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31 帰郷

 結局討伐した二つ頭の魔獣は、アースドラゴンの仲間だろうということになったが、ちゃんと新種として冒険者ギルドに登録された。


 紫の毒を吐く魔獣は、Sランクの大蛇が既に発見されていて、今回発見した魔獣は、Aランクの要注意魔獣【双頭アースドラゴン】と名付けられ、800メートル以上登ると遭遇する可能性ありと、ギルドに注意書きがされた。

 発見した場合は、Aランク冒険者をリーダーとする、3つ以上のパーティーで討伐すると決められた。




【宵闇の狼】のロードさんの足のケガが治った8月初旬、俺たちは龍山支部での活動を終え、目的地であるサーシム領を目指して旅立った。

 急ぐ旅ではないが、龍山支部でガッポリ稼いだこともあり、辻馬車を使って移動したので、サーシム領の領都サーシムには5日で到着できた。


 先ずは冒険者ギルドに顔を出し、暫くサーシム領内で活動すると報告した。


 香木の生息地の情報を金貨1枚(十万円)で買って、サーシム領内の詳しい地図(町や村・ギルド・教会・道・川・森の入り口・山の登山口・代官の屋敷等)を小金貨2枚(二万円)で買った。


 ベテランばかりが揃っている【宵闇の狼】は、地図なんか必要ないらしいけど、地理の勉強にもなるので俺が買った。香木の情報料はモンブラン商会持ちだ。

 情報料がこんなに高いとは思わなかったが、新人冒険者は地図を買ったり、情報を買った方が安全だし、最終的にその方がお金になるらしい。


 リーダーがきちんとしている新人パーティーは、しっかり情報収集に時間とお金をかけるそうだ。だから2年くらいは貧乏なんだとか。

 他のパーティーから情報を買うのは騙されることも多く、高くてもギルドの情報が一番まともらしい。ふんふん、色々と勉強になるな。


 昨年村を出て初めてサーシムの領都に来た時は、なんて都会なんだろうと感動したのを覚えているけど、王都に住んでいたせいか、ちょっとのどかに感じる。

 ポルポル商団で他の領にも出掛け、よその領都を見たから分かるけど、サーシムの領都は開発が遅れている。国内一の田舎だと言われているのも頷けた。


 懐かしく屋台を見て回り、自分で串焼きを買って食べた。昨年より値段が上がっていたのは、タレに使う香辛料が値上がりしたかららしい。よし、メモしておこう。




 そして8月中旬、俺は懐かしいヨウキ村に帰ってきた。

 昨年の11月に旅立ってから、9ヶ月ぶりの里帰りに心が弾む。


 母さんとメイリは元気かなぁ? 薬草は無事に育っているだろうかと心配しながら歩いていると、自然と歩く速度が速くなり、家が見えた所から我慢できずに走り出した。


「おいアコル、待てよー」ってリーダーのセイガさんが後ろで叫んでいるけど無視だ。


 この道の先には俺の家しかないから、迷子になることもない。皆より早く家に到着しないと、いきなり大人数で押しかけたら母さんがビックリする。


「母さん、メイリ、ただいまー! 兄ちゃん帰って来たぞー!」と大声で叫びながら、玄関のドアを勢い良く開けた。


 昼前時間だから、母さんの作るスープのいい匂いがして、帰って来たんだと実感し涙がちょっと滲んできた。

 キッチンのドアがバンと開いて、青い瞳を大きく見開いたメイリが俺を見て、「アコルお兄ちゃんだ!母さん、アコルお兄ちゃんが帰ってきたよー!」と叫びながら、キッチンの中に戻っていった。


 ……あれ、さあおいでメイリ!って広げた両腕が、なんだか寂しい・・・ 


 5歳になったメイリは、少し大きくなっていて言葉もハッキリしていた。

 母さんと一緒に小走りでキッチンから出てきたメイリは、恥ずかしそうに母さんのエプロンを持って「おかえりなさい」と言った。


 ……ああぁ、なんて可愛いんだメイリ。お土産いっぱいあるからね。


「ただいま母さん、メイリ」


「おかえりなさいアコル。元気だった? 急にどうしたの? モンブラン商会の見習いになったんじゃないの?」


 母さんは俺を抱きしめ頬にキスしてから、突然帰ってきたことを心配して訊いた。


「いろいろあって、今は商会の仕事で冒険者のパーティーに入って、香木探しの旅をしてるんだ。あっ、母さんは【森の女神】に居たセイガさんを覚えてる? 今、一緒に旅をしてる。もう直ぐこの家に到着するよ」


「えっ? セイガ? 懐かしいわね」


 せっかく感動の再会をして、母さんやメイリとゆっくり話していたかったのに、「こんにちは」と玄関口で可愛くないおじさんたちの声がした。


 もうちょっと気を利かせて欲しいところなのに、【宵闇の狼】のメンバーにそれを期待するのは難しかった。

 なにせ、リーダーであるセイガさんの初恋の相手が、うちの母さんだったことが発覚し、皆が興味津々でやって来たのだから。



 で、現在バーベキューを庭で楽しんでいる。

 昨日狩ったウサギと猪、それから今朝買った大量のパンをお土産に持ってきたので、母さんの作ったスープは夜用に変更してもらった。


 メイリは久しぶりのお肉に大喜びだ。冒険者だった母さんなら、狩りくらい簡単にできると思うけど、最近の森は危険だから狩りに出るのを止めていたらしい。自分に何かあったらメイリが一人になってしまうからだ。


「姉さん、今年に入ってから変異種の目撃情報は?」


 俺を挟んで左にセイガさん、右に母さんが座り、母さんの隣にメイリが座って、皆でバーベキューコンロを囲み和やかに食べ始め、セイガさんが近況を訊ねた。

 ちなみにセイガさんは、二歳年上の母さんを昔から姉さんと呼んでいるらしい。


「そうねえ、森の西側でボアウルフの変異種が出たらしいわセイガ」


「姉さん、ここは危険じゃないか? リドミウムの森はすぐ側だし、魔獣の大氾濫が起こったら、ティー山脈から襲われるかもしれない」


 ちょっとだけ赤い顔をしているセイガさんは、会話の中に重要事項をさり気なく織り込んでいく。


「えっ、魔獣の大氾濫?」


「そうだよ母さん。まだ国家機密扱いだけどほぼ間違いない。王都支部のギルマスの情報だと、早ければ5年後には起こる。俺は3年以内に王都に戻るから、その時に一緒に王都へ行こうよ母さん。どこも危険だけど此処よりは安全だと思う」


 家に帰るまでに【宵闇の狼】の皆と話した結果、ヨウキ村で暮らすのは危険だから、王都に越した方が安全だし、お前も安心だろうと勧められた。


「俺はモンブラン商会の商会員試験を特別に受けさせてもらって、もう一般商会員試験に合格しているから、15歳になったら確実に商会員として給料も貰える。冒険者のバイトも許可してもらってるから、なんとか生活できると思う」


「ああ、アコルなら危険な魔獣の討伐をしなくても、薬草採取だけでCランクの奴らより稼げるだろう」


 セイガさんがそう言って俺の話を後押しし、他のメンバーも変異種によって幾つかの村が壊滅したことを伝えてくれた。

 母さんは、父さんが残してくれた家と畑を売りたくはないと言ったけど、メイリの顔を見て、考えてみると約束してくれた。


 昼食を終えた【宵闇の狼】のメンバーは、この際だからと家や納屋を見て回り、修理が必要な箇所を直してくれることになった。


 俺のことについて母さんと話さなければならないセイガさんを残し、三人は必要な木材や釘などを購入するため近くの街へ出掛けていった。今夜は町に泊まって明日の午前に戻ってくるそうだ。




 夕食を終えたところで、俺はメイリと仲良くお土産を広げて、メイリが一番気に入った絵本を読むことにした。

 セイガさんは、龍山支部のギルマスからの伝言を伝え、俺の魔力量や秘伝の書について確認するため、母さんとリビングで話を始めた。

 

「ええぇっ! アコルが魔法陣を使った?」


 淹れたばかりの紅茶をカップに注ごうとしていた母さんは、テーブルの上にお茶を溢してしまった。


「ああ、こんなこと前代未聞だとギルマスも言っていた。アコルが持っているという秘伝の書って、いったいどんな本なんだ姉さん。どうやらアコルの非常識は、その本の影響らしい」


「秘伝の書? そんなものがうちに在ったかしら? 全く覚えがないわ。確かにアコルの魔力量は多いと思っていたけど・・・魔法陣……完成した術式を発動したとしても、魔力量が最低でも60以上は必要だわ」


 一気に顔色が悪くなった母さんは「アコルちょっと」と、絵本を読んでいた俺を怒気の籠った声で呼んだ。

 怒られるの前提で、俺は渋々母さんの隣の椅子に座った。


 そこから当然のように母さんの説教がはじまり、「あれだけ本気を出すなと言ったのに!」と叱られたから、「全部、人命救助のためだったんだ」と反論した。そしたら「なんで命の危険があるような場所に行ったのよ!」と余計に叱られてしまった。


「姉さん、それ以上叱るな。アコルは薬草採取をしていただけだし、そのお陰で【宵闇の狼】と他のパーティーも助かったんだから」


「俺は父さんから、困っている人がいたら助けろと教えられた。一応、自分で倒せると思ったから加勢したんだ。魔法陣のことは反省してる。まさか魔法陣を使っているとは思ってなかったんだ」


 俺はそう言って、ボアウルフのウエストポーチ型マジックバッグから【上級魔法と覇王の遺言】の本を取り出してテーブルの上に置いた。


 そして、双頭アースドラゴンをマジックバッグに収納する時に使った、詠唱と魔法陣が書かれているページを開いて見せた。


「アコル・・・あなた……この本をどうして持っているの?」


「ああ、勝手に持ち出してごめん。父さんの武器庫の中に入ってるのを見付けて、面白そうな題字だったから持って出た」


 これ以上叱られないように、俺は予防線を張り先に謝った。


「何も書いてないじゃないか。本の表紙にも何も書いてなかったぞアコル」


「そうよアコル、私たちには字なんて見えないのよ」


「えっ?」


 ……なんだって! 何も書いてない? いや、こんなに大きな題字や本の中に書いてある文字や魔法陣が見えない?


「この本は強い魔術で開けないようになっていたの。だから母さんも父さんも何の本なのか分からなかったわ。アコルに開くことができたのなら、血の登録がしてあったのね。きっとアコルの本当の……」


 きっと母さんは、本当の親……と言い掛けたに違いない。


「大丈夫だよ母さん。セイガさんは俺が本当の子供じゃないって知ってる。それじゃあ、この本は俺を捨てた親が持たせたものなんだね。……そうなんだ。ちょうどいい、俺の本当の親のことについて話しておかなきゃいけないことがある」


 そこから俺は、王都支部のサブギルドマスターであるダルトンさんから言われた話をしていった。


「妖精と契約・・・アコル、あなたったら何をしているのよ。それに、レイム公爵家とサナへ侯爵家の血族の可能性が高いって……あぁ、なんてことなの」


「姉さん、魔法省がアコルを狙ってるのは確かだ。俺たちはアコルを守るため、モンブラン商会とギルマスに依頼されて旅をしている」


 元準男爵家の令嬢で、王立高学院を卒業している母さんは、二つの高位貴族の名前を聞いて絶句した。貴族がどんな人種なのかを知っていたからだ。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

月・水・金の更新予定でしたが、仕事の都合で、火・木・土の更新になることがあります。

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