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241 再びニルギリ公国へ(3)

「かわいそうに、また嫌がらせされてるよ」

「噂じゃ、この商会を買い取るはずだったライバル商会の仕業らしいぞ」

「今度はそこの道楽息子が、助けてやるから結婚しろと娘に迫っているらしい」


 俺たちの後ろで成り行きを見守っていた人たちの、同情するヒソヒソ話が聞こえてきた。


 ……どうやら、また乗っ取りの危機に遭っているようだ。


「確か伯爵家のバカ息子が、商会主やその娘を騙して店を乗っ取り、店の金を湯水のように使い、悪事がバレて国王に捕らえられたって話だろう?

 そもそも借金の取り立てなのに、借用書も持ってこないような人間は、まともな金貸しじゃないよな?」


俺は一歩店の中へと入って、今にも店長らしき男性に手を上げようとしている大男に聞かせるよう、わざと大声で話す。


「ええ坊ちゃん、まともな商人なら胸倉を掴んだりしませんよ。

 あれはいちゃもん付けて、金が貰えたらラッキーって感じのクズですね。

 そもそも、バカ息子が借りた金なら、親である伯爵が払えばいいだろう。なあ、皆もそう思うだろう?」


マサルーノ先輩は俺の問いに答えながら、目の前の男たちをクズだと煽る。そして見物人たちに同意まで求める。


「そうだそうだ!」と、見物人たちからも声が上がる。


「黙れお前たち! そこのクソガキ、どうやら痛い目に遭いたいようだな。へへ、俺たちに逆らってタダで済むと思うなよ!」


 うん、お決まりの台詞が聞けてよかった。こいつ等は悪人で間違いなし!


「部外者は引っ込んでろ!」と、最初に俺たちを睨み付けた男も、胸元から小刀を取り出し脅す。


「あまり切れそうにないナイフだな」

「ええ坊ちゃん。あれは安物の量産品です。坊ちゃんがお持ちの剣とは比べものにもなりません」


 なんだか楽しくなってきた俺たちは、自称借金取りの男たちの意識を自分たちに向けるため、煽れるだけ煽ってやろうとバカにしていく。


「なんだと! おいガキ、なめたことを言いやがって、斬れるかどうか試してもいいんだぞ」


男はナイフの鞘を抜き、ヘッと右口角を上げ悪人顔を作り直す。

 事務長らしき人の胸ぐらを掴んでいた男も、手を離して腕捲りすると、下卑た顔でニヤリと笑う。どうやら腕に自信があるようだ。


「大商会の店の中でナイフを抜くなんて、これはもう警備隊を呼ばなきゃいけないな。

 ケンカしたいなら相手になってやってもいいけど、俺の剣はミスリルだから命の保証はできないな」


俺は全くビビる様子も見せず、余裕綽々って感じでリーダーらしき男に向かって言った。


 リーダーらしき男は、ガキに用はないと無視して陳列棚を物色していたが、俺の挑発を聞きギロリと眼光鋭く振り返った。


「はっ、ミスリル? はったりもそこまでくると滑稽だ。

 関係ねーお前らは黙ってろ! これ以上口を出すなら、痛い目みても知らねぇからな」


仲間の2人とは違い、リーダーらしき男は警備隊という言葉を聞いてもゆとりの態度だ。

 恐らく、こいつ等のバックには商会か貴族が付いているのだろう。


「なあマサルーノ、こいつ等を殺したら罰せられるんだろうか?」


俺は微笑みながら、マジックバッグから鞘付きのミスリルの剣を取り出す。


 突然出てきた剣に、3人の男たちは「はあ?」と声を上げる。

 見学人たちはヤバいと思ったのか、一斉に店の出入り口から距離をとっていく。


「いえいえ坊ちゃん、罰せられることはありませんが、殺す価値もないような奴等です。

 それに、店に迷惑を掛けるのはよくありません」


マサルーノ先輩はそう言うと、3人の男たちに向かって右掌を差し出し、クイクイッと手招きし、ニヤリと笑って外へ出ろと喧嘩を売る(誘う)


「二度とマーガレット商会に来れないよう、懲らしめるとするかマサルーノ。

 厚顔無恥な伯爵家の者たちにも、みっちり教育して差し上げよう」


「はい坊っちゃん」




 そこからはもう一方的だった。

 土魔法が得意なマサルーノ先輩は、3人の男が外に出るなり緊急避難用のかまくらに閉じ込めてしまった。


 魔獣の攻撃から身を守るかまくらだ。頑丈で窓も出入口もない。

 役人が来るまで暗闇で大人しくしてもらうのがいいだろう。

 見学人だった者も道行く人たちも、何が起こったのか分からないって顔でかまくらを見ている。


「さあ、これでゆっくりマーガレット商会を見学できますね坊ちゃん」


マサルーノ先輩は魔法陣の書かれた紙をポケットに突っ込みながら、爽やかな笑顔で言った。


 成り行きを茫然と眺めていたマーガレット商会の商会員たちは、慌てて「いらっしゃいませ」と声を出し、俺たちを店内に迎えてくれる。


「助けていただきありがとうございます。また、ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした。

 私はこの商会の部長でサーパスと申します。ぜひともお礼をしたいので、奥の部屋にご案内してもよろしいでしょうか?」


 そう言って深く頭を下げる壮年の男性は、事務長じゃなくて部長だった。

 他の商会員たちもカウンターや店の奥から出てきて、ありがとうございましたと頭を下げる。


 ……フンフン、さすが老舗の商会だな。簡単に魔法を発動させた俺たちを、貴族だと思ったようだ。


 この国の魔法教育は、コルランドル王国よりはましで、貴族だけではなく平民も受けられる。が、学費が高いので、領主や役場の推薦がなければ入学できない。

 軍に入隊すれば、基本的な初級魔法は教えてもらえる。


 マサルーノ先輩が使った土魔法は、この国のレベルからすると高い方だと思う。

 いとも簡単に、しかも無詠唱で発動する魔法陣なんて、高位貴族以外は使えない……いや、この国では有り得ない魔法だろう。


 

 女性商会員の案内で通された部屋は、派手さはないけど高級な調度品や絵画が上品に配置されていた。きっと貴族や大商会を接客する部屋だろう。

 直ぐにお茶が出されて、少しだけ待っていると、先程の部長さんと商会員とはどこか違う装いの女性が入室してきた。


「この度は、ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。

 私は当商会の商会長代理を務めるミラリー・マルガレーテルと申します。


 もしも今後お客様に、先程の者たちがご迷惑を掛けることがあれば、どうかマーガレット商会にご一報くださいませ。

 二度と迷惑が掛からぬよう対処いたします」


 髪を結い上げ凛とした表情で話すこの女性が、やたらとダメな男に付きまとわれる不運なミラリーさんか・・・

 アレクシス領のエドガー殿が言っておられた通り、芯の強そうな女性だ。

 まあ、そうでなければ商会長代理は務まらないだろう。


「いえ、あの男たちのことは心配無用です。私たちはこの国の者ではありませんし、明日この国を去りますので、襲われることもないでしょう」


申し訳なさそうに頭を下げるミラリーさんに、マサルーノ先輩は優しく答えた。

 折角だからとお茶に口を付けたところで、男性商会員が緊張した面持ちで入室してきた。


「失礼いたします。ミラリー様、エドガー様とコルランドル王国からのお客様が到着されました」


その男性商会員は、俺たちの対面に座っていたミラリーさんの側まで来て、小声で用件を伝えた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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