭い突っ込みをするセイガさん。


「もう魔獣とは戦わないぞ! 王都で暮らしたいリーダーと違い、俺は田舎でのんびりしたいんだよ。もう金も要らないぞ」


デルさんは眉を寄せ、俺の話を聞く前に予防線を張る。


「それではお二人を、アエラボ商会に新しく設立する【魔石充填部】に、いや、この名前じゃ危険か・・・う~ん、【銀色魔石部】? 得意先が国や領主やギルドだから【公共事業部】かな?

 そういうことで、お二人をアエラボ商会の特別役員としてお迎えします」


「はっ、そういうこと?」と直ぐにセイガさんが突っ込み、「だから、どんなことだよ!」とデルさんが吠えた。


 俺はにまにましながら、2人に変異種以上の魔石を充填する事業を立ち上げることを分かり易く説明していく。

 勿論、何度か充填を試すことも必要だし、充填した魔石の性能検査も必要だけどと重要事項も付け加える。


「このマジックバッグは、魔力量が150以上あれば収納も取り出しもできます。

 お二人とも150は越えてましたよね。

 セイガさんは王都のアエラボ商会の勤務で、デルさんは学園都市の郊外でのんびりすればいいんじゃないかな? 特別役員は週2日の勤務で構いません」


 セイガさんがアエラボ商会本店で働けば、母さんたちのことも安心できるしと、俺は悪魔のささやきでダメ押しをする。

 セイガさんは母さんのことが好きで、これまでも俺の家族を守ってくれていた。そろそろ前に進んでもいいんじゃないかな。


「ブラックドラゴン入りのマジックバッグにカラ魔石を入れ、充填させる仕事を週2日だと? そんなこと本当に可能なのか?」


「はいデルさん。得意先が得意先ですから、誰にでも任せられる仕事じゃありません。

 お金がたっぷりあって、時間にもゆとりがあり、秘密厳守できて、商会長である俺が信用できる人って考えたら、他に適任者なんて居ないでしょう?」


逃がす気なんてありませんよって極上の笑顔で、俺はデルさんに言った。


 ……きっと大丈夫だ。ああやって、突然頭の中に思い浮かんだことは、良いことも悪いことも全て現実になっている。



「相変わらずの力技。真似できる者がいないから商売敵もいねえし」


既に慣れっこのはずのデルさんが、諦めたように呟く。


「でもアコル、いや覇王様、今不足して困ってるのは上級種の魔石だろう?

 これからもっと魔術具を増やすなら、そっちの方から手掛けた方がいいんじゃないか? 冒険者ギルドは仕事が減るだろうが・・・」


急ぐ必要のある上級種の魔石の充填はどうするんだと、セイガさんが問う。


「あまりアエラボ商会が儲けるのも気が引けますから、モンブラン商会の各支店に覇王軍メンバーを就職させ、上級種のカラ魔石の充填をさせましょう。

 ただし、売上金の半分は特例として領主に納めるようにします。

 どの領地も大厄災で資金繰りが大変でしょうから、きっと喜ばれると思います」


 そろそろ魔獣の大氾濫は終息するだろう。

 覇王軍第二部隊に所属している者は、9月末で正式に契約期間が終了する。

 冒険者として残りたいと希望しなかったら、声を掛けてみればいい。


 ブラックドラゴンは危険だから、グレードラゴンで試してみよう。

 上級種のカラ魔石を充填するくらいなら、バラバラに割れたブラックドラゴンの未使用魔石でも有効かもしれない。


 ……やばい、考えただけでワクワクしてきた。


 ……あぁーっ! また自分の仕事を増やしてしまった。




 翌日、俺はブラックドラゴンの魔力で充填された変異種の魔石4個を持って、覇王学園の創造学部で実験中のカルタック教授を訪ねた。


「くそー、なんで起動しないんだ!

 変異種の充填魔石じゃ魔力量が足らないのか? ドラゴンか? ドラゴンならいけるのか!」


 ドアを開けた途端、カルタック教授の叫び声が聞こえた。

 如何にもお貴族様って感じだったカルタック教授は、すっかり覇王軍や覇王探求部会のノリに染まって、言葉遣いが平民寄りになっている。はは・・・


 先月から取り組んでいた新しい魔術具が、どうしても起動しないとカルタック教授がぼやいていたのを思い出し、実験に付き合ってもらうことにした。

 俺は挨拶を省略し、叫んでいるカルタック教授の目の前に、縞模様のちょっと禍々しい魔石を差し出す。


「な、何だこの魔石は! おや覇王様、いらっしゃい」


 充填魔石に目が釘付けになっている教授は、研究室に俺が入ってきたことに気付いて笑顔で迎えてくれる。

 助手をしていた学生や覇王探求部会メンバーも、何事かと集まってきた。


「実は、新しい方法で充填した魔石の性能を試そうと思い、協力依頼に来たんです。先に注意事項を言いますが、この充填魔石を素手で触ると危険です」


直ぐにでも使いたいと手を伸ばそうとしていた教授に、俺は真顔で注意する。


 昨日、セイガさんが素手で触って軽い火傷をした。

 慌てて俺は中級ポーション【慈悲の雫】を振り掛け、残りを用心のために飲んでもらった。

 俺は火傷しなかったから、魔力量の違いが影響していると思われる。

 

 慌てて手を引っ込めたカルタック教授は、高熱に耐える魔獣素材の皮手袋をして、恐る恐る充填魔石を持ち上げ、実験中の魔術具にセットした。

 弟子たちが見守る中、ゴクリと唾を飲み込んでカルタック教授はスイッチを押した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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