324 激流(2)
ラレスト王国、王都となった元ヘイズ領の領都の上空から見えたのは、王都の中心に建つ国で一番立派な建物を、2頭のグレードラゴンが翼で破壊している惨状だった。
王都の建物の5分の1は、魔獣が通り抜けたせいで全壊、又は半壊している。
人々はグレードラゴンの姿に恐れ戦き、逃げ惑う姿も見えるが、大多数の住民は建物の中で身を潜めているようだ。
魔獣の群の姿は既になく、その多くは王都を通り抜けた20キロ先で息絶えていた。その数は200弱。
生きていた上位魔獣と変異種も、かなり弱っていたので地上に降りて討伐し、全ての魔獣をマジックバッグに収納済である。
覇王軍は貧乏だから、どんな時もできるだけ素材は無駄にしたくない。
特に今回の出動は、覇王命令であり、国王は関与していない。
だから今回の経費は全て覇王軍で賄う必要があり、全ての責任は覇王にある。
俺とランドルは王都ラレストへ向かい、ラリエスとエリスは王都を越え覇王伝説を作りに行った町や村を回ることにした。
もしかしたら王都以外の方角にも、魔獣が溢れている可能性がある。
コーチャー山脈の西側は、隣国コッタリカ王国と接している。
……今回もブラックドラゴンは高みの見物か。
グレードラゴンの頭上50メートルを、ブラックドラゴンはゆっくりと楽しむように旋回している。
俺とエイトとランドルは、ブラックドラゴンよりも100メートル上空に居るので、ブラックドラゴンには気付かれていない。
「ブラックドラゴンが、炎の攻撃をする前に追い払わねばならない。
ランドル、下にある屋敷は既に半壊している。一切気にせず、急降下しながらブラックドラゴンに一発お見舞いしてやれ」
『了解アコル。任せて!』
ブラックドラゴンとの対決に慣れているランドルは、力強く返事をして急降下を開始する。
グレードラゴンの攻撃が終了してしまうと、ブラックドラゴンは移動してしまう。時間的にはギリギリだ。
どうかブラックドラゴンが移動しませんようにと祈りながら、急降下に耐えるため安全バーを握り締める。
体が宙に浮き足は行き場を失くし、凄い風圧で息ができない。
急降下に慣れたはずの体が悲鳴を上げそうになるが、掴んだ安全バーは離さないし命綱はつけてある。
ランドルが選んだのは、青い炎の高温散弾攻撃だった。
ブラックドラゴン目掛けて、人の頭と同じくらいの大きさの青い炎の玉が10発放たれる。
炎のスピードは、以前よりもまた早くなっている。
上空を全く気にしていなかったブラックドラゴンだが、嫌な予感でもしたのか天性の感か、着弾する寸前上を見上げた。
しかし、光のドラゴンより早く飛べるブラックドラゴンとは言え、全ての炎の散弾はかわしきれない。
ボン、ボンと炎が当たる音がして、ブラックドラゴンの大きな右翼と尻尾に命中し燃焼する。
4枚ある翼の内、大きな右翼は完全に焼け、尻尾も炭になり落下する。小さな左翼の半分も燃えて穴が空いた。
続いてドゴン!ドゴン! と数回音がして、よく見ると下に居たグレードラゴン1頭も巻き込まれ・・・いや、グレードラゴンにも命中し、翼ばかりか胴体も燃えていた。
数発は屋敷に命中したが、既に瓦礫状態だったので問題ない。
「よくやったランドル! 腕をあげたな」
ランドルが姿勢を普通の飛行スタイルに戻したところで、俺は大きな声でランドルを褒めた。
「凄いぞランドル!」と、エイトも嬉しそうに声を上げる。
運よく炎の攻撃を免れたグレードラゴンは、素材のことを考えエアーカッターで仕留めた。
上空から落下する2頭のグレードラゴンは、ドーン! ドーン! と大きな音と地響きをたてる。きっと王都中が揺れただろう。
ブラックドラゴンはというと、フラフラして上手く飛行できないものの死んではいなかった。
こんな街中で戦闘を繰り広げることはできないので、わざと様子を見て追加攻撃は控える。
……ラリエスが言っていた通り、翼に穴が空いても尻尾が焼け落ちても、しぶとく生きているんだな。
ブラックドラゴンはなんとか逃げようとするが、徐々に落下し始め、遂には王都を囲む堀を過ぎ街を出た所で地面に着地した。
「アコル様、左翼の穴が塞がり始めました!」
エイトがブラックドラゴンの左翼を指さしながら、驚愕の表情で叫んだ。
……信じたくなかったが、本当に再生できるんだ・・・
着地したブラックドラゴンは、直ぐに体の向きを変え、俺たちに向かって炎の攻撃を開始する。
弱っているせいか炎の勢いも威力も大したことはないので、少し離れている俺たちには届かない。それでも、まだ攻撃できることは脅威だ。
……こんなに生命力が強いということは、最初に遭遇したブラックドラゴンは、翼に穴をあけ落下させたはずだけど、もしかしたら死んでないのか?
つい先日、エイトがシルバードラゴンの守護妖精と契約した。
名前はシルバーで、年齢は420歳。珍しい雌雄同体だ。
見た目はうちのユテやトワと同じようにドラゴンっぽくて、体の大きさを手のひらサイズから1.5メートルくらいの大きさに変えられる。
大きくなったシルバーは、尻尾がしゅるんと縮み、手は人間と同じように5本指になり、顔も普通の妖精のように人に似た感じに変化できる。
翼も大きくなり、エイトを抱えて飛ぶことができる。
エイトが一緒だと、攻撃型妖精にチェンジ可能だ。
シルバーの情報によると、ブラックドラゴンには守護妖精は居ないらしい。
一度に5個くらいの卵を産み繁殖力は強いが、10年近く空を飛べないので生存率は高くない。
オスは音の攻撃で魔獣を洗脳し炎の攻撃をするが、メスはどちらもできない。
それでもメスの方が圧倒的に強いのは、メスが同族のオスだけを洗脳できるからだと聞いた。
即ち、オスはメスの指示に従い、子供を守るため邪魔者を排除している、又は、新たな巣を作るための準備をさせられているってことだろうか?
……だが、まるでゲームのように魔獣やグレードラゴンを使って、人間を襲わせる必要はないはずだ。
「エイト、新しく契約したシルバーと、昨日試した【風の刃】は使えそうか?」
『アコル様、使えます! 絶対にブラックドラゴンを倒します!』
シルバーが、エイトのポケットの中から飛び出し大きな声で叫ぶ。
「たぶん大丈夫です。よしシルバー、仲間の仇をとるぞ!」
『了解!』
2人はランドルの籠から飛び降りると、ブラックドラゴンに向かって一緒に並んで走りだす。
エイトの肩には、最初の契約妖精であるトラジャ君が乗っていて、大魔法に備えてスタンバイしている。
ブラックドラゴンに対し、深い恨みを抱いていたシルバーは、長いことこの瞬間を夢に見ていたらしいから、気合も半端ない。
エイトと契約してからすっかり魔力も体力も取り戻し、懸命に魔法攻撃を練習してきた。
シルバーはエイトに魔力を貸すのではなく、一緒に攻撃をするスタイルが好きらしい。かなり特異な妖精だ。
同じドラゴンの守護妖精でも、俺のユテはそんなに攻撃魔法は得意じゃない。
でもシルバードラゴンの守護妖精は、魔力量が多くても瞬間移動ができない。
ランドルが、エイトたちを援護するように弱いファイヤーボールをブラックドラゴンに向けて放ち、意識をこちらに向けてくれる。
ギョエェー!と威嚇するように鳴いたブラックドラゴンは、狙い通り体をランドルに向け直す。
その瞬間を待っていたエイトとシルバーは、ブラックドラゴン目掛けて、ウインドカッターの上位魔法である【風の刃】を放った。
3メートル級の巨大エアーカッターが、無数に乱舞しながら飛んでいく。
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