357 大商人への道
本編のストーリーは、今回で完結となります。
番外編として、1年後・2年後・3年後のアコルのことや、仲間のこと、恋の行方などを何話か書く予定です。
ここまで読んでいただき、本当に感謝感謝です。ありがとうございました。
番外編も読んでいただけると嬉しいです。
たくさんの応援ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
ここは何処だろう?
はて? 見慣れない天井だ。
「お気付きですか覇王様。あぁ良かったですわ。丸一日目覚められなかったので心配しました」
俺の顔を覗き込んで声を掛けたのはノエル様だ。うん、今日も美しい。
ノエル様の隣にはトーブル先輩がいて、安堵したようにフーッと息を吐いた。
「ここは、学園都市でしょうか?」
『そうよアコル。アコルったらブラックドラゴンを討伐した後、籠から降りようとしていて炎の攻撃を受け、籠から落下したのよ。
魔力もギリギリだったし、たぶん頭を打ったのね。呼んでも起きなかったわ。
だからって眠り過ぎよ! ランドルなんて心配して広場から動かないのよ!』
「ごめん、ごめん」
エクレアがぷりぷりと文句を言いながら、あの後のことを説明してくれる。
軽い火傷を負い、落下した時に頭を打った感じの俺は、エクレアやユテがどんなに声を掛けても起きず、これは大変だと判断したエクレアが、風魔法で俺を籠に戻し学園都市に引き返したのだという。
「あっ、ブラックドラゴンの回収・・・」
『もう全くアコルさまったら、あれはちゃんとエクレア様が回収されました』
ユテも姿を現し、ぷりぷり怒りながら教えてくれる。
「覇王様、ここは女子寮です。交代で看病が必要だと私が判断し、ノエル様にお願いしました。火傷は聖魔法で治療しましたが、頭の痛みなどはどうですか?」
トーブル先輩は、医者として優しく気遣いながら質問する。
「そうだなぁ」と言いながら起き上がると、確かに後ろ頭がちょっと痛い。
触るとコブができていて、使える聖魔法を自分にかけてみる。
「めまいもないし、コブは治ったみたいだ。皆に心配かけたな」
俺はエクレアやユテ、ノエル様やトーブル先輩に笑いながら謝った。
ぐっすり眠ったようで、むしろ頭もスッキリして体調はいい。
溜まっている事務仕事をこなすため執務室に戻ると、心配していたラリエスやボンテンクたちに囲まれ、今後は単独行動を控えて欲しいとお願いされた。
翌日、エイトを連れて再びアホール山へと向かう。
ブラックドラゴンの幼体を全部討伐するためだ。
あれは小さくても危険な魔獣なのだと、自分がケガをして身に染みた。
……素材より命が大事。
「エイト、覇気を使って動きを止める。貴重な薬の素材だから丁寧に攻撃してくれ。雌1頭で、金貨500枚は軽く超えるからな」
「えっ! 金貨500枚?」
俺が【ドラゴン印の軟膏】を売り出したと知らないエイトに、その効果と利益見込みを教えると、ゴクリと唾を飲み込み、首を狙うとやる気を出してくれた。
親を亡くした9頭は、怯えて隠れているだろうと予想していたのに、雄は上位魔獣を操り餌となる魔獣を狩らせ、雌は巣の外で魔獣を食い散らかしていた。
雄の幼体はランドルに気付くと、いっちょ前に洗脳しようと不快な音をランドルに向け浴びせてきた。
ランドルは先日のお返しとばかりに、本気の咆哮を放つ。
すると、全ての幼体と周辺に居た上位魔獣が、腰を抜かしたように動かなくなった。
……あれ、ランドルの咆哮って凄い効果があるんじゃないか?
「さすがランドルだね。魔獣が恐怖で震えてる。ブラックドラゴンだって、あの嫌な音がぴたりと止まったし」
エイトは冷静に辺りを見回し、凄いぞランドルって何度も褒める。
もう覇気は必要ないんじゃないかと思ったけど、念のために放ったら失神した。
「また魔力量が上がったんじゃないですか?」と、エイトは呆れたように言い討伐していった。
……フーッ、これで最大の懸念事項が片付いた。
ブラックドラゴンという新たな脅威に翻弄されたが、この俺がお前たちの死を無駄にせず、人々の役に立つ薬として生まれ変わらせてやろう。
学園都市の運営資金不足を、これで解消できそうだ。
よし、帰ったら直ぐに軟膏を作ろう。
来週からラリエスとシルクーネ先輩が、エリスに乗ってアホール山のグレードラゴン討伐をしてくれる。
コルランドル王国の主要な山は、殆どが大氾濫済みだから、危険があるとしたら他国の方だろう。
……他国から救援要請があれば、俺は覇王として行かねばならない。
年末には、覇王学園・勇者学園・学園都市高学院もなんとか軌道に乗ったようで、学生たちは元気に勉強している。
各部署の部長や要職に就任していた仲間たちは、組織が落ち着いて部下が頑張ってくれるので、教師不足の各学園、学院で教鞭を執っている。
今年の学園都市高学院の学生は、4倍の倍率を勝ち上がった者だから優秀だ。
しかも卒業までの就学期間が短いから、学生には遊ぶ暇などない。
入学した学生の3分の1は平民で、残りは貴族だが真面目で野心溢れる下級貴族が多かった。
「覇王軍メンバーや王立高学院特別部隊の主要メンバーが講師に来てくれるなんて、俺たちはなんて幸運なんだろう。親の反対を押し切って来て正解だった」
「この学院もこの学園都市も女性の地位が認められ、誇りをもって働く場所だってあるわ。家からの仕送りがなくてもバイトは山のようにあるし、何と言っても覇王様と勇者様にお会いできるのよ! ああ、幸せ」
高学院の学食で、昼食を食べながら話す学生たちは、どの顔も明るい。
「だから、あの魔術具を起動するための部品は、熱に強くないとダメなんだよ」
「だからって、貴重な魔鉱石を使うのを教授が許可してくれないぞ」
覇王学園では、食事中でも創造学部の学生たちが活発に意見を交わしている。
「信じられないわよね。まさかのドラゴン素材で、お肌がつるつるになる化粧水が開発されたのよ! さすが創薬学部だわ」
「しかも、覇王学園印として売り出すらしいわ。既に販売されている滋養強壮ポーションは、販売と同時に売り切れるから製造が追い付かないらしいわ」
王立高学院商学部を卒業し、覇王学園の事務職員になった女子2人は、次々と産み出される学園ブランドの商品の話しで盛り上がっている。
◆ ◆ ◆
「覇王様、コッタリカ王国の魔獣討伐お疲れさまでした。早速ですが、討伐代金替わりに頂いてこられた木材を、早くアエラボ商会建設部に出してくださいね。
出稼ぎに来た労働者用の宿が足らなくて、春先だというのに野宿する者が増えていますわ。治安にも影響するので急いでください」
「ええぇ~っ、昼食くらいゆっくり食べさせてよスフレさん」
あまりの忙しさでスケジュール管理が難しくなった俺は、財務部からスフレさんを引っ張ってきた。もともと覇王執務室で勤務していたから問題なし。
独身女性が秘書になったら大変なことになるとボンテンクが言うので、ラノーブと結婚したスフレさんにお願いした。
……覇王にも厳しく言える人材として選ばれたことを、俺は知っている。今日も今日とて、全くもって容赦ない。
因みに勇者であるラリエスの秘書は、勇者学園の副学園長でもあるエイトだ。
ボンテンク曰く、女性が秘書になったら血の雨が降るとかなんとか・・・
俺は国外に出ることが増えたので、覇王軍の管理を勇者であるラリエスとエイトに任せた。
数々の失敗を糧として、国王も宰相も【建国記】の意味を理解してくれたと思う。今では、覇王軍や王立高学院特別部隊との連携もばっちりだ。
トーマス王子は、旧ワートン領をくまなく視察し、民と積極的に会話していると聞いた。魔獣討伐にも参加しているようだ。
覇王軍本部を任せているマサルーノ先輩に、2年後でいいから側近になって欲しいと真摯に頼んだらしい。
外務大臣でもある王妃様は、既に2度も学園都市に来てくださり、新しく開発した魔術具を必ず購入して帰られる。
先日は小型化に成功した通信魔術具だった。毎度ありがとうございます。
明日は久し振りに王都に戻り、王立高学院で医師コースの講義を受ける。
俺は今でも王立高学院に在籍する学生なんだけど、覇王の仕事が忙しく、いつ卒業できるか分からない。
……ああ、早く追加のマジックバッグを作らないと、ランネル本店長が倒れるな。
……あっ、モンブラン商会に【ドラゴン印の軟膏】を納品するんだった。
昨年の大厄災以降、大氾濫もグレードラゴンの襲撃も起こっていない。
調査の結果、セイロン山とティー山脈の魔力量は大きく減少していた。
たまに小規模氾濫はあるが、冒険者や魔獣討伐専門部隊で対処できている。
……そろそろ、覇王としての役目は終わったんじゃないか?
アエラボ商会は急成長しているが、大商人を目指す俺の目標は、自分で世界中を飛び回って商売することだ。
だが現状、目指す大商人への道は、曲がりくねっていて寄り道ばかりだ。
それでも、覇王と気付かれないようキャラ交換し、仲間と旅に出る日はそう遠くないだろう。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
たくさんの応援ありがとうございました。
お正月休みをいただき、番外編を投稿いたします。
もう暫く、アコルに応援いただけると嬉しいです。
皆様にとって、令和六年が素晴らしい年でありますように。




