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32 アコルの希望

 母さんが凄くショックを受けているところ悪いけど、話の本筋はまだこれからだ。気を引き締めて話さなくちゃいけない。


「魔法省は何とかなる気もするけど、問題は王族らしい」


「はあ? 王族だと?」


「これから話すことは、知っていることがバレると命に係わると思う。だから、セイガさんは聞かない方がいいかもしれない」


 俺は真剣な顔をして、眉間にしわを寄せているセイガさんの方を見て言った。


「ここまで関わっているのに、今更引くことなんか出来るか! お前はサイモン兄さんの息子なんだぞ。それに、王都支部は俺を信用してお前を預けたんだ!」


超不機嫌な顔をして、セイガさんは怒鳴るように大声を出した。


 驚いたメイリが、びっくりして泣き出したので、母さんはメイリを先に寝かしつけてから続きを聞くと言って、メイリを抱いて寝室に入っていった。


 それから30分後、メイリを寝かせた母さんのために、俺は自慢のブレンド茶を淹れた。今夜のお茶は精神を安定させる茶葉入りだ。

 お茶を飲み始めた二人に、俺はダルトンさんから聞いた王族の話をしていった。


「な、なんだって! 第一王子はB級魔術師で、他の王子たちも魔力量が90未満?」


「信じられないわ。C級魔術師で魔法部を卒業できるですって!」


 セイガさんは絶望的な表情で、母さんは何度も首を横に振って呆れる。


「うん、それが今の王族の実態らしい。は~っ、5月に龍山支部で測定した俺の魔力量は85だった。そして適性は……全適性を持っていた」


「な、全適性だと!」


「しっ! 声が大きいよセイガさん、可愛いメイリが起きちゃうじゃないか」


 俺は小声で文句を言ったが、立ち上がったセイガさんは信じられないものを見るような目で俺を見て「高位貴族……公爵家の血というのは間違いないだろう」と呟き、ドスンと椅子に腰を下ろした。


 母さんは何も言わず、カタカタと小さく震えているような気がする。


「だからさ、俺の魔力量と適性を知られると、王族のメンツが立たないっていうか、都合が悪いらしい。王子より優秀な平民なんて認められないだろうって。だから、自分の命を守るために、実の親が高位貴族の血族だと証明した方がいいって」


 俺は大きな溜息を吐きながら、自分を捨てた親のことなんか知りたくもないし、会いたくもないけどと付け加えた。


「魔獣の大氾濫が起こるって時に、将来有望な冒険者を抹殺しようとするとは、魔法省も王族も地に落ちたな。王族の中に【覇王】の末裔は期待できないってことか。ハーッ……アコルを守る意味が分かったぜ」


 セイガさんは深く息を吐きながら、ギルマスたちが何故アコルを守れと命令したのか分かったと言う。そして俺の魔力量をもっと増やし、Sランク冒険者に成長させ、もう直ぐ起こる魔獣の大氾濫に備えたいのだろうと、低く呟きながら頷いた。


「ア、アコル、その本……その本の題字には何て書いてあるの?」


母さんは声を震わせ、テーブルの上に置いてある本を睨むように見ながら訊いた。


「それは……それを言うと、母さんの身に危険が及ぶかもしれない。だから俺は言いたくない」


 俺は本をウエストポーチの中に収納し、俺以外に読めない本の意味を考えて、今は言うべきではないと判断した。


「分かった。言わなくていいわ。

 母さんは王立高学院に在学していた時、薬師の試験に合格したお祝いだと言って、教授に閲覧禁止書庫に入れてもらったの。


 閲覧禁止書庫の中で、古い魔術書について記述してある本を見た記憶があるわ。各領主の家には、先祖代々受け継がれる魔術書があるって書いてあったはず。

 でも、ごめんなさい。母さん……残念ながら本の内容は覚えていないの。

 だからアコル、絶対に王立高学院に入りなさい。


 モンブラン商会の会頭は、アコルが望めば高学院に入学させてもいいと、約束してくれたとポル団長が言っていたわ。

 15歳になる年、いいえ、14歳になる年にも試験を受けられるから、何が何でも合格して、その本がどの領主家のものなのか調べなさい」


 母さんはそう言うと俺を強く抱きしめ、「メイリと一緒に王都に引っ越す決心をしたわ」と言ってくれた。

 モンブラン商会の寮の他に、下級地区にも住居があった方が安全だからと、魔獣の大氾濫ではなく、俺のことが心配だから引っ越すと約束してくれた。


「姉さん、俺は王都に戻ったら、冒険者を辞めてモンブラン商会専属の護衛になるよ。アコルを守ってみせる」


「それは止めてセイガ。貴方を巻き込みたくないわ。大丈夫だから。高学院に入学出来れば、軍も魔法省も手出しできなくなるの。商学部の学生は、絶対に戦争や魔獣の討伐に行かされることはないし、学生を従軍させてはならないという法律があるから」


 母さんは涙を拭いてキッと前を向くと、いつもの強くて逞しい顔でセイガさんの申し出を断った。

 こういう強い口調で母さんが話す時は、決して自分の考えを変えない時だ。

 元々我が家は、父さんよりも母さんの方が強かった。


「分かったよ姉さん。俺はアコルが高学院に入学するまで守ることにする。だけど、あの……俺で良かったら何でも力になるから頼ってくれ。サイモン兄さんに恩返しも出来てないから」


 セイガさんは、姿勢を正して母さんの瞳をじっと見つめた。


【宵闇の狼】の三人から、大恩ある未亡人を守れるのはリーダーしかいない……とかなんとか言われていたから、勇気を出して言ったんだな、きっと。

 長い独身生活に春が来ますようにとロードさんが言っていたけど、サイモンの息子である俺としては、3年近い旅の間にセイガさんの人となりを見せてもらってから、応援するかどうかを決めたい。


「ありがとうセイガ。何かあったら頼らせて貰うわね。でもとにかく今は、アコルを守らなきゃ。よろしくね」


 母さんは笑顔をセイガさんに向けて、頭を下げてお願いしてくれた。


「大丈夫だよ母さん。そう言えば、母さんは魔法陣を見たら、その魔法陣がどんな機能を持っているか分かる?」


「そうねえ、B級魔術師が習うのは、現在公開されている魔法陣だけだから、昔の魔法陣はどうかしら? でも、術式や記号を見れば大体分かると思うわよ」


 母さんはそう言うと、自分の部屋から高学院時代のノートを持ってきた。

 俺は自分にしか見えない【上級魔法と覇王の遺言】の本の中から、マジックバッグに関係する魔法陣だけを、モンブラン商会の支店の寮の先輩方から頂いたノートに書いていった。


「これが今使っているマジックバッグを作る時に使った魔方陣なんだけど、どのくらいの収納量があるのか、保存期間はどのくらいあるのか分からなくて」


「アコル、マジックバッグを自分で作ったの? こ、この魔方陣を使って?」


 俺がノートに書いた魔方陣を見て、母さんは驚愕の表情で俺を見た。


 そして「なんて無茶なことを」とか「信じられない魔力量が必要だわ」とか「いったい誰が作ったの魔方陣なのかしら」とか「複雑過ぎるわね」と呟きながら解読していく。


 結局、解読には数日かかりそうだと母さんが言うので、翌日は家の修理を手伝い、明後日からギルドの依頼を受けることに決めた。




「あっ、忘れてた。この野菜とパン、実は王都を出る時に買ったものだけど、何故か劣化してない気がするんだよね。自分でも試してはいるんだけど、参考になる?」


 家の修理を終えた翌日、【宵闇の狼】のメンバーと出掛ける間際、俺はキッチンに母さんを呼んで、マジックバッグの中から取り出した食料を母さんに見せた。

 母さんは絶句して、俺の両肩を痛いくらいに掴み「この事は誰にも言ってはダメ。検証するから野菜とパンと干し肉を少し置いていきなさい」と、怖い顔をして言った。

 

「それと母さん、セイガさんの前では言えなかったけど、俺の目標は大商人だから。それは絶対に変わらない。いつか必ず、薬を扱う大商人になってみせる。その時は母さんも手伝ってね」


 俺は自分の行く道の希望は変わってないと、極上の笑顔を作って言った。




 ◇◇ リーダー セイガ ◇◇


 最も近い冒険者ギルドは、ヨウキ村を管理しているアノサ男爵の屋敷がある町で、小さいけどリドミウムの森の南入口に在り、森で狩りをする冒険者たちで賑わっていた。


 いつも受付で依頼確認するのは、一番年下であるロードの役目だ。

 Aランク冒険者のパーティーは、依頼票に出ていない重要な任務だったり、貴族からの採取依頼だったり、大商団の護衛の仕事を優先して受けられるので、一応受付で訊くことになっていた。


「良かったです。実は今朝、何処の……とは申せませんが、高位貴族家のご子息様一行の護衛の依頼が出ておりまして、こんな小さな支店にはAランクパーティーなんて滅多と来てくれませんから、本当に助かりました。報酬はギルドの指定料金を払っていただくことで了解を得ています」


 受付の女性は、ホッと肩を撫で下ろして助かったと言いながら、依頼票をロードに手渡した。

 俺とロードがその依頼内容を確認し、口には出さずメモ書きで、何処の貴族かだけ情報を貰って依頼を受けることにした。


「こりゃ驚いた。こんな僻地にワイコリーム公爵家の坊っちゃんが来るとは、初心者向けの狩り場でもないリドミウムの森を選ぶとは・・・命知らずもいいとこだ」


 極秘依頼のため、一旦ギルドの外に出て、アコル以外のメンバーに依頼内容を話す。アコルには、森の入り口で薬草採取をさせる予定だから、掲示板でE~Dランクの依頼を確認させていた。


「リーダー、もしかしてワイコリーム公爵家の子供って、王都支部のギルマスが言ってた天才じゃあないっすかねぇ」


「あぁ……そんな話を聞いた気がするな。確か9歳だか10歳だとかで魔力量が50を越えていたとかなんとか。ラルフ、ちょうどいい。アコルと年も近いだろうから、アコルを雑用係として連れて行くぞ」


「えっ? でも公爵家ですよ、大丈夫なんですかアコルは」


「アコルはEランクで、うちの下っ端雑用係だ。なんの問題もない」


 確かワイコリーム公爵は国務大臣で、いけ好かない魔法省の副大臣であるヘイズ侯爵とは敵対していたはずだ。アコルの情報が伝わっているとは思えない。


 うちのメンバーは、冒険者パーティーには珍しく全員が貴族家の出身だ。

 だから、こういう依頼の時はギルドに重宝される。高位貴族に失礼な言動や態度をとらないし、気分を害されないよう接することが出来るからだ。


 とは言っても、領地もない貧乏貴族ばかりで、長男でもないから家を継げる訳でもなく、高学院に通わせて貰える金もないから、冒険者になった半端者ばかりだ。

 そして稼いだ金を、跡を継いだ兄が貴族として体面を保てるよう貢いでいる。


 まあ、結婚してない俺たちは、一応貴族家の端くれで準貴族っていうやつだから、実家を潰すわけにはいかない。

 冒険者でもBランク以上の者は、貴族家の出身者が多い。生まれながらに魔力量に恵まれ、努力すればAランク冒険者にだって成れるから、堅苦しい貴族でいるよりはと、冒険者を選ぶ奴が結構いる。



 そしてその日の午後、ギルドの前で依頼主である公爵家の子息と、その護衛騎士二人と一緒に、明日からの打ち合わせをした。


「ラリエス様、このAランク冒険者パーティーは、全員が貴族家の出身だそうです。不快な思いをなさることは少ないかと」


「うむ、それは良かった。世話になる。私はラリエスという。まだ11歳だが、D級魔術師レベルの魔法は学んでいる。今回はその腕試しと、冒険者との連携を学びたいと思っている。よろしく頼む」


 護衛の騎士が、俺たちを貴族家の出身だと坊ちゃんに説明し、少し安心したような顔をして、坊ちゃんは俺たちに今回の依頼の趣旨を話した。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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