29 新しい仲間(2)
「大丈夫かロード!」
ケガをした二人を心配して、かまくらの中に入って来たのは、20代くらいの若い男と、凄く貫禄のある40代くらいの大男だった。
かまくらの外には、疲労困憊でハアハアと肩で息をしている男が5人、心配そうに中を覗き込んでいる。チラリと見た感じでは、大きなケガはしていないようだ。
「大丈夫だリーダー、この坊主が手当してくれた。ハハ、これはもう奇跡と言うべきものだろう。ミレーヌは安心して気を失ったようだ」
ロードと呼ばれた30歳くらいの男は、自分の太股を指さしながら、ここまで回復できるとは思わなかったと、リーダーという男に笑顔で説明する。
「信じられん! あのケガがここまで回復出来るのか? 君は治癒魔法が使えるのか? いや、教会の聖人候補か?」
「いいえ、俺は薬屋で働いたことがあるので薬草の知識があったのと、今日は薬草採取に来ていて偶然激レアな薬草を見付けたから、運良く治療できただけです。この薬草です。これは上級ポーション【天の恵み】を作る時に必要な薬草で、本来なら化膿止めに使われるものですが、使ってみたら効果があったようです」
「「「「 天の恵みだって!」」」」
俺は使い残しの薬草をウエストポーチから取り出して、【天の恵み】というポーションの素材になる薬草だと説明すると、ミレーヌさん以外の全員が大声で叫んで、どうしたらいいのか分からないって視線を俺に向けた。
「た、確か金貨4枚(40万円)以上するポーションだったなラルフ?」
「いいえリーダー、【天の恵み】は作れる薬師がもう居なかったと思います」
「そうです。もしあれば、金貨10枚でも出す貴族はいるでしょうよリーダー」
「そ、そうかデル……ハハハ、そりゃ本当に運が良かったなロード。で、ものは相談だが坊主、薬代は……分割でもいいか?いや、いいだろうか?」
リーダーと呼ばれている男は、ちょっぴり顔色を悪くしながら薬代の話をしてきた。しかも体が少し震えている気がする。
「薬代? 要りませんよそんなもの。だって、また採取すればいいんだから。ちょうど採取しているところに魔獣の気配がしたから……また取りに戻ればいいだけです。役に立てたならそれで充分かな。それよりもリーダー、あなた、ケガしてますね? 正直に診せなさい!」
こういう時は命令口調が一番だ。子供だからって下手に出るより、こっちに主導権があるうちに畳み込むことが大事だ。
よくよく見ると、大なり小なり全員が魔獣の毒(酸)にやられていたので、見張り役になった人以外を順に治療していく。土魔法で診察用の簡易ベッドを一つと、皆が座って休めるよう長椅子を3つ作る。
軽い切り傷にはポルポル商団の軟膏を塗り、打ち身の湿布もついでに施す。
目が覚めたミレーヌさんが、手を合わせて俺を拝んだので、他の人まで拝もうとするのは止めて欲しい。
「アーッ! そういえば巨大エアーカッター!」
二つの冒険者パーティーの、ミレーヌさんが所属している若者パーティーのリーダーが、最後に治療を終えた途端、目を見開いて大声で叫んだ。
「アーッ! そうだった。坊主、あれはお前の攻撃で間違いないか?」
ベテランばかりが集まっている方のパーティーのリーダーが、緑色の瞳をこれでもかと開いて、俺の両肩をガシリと掴んで質問する。
「あ、あぁ……治療で忙しいのに襲ってきたから、つい頭にきて・・・」
「「「 つい頭にきてぇ!? 」」」
何故だか数人の男が、納得できないって顔をして声を上げる。
だって、激レア薬草が奇跡を起こして、感動してるところを襲ってきたし、急いでもう一人を治療しなきゃいけなかったんだから、手を止めたくなくて怒るよねえ普通は。えっ、違うっけ? どうなの?って首を捻る。
「ああ、自己紹介が遅れた。俺はここに居るBランクのラルフ(32歳)、BAランクのロード(30歳)、Aランクのデル(36歳)と一緒にパーティーを組んでいるセイガだ。Aランク冒険者パーティー【宵闇の狼】のリーダーをしている」
……そういえば王都支部で見掛けた人だ。これが【宵闇の狼】の人たちかぁ。
「俺たちは【太陽と月】というパーティーを組んでいる五人で、ランクはBからDまでいる。俺はリーダーでBランクのホルクス28歳だ。よろしく。10歳くらいだと思うけど……君は冒険者?」
どこからどう見ても、冒険者ですって格好をしているのに、ホルクスさんは握手をしながら冒険者かどうかを確認してきた。何でだ? 確かに実年齢より幼く見られるけど、こんな上ランク者用の龍山で薬草採取している子供が、冒険者以外に居るんだろうか?
「はい、最近Eランクになったばかりのアコルといいます」
俺は初心者らしく、先輩方に笑顔で自己紹介する。
すると「Eランク!!?」って、疑るような驚いたような顔をして、皆が俺をじ~っと問い質すように見つめてくる。
……うん、これは、ちょっとやらかしたかも。
「アコル? もしかしてお前は、サイモンとパリージアの息子のアコルか?」
「はいそうです。セイガさん、【宵闇の狼】の皆さん。これから暫くお世話になります。モンブラン商会から来ました、秘書見習いのアコルです。俺の本業は商人なので、冒険者はアルバイトです。よろしくお願いします」
モンブラン商会の人間として恥ずかしくないよう、俺はきちんと立って挨拶する。商人は礼儀正しくがモットーだ。
「はあ? 商人? まだ医師とか薬師見習いなら分かるが……」って、若者パーティーのホルクスさんが、信じられないって顔で眉間にしわを寄せる。
「確かにモンブラン商会からの依頼は受けたが、一緒に旅に出る依頼主の商人ってアコルなのか?
はあ? アコルという少年と旅に出て、冒険者として鍛えながら、モンブラン商会の依頼をこなせばいいってサブギルドマスターのダルトンさんが……
いやいや、ちょっと待て。なんで冒険者じゃなくて商人?
なんでEランクなんだよ! あの特大エアーカッターはCランク……いや、Bランクでもおかしくないだろう!
何やってんだよギルドは、許せん!」
【宵闇の狼】のリーダーのセイガさんが、超不機嫌な顔をして、許せないとかなんとかブツブツ言い始めた。他の人たちも「有り得ない!」とか「魔力量検査はどうした!」とか「ギルドの失態だ!」って騒ぎ始めた。
「まあ、そこは置いといて、早くケガ人を休ませてあげましょう。傷口は塞がりましたが、これから熱が出るかもしれません。急いで下山しましょう」
これ以上突っ込まれても答えようがないので、全員の意識を俺からケガ人のミレーヌさんとロードさんに向ける。
「ああ、そうだった。討伐した魔獣もこのままじゃマジックバッグに入らないしな。新種の魔獣の可能性もあるから、本当はこのまま持ち帰りたいところだが、今から支部に戻ってギルマスのマジックバッグを持ってくるのは無理だ。日が暮れてしまう。危険を考えると仕方ない。さあ、急いで解体するぞ!」
「はいリーダー」
「はいセイガさん!」
セイガさんの掛け声に、残りの力を振り絞るようにして皆は立ち上がる。
……ん? マジックバッグに入らない? あれれ、でもAランク冒険者だよね。
「あの~、Aランク冒険者って、あのくらいの大きさの魔獣が入るマジックバッグを持っているんじゃ……」
「んな訳あるか! こんなデカい魔獣が入るマジックバッグなんか、Sランクの冒険者くらいじゃないと持ってないわ!」
……えーっと、そうか、みんな自分じゃ作らないんだよな。普通は高学院の魔法部で魔法陣を学ばないと作れないんだった。ということは、冒険者にはA級魔法師の人って居ないのかな? ギルマスのマジックバッグは国宝級って言ってたなそう言えば・・・
俺は倒された魔獣をじっと見て、その大きさと自分のマジックバッグの収納量を考えてみる。
たぶんだけど、ギリギリ入るかもしれない。
人前でマジックバッグを見せるなと、王都支部のギルマスから厳しく言われているけど、モンブラン商会のマジックバッグだって言えば誤魔化せるかも。
そうだよ。香木の幹を入れるために、商会のマジックバッグを持たされたと言えばいいじゃん。うん、そうしよう。
「セイガさん、俺が持ってるモンブラン商会のマジックバッグなら、もしかして入るかもしれません。収納してみないと分かりませんが・・・」
「えっ? モンブラン商会のマジックバッグ? 依頼主がマジックバッグを持たせてくれたのか? 珍しいなあ。もしも貸してもらえたら助かるけど、さすがの大商会でも、この魔獣が入る国宝級の大きさのマジックバッグを、見習いの少年に持たせるかなぁ?」
セイガさんは信じられないって顔をして首を傾げる。
どうやら俺の認識は、いろいろと間違っていたようだ。でもここは誤魔化して、この機会に是非、この大きさの魔獣が入るかどうか試してみたい。
俺は倒された魔獣の頭部を持ってきてもらって、欠損のない状態に揃った魔獣をマジックバッグに収納してみる。
確か巨大な物を収納する時は、詠唱が必要だって【上級魔法と覇王の遺言】に書いてあったな。
「誓約の魔力を捧げし我に、神の示す空間を広げ、望むものを収納せよ」
詠唱と同時に、スウッと魔力がマジックバッグに吸い取られていく。
カッ!と一瞬光が辺りを包んだかと思うと、目の前にあった魔獣の姿が無くなっていた。思っていたより多くの魔力を使ったようで、体が重くなった気がする。
「アコル大丈夫? 今の魔法、随分と魔力を使ったでしょう?」
ずっと俺の肩にとまっていたエクレアが、心配そうに訊いてきた。
「うん、詠唱すると魔力をかなり持っていかれる。ちょっと疲れたかな」
小さな声でエクレアの問いに答えて、ふ~っと大きな息を吐いた。
すると、暖かい何かが体に流れ込んできて、体がポカポカしてきた。
「私の魔力を分けてあげるわアコル。大丈夫、大した量じゃないわ。山を下りるのに必要な量だけよ」
エクレアはそう言ってにっこりと笑った。
……ああ、俺のエクレアは優しいし、可愛いな。
「ありがとうエクレア。とっても楽になったよ」ってお礼を言って、みんなの方に振り返った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークが増えていて、喜びのダンスを踊りました。




