36 妖精使いのアコル(2)
魔法省の本部は、王族が住む宮殿前に建っているコの字型の建物の、手前に出っ張った右側に在った。ちなみに仲の悪い軍本部は反対の左側に在る。
正面中央の長い建物の部分には他の部署の本部があり、魔法省の研究施設は、城壁に囲まれた王宮の中でも外れにあるそうだ。
王宮までは会頭と副会頭と一緒に馬車でやって来たが、会頭は外務部に用事があって別行動となった。
魔法省に俺を引率していく役目を引き受けてくれたのは副会頭だった。
セージさんも立候補してくれたが、副大臣からの呼び出しだからと、伯爵家出身の副会頭に決まった。
「対応する相手によってキャラを変えますので、副会頭も合わせてくださいね」
「ああ、しっかり練習をしたから大丈夫だ。私の役どころは、とにかくアコルを困った子供だと思っている上司という部分が同じだから、どんなキャラでも問題ない」
馬車を下りて魔法省本部に向かいながら、俺はマンデリン副会頭と最終打ち合わせをしていく。
初めての王宮だが、商人モードの俺は全く緊張することもない。何処かに商売に繋がるものが落ちてないか探りながら歩く。大商人を目指すなら、国を相手に商売することは必須だから、この場所にも度々訪れるくらいにならないといけない。
「あ~っ、花壇の手入れがなってないな。花の配置も色の組み合わせにもセンスがない。国の玄関である場所がこれでは他国に笑われる」
「これから魔法省との対決だというのに、アコルが気になるのはそこか?」
「俺に王宮の花壇を任せてもらえば、見違える程に美しくして見せますよ。現在花壇の担当をしている商会がいるのでしょうか? いなければ商機ありです副会頭」
俺は頭の中で花の種類や経費を考え、利益をどのくらい確保できるかブツブツ呟きながら計算していく。
「国が相手なら、仕事を貰うことを優先して利益を抑えるか、逆にガッポリ儲けさせて頂くか……どっちがいいと思いますか副会頭?」
俺の呟きを隣で聞いていた副会頭は、呆れた顔をして「モンブラン商会が受けるのであれば、当然ガッポリ儲ける方だろう」と答えて笑った。
初めて国と商売する商会や商店であれば、信用を得るために利益を落としてでも取引することもあるが、モンブラン商会であれば、こちらの言い値で大丈夫だろうと教えてくれた。
……モンブラン商会の傘下である【薬種 命の輝き】に仕事を任せてもらえば、母さんも張り切って仕事するだろうなぁ。なにせ俺には最強のパートナーである妖精のエクレアがついてるんだから。
魔法省本部の入口で名前と用件を言って、担当者さんの所まで案内してもらう。要件=何かのために必要な条件
今日の俺の格好は、新しく買ったばかりのシャツとズボンと靴で、如何にも王宮に来るために買いましたって感じになってる。ただ単に背が伸びて前の服が合わなくなっただけだが、新米商会員見習いっぽくていい。
案内してくれた受付の女性は、第3客室と書かれた部屋の前でドアをノックした。
「どうぞ」と中から声がして、先に副会頭が部屋に入り挨拶をして、続いて俺も秘書見習いをしているアコルと言いますと挨拶をした。
中で待っていたのは、ちょっと偉そうにしている上級役人らしき40代くらいの男性と、魔法師と思われる独特の服を着た若い男性だった。
二人の男は長テーブルに肘をつき、俺たちをジロリと見て観察する。副会頭と俺の前に机はなく、椅子だけが対面するように置いてあった。まるで就職の面接でもするかのような椅子の配置に、思わず笑いが零れそうになったが我慢した。
「座りなさい」と声を掛けられてから、俺たちはゆっくりと座った。
二人の雰囲気から、俺は先手必勝でガンガン攻めていくべきだと決め、にっこりと嬉しそうに笑って切り出した。
「妖精と契約できる者は、上級魔法師並みの待遇を受けられるって聞きました。住むところもタダで、レイム公爵家やサナへ侯爵家のお抱えにしてもらえて、お金も沢山頂けるんだって先輩方や、知り合いの上級貴族の人が説明してくれました」
「こらアコル、発言の許可が出る前から話すものではない!」
浮かれて話す俺を睨みながら副会頭が叱って、面接官(眼前の二人)に「申し訳ありません」と謝罪した。
「でも副会頭、こっちは呼ばれたから来たんですよ。当然相応の待遇を用意しているのが当然じゃないですか! だって妖精と契約できる者って凄く希少で、高位貴族、しかも侯爵家以上の貴族の保護対象になるってことは、貴族だけじゃなく平民だって知ってますよ」
「は~っ、いいからお前は口を閉じろ! 魔法省の用件がお前の保護だと決まっているかどうかも分からないのに、勝手な発言をするんじゃない!」
副会頭は大きな溜息を吐きながら、今度は少し大きな声で俺を叱った。
「いや、まだ君が本当に妖精と契約できると確認した訳ではない。君は自分の魔力量がどのくらいあるか知っているかね?」
上級役人らしき面接官が、ちょっと俺を見下すような目で見ながら質問した。
「えっ? 魔力量ですか。はい、大体分かります。俺、じゃなかった私は、モンブラン商会に入る前から冒険者登録をしていて、始めはFランクからスタートしたんだけど、最近Dランクに上がったんです。たった3年でFランクからDランクですよ。凄いでしょう。ふふん、俺ってもしかしたら天才かもしんない。妖精と契約できるから、もしかして超天才?」
俺は育ちのあまり良くない子供で、自分を過大評価しているさもしい根性の持ち主を演じていく。
首から下げていた冒険者登録証を取り出し、自慢気に立ち上がって、よく見えるように面接官の前に突き出す。
「アコル、言葉使い……座りなさい」って、副会頭が小声で注意する。
「はあ? Fランクからスタートしただと!」
偉そうな役人は、何故か大声を上げて俺を睨んだ。
「Dランク? それじゃあ君の魔力量は40以下なんだな? そんな者が妖精と契約できる訳がない!」
信じられないと驚いた魔法師は、俺を指差し嘘つき呼ばわりして否定する。
「なにそれ、できる訳がないって失礼じゃない? 自分の常識でものを言うのは止めてよ。俺の薬草採取の腕はCランク並なんだぞ」
「こら、アコルやめなさい」と、副会頭が俺の腕を引っ張って座らせる。
「話にならない! Dランク風情の冒険者だったとは、期待外れ以前の問題だ」
「そうですね課長、魔法師の私が来るまでもなかったようです」
二人の面接官は、勝手に憤慨して部屋から出ていった。
こういう圧迫面接の時は、必ず二次面接もあるそうで、俺は次の面接まで大人しく待っ……たりなんかせず、部屋に飾られている調度品を見学させてもらう。
まあまあの彫刻だが、いかんせんほこりを被っている。魔法省には見習いとか雑用担当は居ないのだろうか? もっと真面目に働けよ! いや、もしかしたら、この広い魔法省を一人で担当しているとか。う~ん……どっちにしてもお客様をもてなす気概が感じられない。
20分後、「申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください」と、受付に居たお姉さんが、また声を掛けに来てくれた。
「あの~、お茶は出ないんでしょうか? 俺たち客なんですけど」って不満そうに俺は言ってみる。
「ええっと、お茶の必要はないと上司から言われています」って、申し訳なさそうにお姉さんは応えた。
……ふ~ん、モンブラン商会の人間にはお茶など必要ないと? それとも俺に出すお茶がもったいないということか? それなら自前でいけばいい。
俺はマジックバッグからお菓子と水筒を取り出して、勝手に飲み食いを始める。
持ってきたお菓子を半分くらい食べたところで、次の面接官がやって来た。
今度はもっと偉い上級役人と、肩に妖精を載せたおじさんが一緒だった。
一人は魔法省で副大臣の秘書をしている者だと自己紹介し、もう一人は教会で保護され、現在王宮内の建設部で働いている妖精使いだと自己紹介した。
……可愛い男の子の妖精さんと、小太りで脂ぎったおじさんの組み合わせはどうなんだろう?
「待っている間に菓子を食う客は初めてだな」
「申し訳ありません秘書様。アコル、早くリュックに仕舞いなさい。モンブラン商会で副会頭をしているマンデリンと申します。よろしくお願いいたします」
「すみません、お茶も出てこなかったので、客扱いされているとは思いませんでした。自分で勝手にしろってことだと思ったんで……見習いのアコルです」
始めから微妙な空気が流れ、新しい面接官の二人は、どんな教育をしているんだって責めるような視線を副会頭に向ける。副会頭はハンカチで額の汗を拭きながら「申し訳ありません」と、再び頭を下げた。
「君は妖精と契約していると聞いたが、それは本当のことかな?」
半分信じて、半分は信じていない感じで質問したのは副大臣秘書だった。
「フッ、誰がそんなことを魔法省に報告したんです? もしかして、同僚の金を盗んで追い出された……いや、表向きは自己退職したらしいニコラシカさんですか? 俺に犯人だと見破られたことを、ネチネチと男らしくない奴だな」
俺はガラリとキャラ交換して、完全に上から目線で発言していく。態度も少し横柄にする。
「君はこの部屋の中に居る妖精が見えるかな」
「その質問の前に、どういう理由で、なんの権限があって魔法省に呼び出したのか、俺はまだ説明されてなかったと思うが? もしかして王宮で働く者は、客だと言った者に対し、用件も告げず質問だけするように躾けられているのか?」
「「 な、なんだと!! 」」
面接官の二人は、俺の態度と物言いに腹を立て、険吞な視線で俺を睨んだ。
そんな視線などものともせず、俺はゆっくりと腕を組み、微笑んで見せた。
「クッ、魔法省は、妖精を使える者を発見したら保護するべきだと思い、本当に契約できるかどうかを確認しようとしたのだ」
正論を言われて悔しそうにする副大臣秘書は、表向きの理由を保護だと言った。
こんなガキの言うことに応えた自分が許せないのか、瞳の中に殺意さえ見える。
「嫌だなあ、保護? 保護が必要だったら友人に頼むから必要ないよ」
「ゆ、友人だと? 妖精使いを保護できる貴族に知り合いが居ると言うのか?」
3年前の本店での捕り物騒動の時、会頭やセージさんが、俺をレイム公爵家やサナへ侯爵家の血族かも……って言ったらしいから、探りを入れてきたな。
「友人って言ったら叱られるだろうか? 一緒に森で狩りをしたことがあるから、聞いてもらったら分かる。名前はラリエス様だよ」
「ラリエス? 男爵家か子爵家の者か? 一緒に狩りをしただと?」
得体の知れない子供の友人など、高位貴族であるはずがないと思っているのだろうか、それとも俺がレイム公爵家やサナへ侯爵家の名を出すとでも思っているのだろうか、探るような視線を隠そうともしない。
「確かヘイズ侯爵家とは、あまり仲が良くなかった気がするけど、ねえ副大臣秘書さん、妖精使いを保護できる貴族は、最低でも侯爵家以上だったよね。男爵家や子爵家のはずがないじゃん。この俺を試してるの? ラリエス様はワイコリーム公爵家の嫡男さ」
噓はついていない。商売人は信用が大事だ。友人って言ったら叱られるかなって前置きをしたし、一緒に狩りをしたのも噓じゃない。
俺はジロリと副大臣秘書と妖精使いを睨む。さあ、どう出る?
「ワ、ワイコリーム公爵家の嫡男!?」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
メリークリスマス。今年もボッチで過ごします(笑)
10代の頃、海外の教会に住んでいたことを思い出しました。
次の更新は、26日(土)の予定です。




