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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
現実と理想

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213 卒業式のあとで

 大波乱の卒業式が終わり、卒業生は自宅に戻る者と、編入や進学して学院に残る者とに分かれて行動していく。

 在校生の内、追試を受ける者は午後から試験で、その他の学生は外出自由の休みとなる。


 卒業生は、明後日までに退寮すればいいので、今日は殆どの者が町に繰り出す。

 学部やグループに分かれて学生同士で、又は家族と一緒に卒業を祝うのだ。


 俺は国王や保護者たちの謁見依頼を全て断り、【覇王軍】【王立高学院特別部隊】のメンバー全員を連れ、約束していた卒業祝い会場へと向かう。

 会場は、マリード侯爵お勧めのレストランだ。


「アコル様、学院長が困った顔をしてましたが・・・」


「いや、だってさ、国王が来るなんて聞いてなかったし、俺は自分の予定をちゃんと伝えておいたんだから問題ないだろう?

 そもそも、誰とも会う予定なんて無かったぞ」


半分呆れたような顔をして質問するトーブル先輩に、俺は問題ないだろうと笑って答えた。


「覇王であるアコル様の予定が優先されるのは当然のことです。

 それに全員腹ペコです。予約の時間に行かねばレストランに迷惑が掛かります」


エイトは腹を擦りながら、突然覇王様と謁見したいと申し出る貴族の方がおかしいと言い、早くレストランに行こうと張り切っている。



 本日卒業した主要メンバーは、貴族部がノエル様、ミレーヌ様、飛び級でチェルシー先輩とエリザーテ先輩。

 この4人は、魔法部の3年に編入する。


 魔法部が、マサルーノ先輩、ボンテンク、シルクーネ先輩、飛び級でトゥーリス先輩、トーブル先輩の5人。

 マキアート教授の研究室組の3人は、【覇王軍】の指揮官として就職する。

 トゥーリス先輩とトーブル先輩は医療コースに進学する。


 特務部は、ヤーロン先輩が【覇王軍】で、【魔獣討伐専門部隊・軍部】や冒険者の指導をする。

 魔法部の3年に編入するのはゲイルだけだ。


 リーマス王子は、薬師部と貴族部の講師として学院に残る。

 俺は魔法部の3年に編入し、薬師部の単位も取っていく予定だ。



 魔法部1年のラリエス、エイト、ルフナ王子、ミレッテさんは、飛び級で魔法部の3年になり、貴族部1年のカイヤさんは、飛び級で上級貴族部の3年になる。


 商学部1年のスフレさんとラノーブは、卒業資格は取得したが、学生をしながら覇王軍と王立高学院特別部隊の財務の仕事をしてくれる。 

  

 主要メンバー以外で卒業した者は、全員が【王立高学院特別部隊一般部】か【覇王軍】に就職してくれた。

 いや、まあ、商会や王宮の倍の給料だからだって皆は笑って言うけど、命懸けの仕事を続けてくれるのは本当に嬉しい。


 既に全員が5回以上出動しており、貸し出したマジックバッグは、本日めでたく個人の持ち物となる。

 その授与式も兼ねているので、今日の卒業パーティーは笑顔いっぱいになりそうだ。



 予約したレストランは本日貸し切りで、中級地区の商業ギルド本部の隣に在った。

 ドバイン運送が開業したので、マリード領から新鮮な魚が入るようになり、海鮮料理が好評なんだとか。


 パーティー開始の挨拶をしたのは、卒業生をもてなす代表のラリエスだ。

 次にノエル様、ボンテンクがお礼の挨拶をして、完全無礼講のパーティーが始まった。


 俺以外は全員成人しているからお酒もオッケイで、酒代は俺のポケットマネーから捻出する。

 食事代は、冒険者ギルドから入った魔獣の素材代金で賄う。


 魔獣の討伐代金は覇王軍に入金されるが、魔獣の素材代金は王立高学院特別部隊特別会計に入金される。

 この特別会計は、メンバーに払う特別危険手当や福利厚生費に充てられる。


 魔獣の氾濫が終わったら、特別会計の残金は転職準備金として皆で分けるつもりだ。


 俺が先月龍山で倒したグレードラゴンと上位種の素材代金だけでも、金貨300枚を超えている。

 これまで皆で倒した魔獣素材代金の残額も、金貨650枚以上ある。これからも確実に増えていくだろう。


 

 小腹が太った頃、ミレッテさんが嬉しい報告をしてくれた。


「アコル様、セイロン山の麓のミルクナの町の代官をしていた父が、この度正式に領主となり、準男爵から男爵に陞爵されました」


「それはおめでとう。ミルクナの町の魔獣対策は、この国の全ての町の手本となっている。

 当然の陞爵だよ。それじゃあミレッテさんが男爵家を継ぐんだね」


「はい、それで、あの・・・えっと・・・」と、赤い顔をしてミレッテさんは口籠もった。


 ……はて? 嬉しい報告なのに何か困ったことでも?


「失礼しますアコル様。続きは私から報告いたします。

 私は先日ミレッテさんに求婚し、昨日正式に両家から婚約の了承を得ました。

 ちなみに求婚したのは、ミレッテさんの家が男爵に陞爵する前です」


これまた顔を赤らめ、真面目に姿勢を正して報告するのはゲイルだ。


 ……いつの間に? 


 う~ん、確かに2人はクラスメートでクラス対抗戦でも一緒だったし、サナへ領の救済活動では荷馬車組で一緒だった。


「おめでとう。2人とはこれからも魔法部の3年で同期生だ。卒業して結婚する時は、絶対にお祝いを贈るよ」と、俺はにまにましながらお祝いの言葉を言った。


 わいわい騒ぎながらも、俺たちの会話に耳を傾けていたらしいエイトが、チェルシー先輩の手を引いてやって来た。


「アコル様、俺もチェルシー先輩からオッケイを貰いました」

「ちょっとエイト君、まだマギ公爵様からお許しは出てないわ」


凄く嬉しそうなエイトに向かって、チェルシー先輩が困った顔で注意する。

 でも、ちょっと酔ってご機嫌なエイトは、大丈夫大丈夫って言いながら嬉しそうだ。


「おめでとう。もしもマギ公爵に反対されたら俺が説得するよ。

 それじゃあ、エイトはチェルシー先輩の家に婿に入るのか?」


「いえ、それは無理だと思いますアコル様。私には妹が居ますので、家は妹が継いでくれると思います」って、男勝りなチェルシー先輩が、赤い顔をしてはにかんでいる姿は新鮮だ。


 ……2人も魔法部の3年で同期生かぁ。まあ、貴族なら婚約者がいて当然らしいからな。


 そこからは驚きの連続だった。

 いつの間にか仲間内で、たくさんのカップルが誕生していたのだ。

 最後に報告を受けたのは、財務担当をしているスフレさんとラノーブのカップルだった。


「良かったねスフレさん。デミル領の貴族と結婚させられなくて」


「はい。全ては覇王様のお陰です。欲深い父は、私をデミル領の伯爵家の後継者に嫁がせたかったようですが、私とラノーブ君が覇王軍の財務担当だと知ると、気味の悪い笑顔で許可してくれました」


スフレさんは少し疲れた表情で「欲深さが増した父は、このまま2人が覇王軍で働けば、必ず自分にも利があるはずだと考えているようです」と付け加えて溜息を吐いた。


 ……あんなに忙しく活動してたのに、ホントいつの間に?

 ……いや、一緒に生死を分かち合ったからからこそか・・・


 もうこれでおめでたい話は終わりかな?って油断していたら、驚きの凄い話が残っていた。


「うちの妹が、どうやらレイトル王子に求婚されたようです」

「はい? カイヤさんがレイトル第四王子に?」

「なんでもサーシム領の救済活動の時、妹の凛々しい姿に惚れたらしいです」


あんな苛烈で怖い妹を好きになる男がいるとは思わなかったと、ボンテンクは失礼なことを付け加えて言う。


 いやいや待って。

 レイトル王子は次期サーシム侯爵になるんだよな?

 あのシャルミンさんと親戚に?


「まあお兄さま、勝手に何を話しているのかしら?」と、ちょっと低い声が後ろから聞こえた。


「ぎゃっ! いやカイヤ、その・・・俺は何も言ってないから。うん」と、青い顔をしたボンテンクは、慌てて逃げていった。


 ……ちょっとボンテンク、俺はどうしたらいいんだよー!


 とりあえず、ここは笑顔だけを向けておこう。


「フウッ、もちろんお断りする予定ですわアコル様。

 わたくし、レイトル王子は嫌いではないのですが、サーシム領の高位貴族が大嫌いなんです。

 救済活動の時は、何度捻り潰したいと思ったことか」


今日もカイヤさんは通常運転だ。美しい笑顔で毒を吐いている。


 でも、よく考えたら、カイヤさんがサーシム侯爵夫人になれば、古い考え方で完全に時代に乗り遅れているサーシム領の貴族たちを、ビシビシと鍛えてくれる気がする。


 ……もしかしてレイトル王子も、そこを期待しているとか? ん?

 


「覇王様は、心に決めた方はいらっしゃらないのですか?」


トゥーリス先輩と仲良く二人でやって来たのは、エイトの姉ミレーヌ様だ。

 相変わらず仲良しそうで何よりだ。皆が理想のカップルだと言うだけはある。


「俺に恋をする時間があると思う?

 それにさぁ、俺、まだ成人してないし、将来の夢は大商人だよ?

 卒業したら世界中を飛び回る予定だし、この国の貴族になる気もないし」


 別に恋を否定するわけじゃないけど、これまで結婚なんて考えたこともなかったから、問われても好きな女性が思い浮かばない。


 そもそも俺は、かわいい妹弟を高学院卒業まで見守りたいし、アエラボ商会が忙しい。

 ミゲール君はまだ5歳だから、最低でも13年は独身でいたい。


 ……13年後でも、俺はまだ27歳だよな? ぜんぜん大丈夫。問題なし!


「私も魔獣の大氾濫が収束するまでは、結婚は考えられません」と、ラリエスが胸を張って会話に参加してきた。


「いや、ラリエスは名門ワイコリーム公爵家の後継だ。結婚は重要なことだろう?」って、俺は心配になって訊いてみる。


「我がワイコリーム公爵家は、代々恋愛結婚です。家同士で結婚を決めるようなことはありません。

 アコル様が結婚されるまで、私も結婚する気はありません」


何故そんなに嬉しそうな顔をして断言するんだよラリエス?


「いや、俺に遠慮する必要はない。好きな人ができたら、きっちり決めてくれ。俺はラリエスが決めた人なら、心から応援するぞ」


「いえ、アコル様にお仕えすることより、優先したいことなどありません」と、後ろに倒れるぞと心配になるほど、両手を腰にあて笑顔でラリエスは胸を張った。


 ……これは酔ってるのか?

 ……酔っていたとしても、きっと本心なんだろうな。ハハハ。


 明日からはまた忙しくなる。

 レイム領の戦争は気になるが、今日くらいは皆に楽しんで欲しい。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章がスタートします。

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