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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
現実と理想

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211 魔術師試験と薬草採取

 ◇◇ A級一般魔法師 ボンテンク ◇◇


 昨日から始まっている魔術師資格取得試験は、多くの受験者がC級、B級試験に挑戦し、魔法省が正式な試験を開始してから最も多い合格者数を記録した。


 既に卒業や就職を決めている魔法部と特務部の学生にとっては、資格のランクで給金も変わってくる。

 当然鬼気迫る感じで受験していた。


 昨年からC級魔術師の資格取得が卒業条件に加えられた貴族部と商学部の学生も、大多数が懸命に挑戦していたが、怠けていた者と頑張って訓練していた者とでは、明らかに結果が違っていた。


 卒業年度の学生は、何がなんでもここで合格して卒業するか、留年するかが決まってしまう。


 魔力量が60に満たない学生は、救済活動や覇王講座の手伝いをすることで、C級魔術師の資格取得を免除されている。

 真面目な学生はきちんと救済活動や買い出しの手伝いをしており、【王立高学院特別部隊】が行う覇王講座の採点の手伝い等も数回こなしていた。



「嫌ですわ。高位貴族の女性が買い出しや炊き出しを行うなんて・・・魔術師の資格など無くても何の問題も無いというのに、野蛮な元平民に踊らされるなんてフン」


自分の取り巻きに囲まれた女は、C級魔術師の筆記試験を終え、相変わらず頭の中に花が咲いているとしか思えない発言をしている。


 ……覇王様を野蛮な元平民?


 レイム公爵家直系に対してのその発言、これはもうレイム公爵領の全貴族に喧嘩を売ったに等しい発言だ。

 フフフ、早速公爵夫人にお知らせしなくては。


 既にA級一般魔法師の資格を得ている俺は、今回副学長の指示で試験の手伝いをしている。

 軍や王宮勤務の事務官までがこぞって試験を受けるため、魔法省の役人が一般人を、俺とマサルーノとシルクーネは、学生の試験官や受付を任されていた。


「そうですわシャルミン様。いくら学院長でも、領主令嬢やわたくしたち高位貴族の学生を、その程度の規則で留年になどできるはずがございません」


声高に当然だと言う取り巻きの一般貴族部の女は、確か伯爵家の娘だったと思うが出身はデミル領だ。 


 学校の卒業資格になってしまった以上、救済活動を忌避した学生は、絶対に魔術師試験を受けるしかなかった。

 これは完全に留年だなと思いながら、憐みの視線を向けつつ実技試験会場へと引率していく。



 受験者数が多かったので、実技試験と筆記試験の結果は、翌日の朝、食堂の掲示板にババーンと貼り出された。


 魔術師試験に合格した卒業年度の商学部と貴族部の学生の名前の横には、【卒業確定】又は【不足単位の追試あり】と記入されていた。

 この記入によって、追試を受ける学生は、卒業が危うい成績であることがまる判りだった。


 そして不合格となった卒業年度の学生の名前の横には、【魔術師資格なし留年決定】又は【魔術師資格なし&単位不足留年決定】という不名誉な記入がしてあった。


 魔法部の学生なら、B級作業魔術師に合格できなくてもC級を合格していれば、()()()卒業資格を与えられる。

 しかし、貴族部にはそんな救済措置は存在しない。

 今年度の留年決定人数は8人で、全員が一般貴族部の学生だった。


 この張り出しを見た、一般貴族部2年生の顔色は悪かった。

 明日は我が身、そして学院長は決して甘くないと思い知ったのだ。


 高位貴族であればあるほど、留年なんて恥ずかしくて社交界で笑い者になってしまう。

 厳しいと知られている魔法部ならともかく、貴族部を留年するなど親に叱られて当然だし、結婚にも大きく影響する。


 もちろん卒業できないと発表された学生は、怒り狂って文句を言ったが、殆どの学生から見向きもされず、同情さえもされず、関わりたくないという態度まで取られる始末だった。


「あらシャルミンさん。わたくし来年度は魔法部の3年に編入する予定でしてよ。また同期生ですわね。

 わたくしの場合、昨日B級一般魔術師に合格したので、魔法部の卒業も確実ですけれど。ホホホ」


にっこりと微笑みながら、怒りと悔しさで顔を歪めているシャルミンさんに声を掛けたのはミレーヌ様だ。

 アコル様がノエルさんとミレーヌさんを様付けで呼んでいるので、私も同じように様付で呼んでいる。


 ……なんか怖いし……いやいや違う。領主の息女として威厳と貫禄が……じゃなかった、尊敬する女性だから様付をする。うん、そんなところだ。


「今の時代、高位貴族なら嫁入り道具の一つとして、B級一般魔術師資格くらいは持っていて当然ですわ。

 ですが私たちは領主の子、A級一般魔法師を目指しましょうねミレーヌ様」


今日も絶好調のノエル様が、格の違いを見せつけるように微笑みながら会話に割って入った。


「なんて野蛮なの!」と、悔しそうにシャルミンさんが唇を咬む。


 女性陣は朝から大変だな・・・妹のカイヤもB級一般魔術師に無事合格し、来年度は飛び級で上級貴族部の3年生に進級する。


 今日の試験はA級作業魔法師と国家認定A級作業魔法師の試験だ。

 残念ながら私ではまだ、国家認定資格は難しい。

 それでも次の試験では、必ず国家認定A級一般魔法師を取得してやる。


 さて、朝食を食べたら本日行われるA級作業魔法師の試験の手伝いだ。

 アコル様やラリエス君、エイト君、トーブル君、トゥーリス君や覇王軍入隊を目指す優秀な魔法部新3年生の、オリジナル魔法陣を見るのが楽しみだ。




 ◇◇ 冒険者ギルド龍山支部 薬草担当シルビー ◇◇ 


 私は龍山支部で、薬草買い取り担当をしている薬師のシルビー。

 毎日採取依頼を出しにやって来る薬師や医者の、顔を見るのが苦痛です。


 今年は年始からスノーウルフの変異種が山を下り、つい先日は大規模な魔獣の氾濫が起こりました。

 多くの冒険者がケガをして、薬草採取してくれる冒険者の数も激減しています。


 そもそも薬草採取を専門にしている冒険者はCランクの者が殆どで、危険の少ない500メートル以内の高さで活動していました。

 彼等は薬師と一緒に山に登ることが多く、薬師はEランクくらいの力しかないので、高い場所まで行けないのは仕方ありません。


 それに今は入山規制が出ていて、Cランクは300メートルまで、CBランクは500メートルまで、Bランク以上でも700メートルまでしか登れません。


 希少で絶対に必要な薬草が生息しているのは、700メール以上の高さの場所です。

 そんな高い場所で希少な薬草が採取できるのは、覇王様くらいです。


 何と言っても覇王様は薬草採取の天才で、龍山支部の最高額納入記録をお持ちです。

 いえ、魔獣討伐も天才ですが、薬草採取には薬草の知識が必要なため、覇王様の代わりになる博学な高位冒険者なんてマギ領には居ません。


 覇王様は10歳の頃から龍山支部で活躍されており、私はその頃からの担当です。

 昔から薬草で大金を稼ぐ天才でしたが、高学院に入学されてからは、龍山支部に立ち寄られるのは緊急時かドラゴンが出た時くらいです。



「シルビーさん、熱冷ましの薬草はまだですか?」

「はい、申し訳ありません」

「患者が死にそうなんですが」

「本当にすみません」


 この会話が、毎日何度も繰り返されます。

 マギ領だけではなく、多くの薬種問屋や薬師、医師までもが悲壮感を漂わせて受付に来ます。


 どこもケガ人は倍増し、冒険者用のポーションなんてとっくに底をつきました。

 隣の宿には、ケガが悪化して動けない高ランク冒険者が数人います。

 病院にも薬が無いので、治療することもできないと医師が泣き付いてきます。


 ……私だって泣きたい。

 ……こうなったら、私が山に行くしかありません。


 見た目20代のか弱き女性ですが、これでも私は素材採取冒険者CBランクです。

 Bランク以上の冒険者に護衛してもらえば、覇王様から頂いた地図を頼りに、熱冷ましの薬草くらいは採取できるはずです。


「ギルマス、もう限界です。私に行かせてください!」

「ダメだ! 昨日も400メートルの場所に上位種が出た。危険だ」


この会話も何度目か分かりませんが、今回は引き下がるつもりはありません。

 同じ薬草担当の男性が危機感を募らせ、先日山に行ってケガをしました。だからギルマスは許可を出さないのです。



 午後、私は仮病を使ってギルドを休み、こっそりと山に向かいました。 

 同行してくれたのはCBランク冒険者の2人で、500メートル以内ならという約束で協力してくれました。もちろんギルマスには内緒です。


 久し振りの龍山は、本当に魔獣の数が多くて驚きました。

 300メール地点で湿布の原料になる薬草を採取し、400メールの地点で切り傷に効く薬草を採取しました。


 ……やっぱり熱冷ましと痛み止めの薬草はここじゃ無理ね。


 あと100メートル登れば、痛み止めの薬草があったはず。

 昨年の記憶をたどりながら、一生懸命に薬草を探します。

 

「チッ、まさかのアースドラゴンだ」と、幼馴染みの冒険者の声が・・・


「シルビー、悪いが一人で逃げてくれ。お前が居たら足手まといだ」って、もう一人の冒険者が急かすように指示を出します。


 アースドラゴン? いやいや、CBランクの貴方たちでも無理よ。


「だめ、一緒に逃げて」と、震える声で私はお願いします。


「頼む、早く逃げろ! 男に恥をかかせるな」って、幼馴染みのダイラーが。


 よく見ると、体長4メートル級のアースドラゴンが、私たちの方に向かって移動を開始しました。

 その後方には、他の上位魔獣たちの姿も見えます。


「行け!」とダイラーは叫ぶけど、足が竦んで動けません。


 なんとか足を動かそうとして膝を叩くけど、足元に痛み止めの薬草があるのを発見して、動きが止まってしまいました。


 ……ああ、この薬草があればポーションを作れるのに、残念だわ・・・


 絶望と後悔と申し訳なさでしゃがみ込み、泣きながら薬草に手を伸ばすと、私の体は突然の強風で大きく揺れました。


「うわー!」と驚いた声が前方の2人からも上がります。

 そして大きな影が頭上を横斬り、バッサバッサと巨大な翼を動かすような音が・・・


 見上げるとそこには金色のドラゴンが居て、今まさに足に取り付けられた籠から飛び降りようとする覇王様の御姿が見えました。


 ……こ、これは幻かしら?


「お待たせシルビーさん」と、覇王様はごく普通に右手を上げ、私に声を掛けられました。

 ええぇーっ! 目の前にアースドラゴンがいるのに。


 そこからは、夢を見ているように時間が過ぎていきます。


 アースドラゴンが倒れるまでの時間は1分・・・

 他の上位魔獣たちは、金色のドラゴンに恐怖し、慌てて上に向かって逃げ出していきます。


「光のドラゴンが居るから、暫く魔獣は近付かない。さあ、心置きなく薬草採取しよう。

 ああ、800メートルより上に生息している薬草は、既に採取済みだよ」


にっこりと笑って、覇王様はマジックバッグを私に貸してくださいました。

 同行している2人の冒険者は、覇王様と一緒に行動できるなんてと大喜びです。


 ……ああ、これでたくさんのケガ人が助かります。

 ……私なんかの頼みを聞いてくださり、本当にありがとございます覇王様。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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