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287 同時襲撃の恐怖(3)

 ◇◇ 勇者 ラリエス ◇◇


 それは、これまで見てきた魔獣氾濫の、どの光景とも違っていた。

 ブラックドラゴンに操られた魔獣は、正気を失い大群で爆走するというのが、昨日までの我々の認識だった。

 

 ……だが、眼下に広がる光景は何だ?


 魔獣は大群ではなく30頭前後の小群にばらけ、東・南・南東の三方向に広がるようにして爆走しているではないか。

 変異種や上位魔獣が少ないのは幸運かもしれないが、全体の総数は300を越えていそうだ。


 ……これでは、戦力を細かく分散するしかない。


 覇王軍が得意とするのは、離れた場所から魔獣の大群に向かって放つ、大規模攻撃魔法だった。

 しかし現在見えている魔獣は小群であり、林や小さな森に入れば発見しにくくなってしまう。


 そのうえ開けた場所を移動している中級魔獣を観察すると、何故か互いに距離をとっているように見える。

 中級や下級魔獣に、そんな知恵があるとは思えない。


 ……まさかブラックドラゴンが、意図してこの陣形になるよう操っているというのか?


 だとしたら、アイツは我々に対抗する手段をとったことになる。

 そして、配下の魔獣と距離が離れても、洗脳を続けられる自信まであるのかもしれない。


 ……なんてことだ・・・


 信じたくない思いは大きいが、ブラックドラゴンという生き物の知能を、決して侮れないと警戒心が強くなる。

 未知の生物でもあるブラックドラゴンに関する知識が、我々には殆どないのだ。


『ラリエス、魔獣が光のドラゴンを恐れるかどうか、低空飛行で試して欲しいってアコル様から指示がきたよ』


「了解エリス」


 相棒である光のドラゴンエリスが、バルバ山の南に向かっているアコル様からの指示を念話で伝えてくれる。

 エリスとアコル様は、10キロくらい離れていても念話ができる。


 残念ながら私は、契約妖精のトワとエリスの両方とも、そんなに離れた距離での念話ができない。

 それでも、前回エリスから転落し死の縁を彷徨った私は、泣きながら懇願するトワのために猛特訓して、5キロ離れた距離間の念話が可能になっている。



 眼下に見えるレッドウルフたちは、魔獣の中でも走る速度は最速だ。

 だから、バルバ山から最も離れた場所まで移動してきた小群と考えていいだろう。

 

 ブラックドラゴンの現在地は分からないし、肉眼で確認することもできない。

 ここからバルバ山までの距離は、既に20キロ近く離れている。


 エリスが徐々に高度を下げ、はっきりとレッドウルフの姿が見えてきたところで、私はどうか洗脳が解けていますようにと祈る。


 見晴らしの良い丘を走るレッドウルフの進行方向に、エリスで先回りして立ち塞がることにした。

 洗脳されていないレッドウルフなら、光のドラゴンが近付いてきただけで恐怖し、進行方向を変えたり逃げようとするはずだ。


『ラリエス、魔獣が恐怖しなかったら、洗脳を解くため炎の攻撃をするようにって、アコル様が指示を出されたわよ』


「分かったエリス。このまま突っ込むぞ!」


私は応えて、レッドウルフの正面へと低空飛行で接近していく。



 その結果、残念ながらレッドウルフの小群は、まるでエリスの姿など見えていないかのように、そのまま走り抜けていった。

 目は虚ろで苦痛の表情だったから、まだ操られているのだと確信した。


 エリスは自分が何をすべきなのかを理解しているので、旋回して再びレッドウルフの小群の上空に戻ると、赤々と燃える2メートル級のファイヤーボールを5発、群れの中に打ち込んだ。


 するとレッドウルフは一斉に動きを止め、炎が着弾したものは断末魔の叫びをあげる。

 何が起こったのかとキョロキョロ辺りを見回し、上空に顔を向けた途端、尻尾を丸めて一目散に逃げていく。


 それぞれに距離をとっていたレッドウルフたちは、一つの纏まった集団を作り直し、北に見える林へと向かって逃走していく。


「エリス、毛皮は要らない。肉も要らないから炭にしていいよ」


『やったー! 久し振りに全力で攻撃できる』


エリスはそう言うと、絶対に逃がさないという距離まで降下して、巨大なファイヤーブレスを吐き出し、あっという間にレッドウルフを炭にした。


 私は直ぐ、エリスの念話を使ってアコル様に報告を入れた。



『ラリエス、アコルは南の町に向かう群を討伐するから、ラリエスは東に向かった群を討伐するようにって。

 南東の王都側へ爆走する群は、これから出動させるエイト率いる覇王軍に討伐させるって』


アコル様の契約妖精エクレアちゃんが目の前に現れて、指示を伝えてくれた。


 ……魔獣は小群に分かれているから、危険度の高い場所を優先して討伐するしかないな。



 そこからは、魔獣の群を発見したら、1キロ先の地点にマサルーノ先輩を降ろし、私とエリスは炎の攻撃で洗脳を解いていく。

 群を上手く纏まらせ、広域魔法陣が得意なマサルーノ先輩の罠に魔獣を追い込む作戦で討伐していった。


 マサルーノ先輩の魔法陣は、地面から突然現れる土の棘で魔獣を貫き、決して逃がさない優れモノだ。

 高さ3メートルまで伸びる棘で貫かれた魔獣は、暫く放置しておけば血抜きも完了し素材もゲットできる。


 2時間くらい放置していても、土の棘は崩壊することはない。 



 幸運だったのは、洗脳された魔獣が人間を襲わなかったことだ。

 下手に洗脳が解けると、魔獣の本性から人間や家畜を襲うだろう。

 だからと言って、人的被害が出ていない訳ではない。


 ワイコリーム領は春までに、全ての村や町に物見やぐらと警鐘を設置済である。

 そして全ての村や町に対ドラゴン用の地下室も作ってある。

 だが、住民全てが避難できる大きさではないため、大人の男性は建物の中に避難するしかない。


 上空から見えた村は、魔獣が通り抜けたようで、建物の一部が破壊されたり崩されていた。

 建物の中に避難していた住民は、亡くなったりケガを負っている可能性もある。

 

 私にとっては大切な自領の民だ。すぐにでも救助したい。

 だが、同じ被害を出さないためにも、もどかしい思いを我慢して、己に与えられた任務をこなさねばならない。




 魔獣の討伐をしながらバルバ山の東に向かって2時間、ようやくブラックドラゴンの姿を視線の先に捉えた。

 同時に、ブラックドラゴンの真下の町の数か所から、煙と炎が上がっているのに気付いた。


 ……おい、人の領地で何を好き勝手してる!


 ……魔獣を意のままに操り、炎で人を攻撃する。まるで全ては我が手にあるかのような振る舞いじゃないか!


 金色に輝くエリスに気付いたのか、ブラックドラゴンは一度高く上昇したが、また低空飛行して口から炎の攻撃を開始していく。

 まるで見せつけるかのような攻撃に、怒りがふつふつと込み上げてくる。


「光のドラゴンさえ、眼中にないってことか?」


マサルーノ先輩はブラックドラゴンを睨み付けながら言い、空中でも使える魔法陣をマジックバッグから取り出し戦う準備を開始する。


 眼下に広がる町は、隣国となったラレスト王国へと続く街道沿いにある町で、人口は7千人、主な産業は農業と金属加工だ。

 この辺りは木造の家が多いので、ひとたび火が出れば燃え広がるのも早いだろう。


「くそ! 絶対に火を消してやる。私は溶岩で燃えている隣国の町の火災を魔法陣で消した男だ。

 エリス、その前に格の違いを見せてやれ! ヤツの4枚の翼に炎の矢を撃ち込み、炎を放ったことを後悔させるぞ!」


『了解ラリエス!』

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

更新遅くなりました。

次の更新は、27日㈭の予定です。  

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