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312 新しいポーション作り(3)

 翌日、俺は王立高学院特別部隊のミレーヌ様と一緒に、全ての避難所を慰問した。

 昨日の葬儀に参列していた商業ギルドのギルマスが、覇王様の顔を見たら皆が元気になると言うので、避難所に顔を出し被災者を励ました。


 一番大きな避難所には女性や子供がたくさん居て、俺は隣国ニルギリ公国で購入した巨大魚をお披露目する。

 もちろん水揚げされたばかりの新鮮な状態で、マジックバッグに入れておいたものだ。


 市場で一番大きく美味しい魚だと勧められ購入したが、大きすぎて食べる機会を逸していた。

 3メートル級の大きさで、スープに入れても焼いても美味しそうだ。

 調味料として、アイススネークの粉末だしと岩塩を提供しよう。


 初めて見る巨大魚に子供たちは大喜びだったし、王都で新鮮な魚を食べられるのは、お金にゆとりのある者だけなので、パンよりも喜んでもらえたと思う。

 もちろん調理人は、ギルマスが手配してくれた。


 他の避難所には、龍山で採取した疲れの取れるハーブを渡し、じっくり煮だしてお茶にして飲むよう世話役に頼んだ。

 どこの避難所も、王都全ての地区の世話役が手伝ってくれているので、大きな混乱も見られなかった。




 学院に戻って昼食を食べた俺は、薬師部の教師や学生、ワイコリーム領から戻ってきたばかりのエイト率いる覇王軍新人メンバーを集めた。

 リーマス王子を除いた薬師部関係者は15人。覇王軍新人メンバーは10人だ。


「明日の午後、皆で龍山に薬草採取に行きます。覇王軍メンバーは、今後、薬草採取も任務に組み込んでいきます」


「ええぇーっ!」


 医療チームは死ぬかもって顔を引き攣らせ、覇王軍メンバーは、容赦ない連続任務に疲れた顔をする。


 まあ龍山にはグレードラゴンが居るから、命懸けって思うよな。

 日頃運動不足な教授たちが、何処まで登れるかがネックではある。でも、体に鞭打って800メートルは登ってもらおう。

 護衛は、龍山支部で募集すれば喜んで参加してくれるだろう。


「採取した薬草の4分の1は冒険者ギルドで換金し、皆に特別手当として支給する。張り切って採取してくれ。

 もちろん、俺が採取する1株金貨3枚を超える激レアな薬草も、冒険者ギルドで換金し皆に分けるつもりだ。目標は1人金貨2枚とする」


 いつもの覇王軍メンバーなら、ここで大喜びするところだが、半数以上が微妙な表情のままだ。

 平民や下級貴族が少ないってことかな。


 ……仕方ない。奥の手を使うか・・・


「薬草採取量とレアな薬草発見等で総合的に判断し、俺が順位をつける。

 上位3名には、覇王特製マジックバッグをプレゼントする。

 3位には時間経過する執務机の半分サイズ。2位には時間経過する執務机サイズ。1位には時間経過しない執務机サイズのマジックバッグを用意しよう」


「「ウオォーッ!」」と、皆から歓喜の声が上がる。


 ここに居る新人覇王軍メンバーは、まだ正規採用されていない。だから誰もマジックバッグを持っていない。

 もちろん正規メンバーになれば、マジックバッグを貸与され、5回以上の出動で自分の物となる。


 医療チームの薬師見習いで、妖精と契約していない者は、王立高学院特別部隊にも入るのが難しい。だからマジックバッグを貸与されることはない。

 覇王軍や王立高学院特別部隊に入る学生は、覇王から直接貸与されるマジックバッグを誇りにしている。


 医療コースの教授・助教授・講師だって、覇王が必要と認めた者にだけ貸与している。

 個人所有でマジックバッグを持っているのは、部長教授くらいだ。


 ……王都が被災したから、マジックバッグの価値は倍近く上がっているだろう。


 ……あっ、ドバイン運送にも行かなきゃ。




 夕方、リドミウム領に行っていったボンテンク一行が帰ってきた。


 持ち帰った亀の変異種3頭の内、2頭は冒険者ギルドで換金する。

 1頭は解体して素材を受け取るため、一緒に冒険者ギルドに向かった。


 解体場で変異種を出したら、ベテラン担当者が意外なことを言いだした。


「亀ってのは、種類によって薬になります覇王様。

 こいつの種類は分かりませんが、古い解体図鑑には、とても高価な薬になる亀の絵が書いてありました。

 ギルドの持ち出し禁止書庫に図鑑があると思うので、誰かに調べさせましょう」


「なんだって! もしもこの亀がそうならお宝発見だ。

 よし、俺が直接調べよう。皆はとりあえず1頭だけ解体しておいてくれ。

 まさかとは思うが、これって食べることも可能だろうか?」


ちょっと、いやかなり興奮してきた俺は、おきまりの台詞を言いながら瞳を輝かせる。


「う~ん、種類によっては滋養強壮に良いモノもあります。

 現在分かっているのは、腹が赤と黒の斑模様のヤツは食用になるってことくらいです」


ベテラン担当者はそう言いながら、巨大な亀の変異種の腹を見ようとしゃがみ込む。

 そして、赤と黒と灰色の縞模様だから、もしかしたら食用になるかもと言ってくれた。


 未知の魔獣は、肉や他の部位に毒性がないかどうか必ず調査することになっている。

 冒険者ギルドには、毒性を検査する魔術具があり、毒性が無いと判明しても、必ず犬などの動物に食べさせて安全確認をする。



 ボンテンクに亀の変異種の詳細なスケッチを頼んで、俺は図鑑を調べることにする。

 そういえば王都に来たばかりの頃、王立図書館で薬物大全なる書物を読んだが、その中に、解毒作用や発汗作用、造血作用のある亀のことが書いてあった。


 ……これは帰りに、王立図書館にも寄らなきゃいけないな。


 造血作用または増血作用・・・そんな夢みたいな効用のある素材があれば、出血多量で亡くなる人を救えるかもしれない。

 今の医学では、どうしようもないと諦めていた治療だ。


 結局、冒険者ギルドにあった図鑑には、似ている亀の情報しかなかった。

 そもそも変異種は、数種類の魔獣が混ざっている可能性が高いから、変異種図鑑でも見付けない限り正解に辿り着くのは難しいだろう。


 で、王立図書館にやって来たのは閉館時間ギリギリだった。

 まあ司書さんたちとは昔から顔見知りだから、特別に閉館時間を延ばしてくれた。

 そして、数冊の本や図鑑を貸し出してくれた。


 持ち出し禁止書庫の本だって、覇王様なら問題ありませんと許可してくれたから、今夜はワクワクしながら本が読める。



「覇王様、朝まで本を読もうとか考えてませんよね?

 私は龍山に御供しないので、今夜は一緒に図鑑を調べ、覇王様がベッドに入られるのを見届けさせていただきます」


 いつもの席でニヤニヤしながら遅い晩御飯を食べていると、隣でお茶を飲んでいたボンテンクに釘を刺された。


 ……う~ん、さすが俺の従者、鋭い。


「あら、調べものなら私だってお手伝いいたしましてよ」


夕方ワイコリーム領から戻ってきたノエル様が、テーブルの上に積み上げていた本を手に取って、にっこりと美しく微笑む。

 

 本来なら明日の夕方戻ってくる予定だったノエル様率いる王立高学院特別部隊は、救済活動を領主であるワイコリーム公爵に引継ぎ早めに戻ってきた。

 ワイコリーム領の役人は優秀で、しっかり救済準備をしていた。


「いえいえ、夕方帰られたばかりです。今夜はゆっくりお休みください」


隣に立っているエリザーテ先輩まで手伝うと言い出す前に、俺はやんわりとお断りする。


 ……ああ、本当に頼もしい仲間たちだ。でも、女性に無理はさせたくない。


 数人が俺の部屋に集まり、本や図鑑と格闘する。

 日付が変わった頃、図鑑を見ていたルフナ王子が「あった!」と叫んで立ち上がった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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