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315 王としての責務

 ◇◇ ラレスト王国 シーブル王 ◇◇


 2月に独立宣言して、2か月が経過した。


 コルランドル王国側も国境を封鎖したので、必要な情報入手に時間がかかってしまう。

 アルファスの動きは気になるが、今は目の前の問題解決で忙しい。


 あれほど孫のトーブルを連れ帰ることに執着していた義父ワートン公爵だったが、王立高学院の医療コースを卒業してから戻ればいいと、最近になって態度を軟化させた。

 その理由は、思うようにワートン領の復興が進んでいないからだ。


 専門の建築家をコルランドル王国から呼ぼうとしたが、先月王都ダージリンが2度に渡ってドラゴンに襲撃され、大火災で焼失した建物の復興作業で忙しく、高度な技術を持った職人が集まらないのだ。


 仕方ないので新しい公爵屋敷の建設を先延ばしし、義父は新しい国の法整備や役人の任命を急ぐことにした。



 ドラゴン襲撃の知らせを聞いた時は、やはり天は我に味方していると思ったものだが、職人ばかりか資材までもが全く我が国に入ってこなくなった。


 だが、問題はそれだけではなかった。


 当初予定していた通りに大臣をや副大臣を任命したのだが、その下で働く事務職員の数が圧倒的に足らなかったのだ。

 最低でも各部署に必要な事務職員は5名で、35人程度は集まると思っていたのに、実際に集まったのは15人だった。


 デミル領から来た貴族たちは、自分が任された領地経営に必要な人員しか連れておらず、王宮に出せる事務職員が居なかった。


 仕方ないので、覇王講座を卒業できず、自主退職した者でも良いと条件を緩めたら、元国防省と一般魔法省の事務職員が10人増えた。



 最低限の人数で国の運営を始めたが、財務部がきちんと起動せず、陳情や問題ばかりが王である私のところに届けられた。

 ヘイズ領とワートン領の役人の質が悪いことは知ってたが、ここまで仕事ができないとは思っていなかった。


 それらを処理できるはずの側近ロイトは、年末から連絡が途絶えたままだ。



 まあ平民の暮らしなどは大きく変わるわけではないから、放っておけばいいと思っていたのに、商業ギルドがいつの間にか撤退していて、農産物以外の物資が不足し始めた。

 仕方ないので、商業ギルド以外の商団に入国許可を出すしかなかった。


 まさか領主代行であった私に断りもなく、勝手に商業ギルドを撤退させるとは、王都ダージリンの商業ギルド本部の行いに腹が立つ。


 しかも、我が国に入国するには入国税を払う必要があるため、商団が持ち込む商品は、これまでの値段より3割以上高くなっていた。

 貴族が注文するような高級品は、4割以上高額でないと手に入らない始末だ。


 安定した税収のために考えられた入国税だったが、思っていたほどにコルランドル王国から入国する者はおらず、国境に接する領地の領主たちは、4月分の入国税を払うのは無理だと言い始めた。


 仕方ないので規定額ではなく、1年間は実際の入国者数分でいいと言い渡した。


 ……何もかもが順調に進まない。きっと逃げたサナへ侯爵や、俺を許せないと思っているレイム公爵あたりが、様々な妨害工作をしているのだろう。



 3月に入って、警備隊と軍から魔獣をなんとかして欲しいと、度々陳情が届くようになった。

 コーチャー山脈から下りてきた魔獣が、小さな村を襲ったり、街道に群れで出没することが増えたらしい。


 こんなことなら、冒険者ギルドを少し援助しておけばよかったと思いもしたが、冒険者の入国税を免除すれば問題ないだろう。

 討伐料にちょっと色を付けてやれば、喜んで討伐するに違いない。


 仕方ない、隣国コッタリカ王国とアッサム帝国の冒険者ギルドに、討伐依頼を出すことにしよう。




 ◇◇ 商業ギルド ギルマス ◇◇


「ラレスト王国の連中、狙い通り言い値で買い物しとるようや。

 商業ギルドを通してないと偽り、ラレスト王国に向かわせた2つの商団が、いろいろ情報を持ち帰ってきた」


サブギルマスが、にやりと悪人顔で覇王様に報告を始めた。


 覇王軍本部に集まっているのは、覇王様と勇者様、従者の2人、学院長、商学部の部長教授、王宮から宰相のマリード侯爵、財務大臣のマギ公爵、トーマス王子、冒険者ギルド連携室のダルトンだ。


「では集まっている情報を、私から報告します」


私は椅子から立ち上がり、項目毎に纏めたレポートを読んでいく。


 先ずは、覇王様が最も気にされている民の生活状況についてだ。


 食料面では大きな問題なく、飢えに苦しんでいる様子はない。

 だが、街道に出没する魔獣を討伐できないため、物流が滞り始めている。

 商人や医師の移動も難しく、ケガ人や病人は薬不足で放置されている。


 各地の貴族については、貴族らしい生活を整えるのに精一杯で、任された領地の把握どころではないようだ。

 国王は視察に出掛ける余裕もないようで、地方の領地の管理監督を全くしていない。そのため一部の貴族は勝手な振る舞いをしている。

 

 治安面では、軍や兵士の数が足らず、王都の治安はあまりよくない。

 特に兵士は魔獣の討伐に行かされ、既に半数が亡くなっている可能性もある。

 コーチャー山脈に近い村や町から流れてきた民が、王都の端で貧民街を作り始めている。


「貧民街? シーブルは魔獣に襲われた村や町を、相変わらず放置しているのか?」


「そのようです宰相。王都とコーチャー山脈までの距離は20キロくらいしかありません。

 その途中にある村の住民たちは、魔獣に襲われた時に逃げる一番近い場所が王都なのです」


 私は過去に領都ヘイズの商業ギルドで働いていたことがあり、仕事でコーチャー山脈に近い村や町に出向いたこともあった。

 気のいい優しい人が多く、既に魔獣に襲われているのではないかと考えると暗い気持ちになってしまう。



 次に経済面だが、入国税が思うように入らず、国境を治めている領主は首が回らなくなる可能性が高い。 

 また、納税額が予想より低かったので、コルランドル王国並みの給金や生活を役人が望めば、冬前には国金が底をつくかもしれない。


 今はまだ、国王も貴族も商店に買い物代金を払っているが、もしも掛け払いが始まったら、店は仕入れ代金が不足し、存続の危機に陥るだろう。

 すると民は買い物にも事欠く状態になり、結局、貴族もモノ不足で生活が困窮することになる。


「所詮は王宮の中で威張っていただけの人間だ。

 少しばかり領主代行を経験したとはいえ、運用していた金は、コルランドル王国が出していた。

 自分で買い物もしたことがない者に、経済の流れなど分かるはずがない!」


財務大臣になったマギ公爵は、超辛口の言い方で切り捨てる。

 支給した救済金の殆どを、独立資金にしたシーブルを許せないようだ。


 しかも最近、デミル領から移動してきた貴族が治める土地の領民が、夜逃げしてマギ領に逃げ込み始めた。

 その土地は旧ワートン領にあり、領民に好かれていた国王派の貴族が治めていたが、爵位剥奪のうえ全財産を没収され王都に移送されてしまった。


 実際は国王派を守るための措置だったが、残された領民は何も知らなかったので不安は大きかった。

 

 そういう事態も想定されていた覇王様のご指示で、王都に移送された国王派の貴族が、マギ領で流民となった者たちの救済活動をしている。

 必ずシーブルを倒し、皆と一緒に故郷に戻るからと励ましながら、マギ領で農地を開墾している。



「問題は魔獣ですね」


「それと薬だ。新しいポーションも作ったし、薬草採取は学生が頑張ってくれた。ちょっと【勇者伝説】でもつくりに行こうかラリエス」


勇者様の発言に続いて、覇王様は私をちらりと見たあと、嬉しそうにそう言われた。


 ……ちょっと待って! なんだか嫌な予感がするんだけど?

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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