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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
現実と理想

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209 作戦会議

 アエラボ商会の就職試験も無事に終え、面接した7人は全員合格とした。

 本来なら10月から正式に商会員となるところだが、ドバイン運送が大忙しになってきたので、卒業後できるだけ早く働いて欲しいと頼んでおいた。


 王都に住んでいる商学部のイステル先輩(ドバイン運送本店)とレミア先輩(薬種 命の輝き)は、卒業式の翌日から働くと約束してくれた。

 二人とも準男爵家で家を継げる立場でもなく、卒業後は自立するしかなかったので、直ぐに働ける方が助かると喜んでいた。


 出身領地の支店勤務が決まっている4人も、出来るだけ早く働き始めると言い、アエラボ商会で働くことになった上級貴族部のレネ君は、マギ領の子爵家の次男で、一旦家に帰ってから急いで王都に戻ってくるらしい。


「まさか商会長が覇王様だったなんて」と驚いたり喜んだりと情緒不安定気味だったレミアさんは、娘が【薬種 命の輝き】で働くと知ったら、両親が腰を抜かすかも知れないと言っていた。

 王都民の間で【薬種 命の輝き】の評価は高く、王族が庇護する店であると誰もが知っていた。




 翌日、側近であるワイコリーム公爵、ラリエスと、従者であるエイト、ボンテンクを集めて、俺の執務室で作戦会議をした。

 議題はドラゴン討伐についてだ。


「ドラゴン討伐について、これまで通り山を下りてきたら討伐するか、住処である山に行って討伐するか、どちらが有効か皆の意見を訊きたい」


俺は単刀直入に皆に意見を求めた。


「アコル様、山でドラゴンを討伐すると、恐らく半数以上は龍山から逃げ出します。

 そうなれば、逃げたドラゴンが各地に散り、討伐が余計に困難になります。


 しかも龍山では、魔獣が驚いて逃げ出すので、マギ領とサナへ領は再び大混乱になります。

 広大な龍山から溢れ出す魔獣を止める術がありません」


今回の魔獣の氾濫で、かなりの戦力を失ったマギ領の冒険者ギルドは、態勢を立て直すのに暫く時間が必要だとエイトは言う。


「かと言って、一斉に山からドラゴンが下りてきたら、同じように何処の領地もパニックになる」


ワイコリーム公爵は、ケガ人続出の【魔獣討伐専門部隊】は、現在2箇所以上に派遣するのは困難なのだと溜息を吐く。


「エリスとランドルが2頭で龍山に向かったとしても、同時に倒せるのは5頭が精一杯です。

 グレードラゴンが眠っている時か、動かないでいてくれたら10頭は倒せるかもしれませんが」


ラリエスは腕組みをして、光のドラゴンだけで討伐に向かわせても、数の違いで不利になると唸る。


「先日俺はランドルに乗った状態で3頭と対峙したが、俺を獲物と定めてグレードラゴンが攻撃してくるので、今のままじゃ確実に落下して死ぬ。

 それに、俺を守りながら戦っていたら、ランドルが思うように戦えない」


俺もラリエスと同じように腕を組み、飛行しながら攻撃を命中させるのは、かなり困難だったと経験を話す。


「あんな高い山に、毒や罠を仕掛けるのも困難だし・・・」と困った顔でボンテンクは首を捻る。


「戦いやすい場所にドラゴンをおびき出せたらいいのに」とエイトが呟く。


「それも、2頭ずつくらいで」とラリエスが希望的な数字を追加する。


「それは理想的な戦い方だ。大きな岩陰から攻撃を放ったり、魔法陣で動きを止めることも可能だ」


ワイコリーム公爵はそう言いながら、例えばこんな感じの場所ならと、紙に地図のような地形のような図を描き始める。


 ちょっとした谷なら、上からも下からも攻撃できるんじゃないかとワイコリーム公爵が描き進めれば、魔法陣をあらかじめ発動できるようにしておいたり、上級魔獣を餌として放しておけばいいと、活発に意見が飛び交っていく。


 そしてワイコリーム公爵の図に、皆が思い思い書き足していく。


 その図を見たボンテンクが、レイム領にそんな感じの場所があった気がすると言い出した。

 そう言えばワイコリーム領にも似たような谷があったなと言って、ラリエスがコルランドル王国の地図を急いでテーブルの上に広げる。



 季節は夏だから、ドラゴンにとって餌となる上級魔獣の数は十分に足りている。

 だから縄張り争いや派閥争いなどが無ければ、グレードラゴンは移動しないだろう。


 しかし冬が近付くと、奴等は卵を産むため、新しい住処を探して活発に移動したり、冬を越えるための餌を探して移動を開始する。


 討伐の時期を考えたら、夏の終わり……9月の中旬辺りが最良だろう。


 卒業式が終わり次第、俺はボンテンクと一緒にランドルに乗って、ラリエスとエイトはエリスに乗って、討伐しやすい場所を探しに行くことになった。

 ついでに、龍山以外の山のグレードラゴンの生息域や数も確認する。


「魔獣の大氾濫って、今年がピークなんだろうか? それとも来年?」と、エイトが誰もが考えていることを口にする。


「それは今年、どれだけグレードラゴンを討伐できるかによるな」と、俺は答えておく。


「でも、ドラゴンは上級魔獣を食べるから、倍以上に増えた上級魔獣の数は、ある程度減らして欲しいな」


「いやラリエス君、今年の数は例年の3倍を超えている。3分の2は食べて欲しいよ」とボンテンクがラリエスに突っ込む。


「ドラゴンの討伐が早過ぎたら上級魔獣が増えすぎる。すると、結局中級以下の魔獣が逃げて山を下りてくる。タイミングが難しいな」


ワイコリーム公爵も腕を組んで、食物連鎖は無視できないと考え込む。


「とりあえず、光のドラゴンであるエリスとランドルには、定期的に龍山に出掛けてもらい、山から離れているグレードラゴンを討伐してもらおう。

 その間俺たちは、より有効な攻撃魔法の開発をして、王都の守りを強固にする」


「はい覇王様」とワイコリーム公爵が頷き、「承知しましたアコル様」と3人も真面目な顔で応えた。



 

 会議の後、俺たちは体育館に向かった。

 マキアート教授は今、初代覇王様が遺してくださった魔術具の解明に全力を注いでいる。


 研究室の学生に加えて、卒業や進級が確定している学生は、学部を問わず古代語の解読に挑み、何のための魔術具なのか、どうすれば魔術具を起動させられるのかを調べている。


 王宮の地下宝物庫から移動させた魔術具の数は20を越えている。

 何のための魔術具なのかが解明できたのは、今時点で3つだけだ。


 その3つの魔術具の内の1つは、ドラゴンが嫌う音を出せる装置である可能性が高いらしく、起動できればドラゴンを移動させることが可能になる。


 この魔術具は、まるで大きなラッパのようなモノが付いているので、恐らく音を出す魔術具だろうと皆は考えていた。

 まさかドラゴン討伐に役立つ魔術具だったとは驚きだ。


 魔術具本体に刻まれていた古代語の解読に成功した上級貴族部の先輩は、取扱説明書だと思われる木簡の解読を、チームを組んで挑んでくれている。

 木簡に刻まれた文字が所々消えかかっており、推測できる文字を当てはめているのだという。


 俺たちは執行部女子メンバーの姿を見付けて移動する。


「どうだカイヤ? 古代文字は解読できそうか?」


「あら、お兄さま。56文字は解読できたわ。

 残りは8文字なんだけど、現代語とは用方が違うのか、現代には無いモノに使われていたのか、文字というより絵みたいでサッパリ分からないの」


カイヤさんは、意味不明な文字を指さして、お手上げですわと首を横に振った。

 ボンテンクは妹のカイヤさんのノートを逆さまから覗き込み「まるで蛇の絵と鹿の角の絵みたいだな」と呟いた。


「えっ? ちょっと待て、それって・・・もしかしてもしかするかも」と、椅子から立ち上がったのはシルクーネ先輩だ。


 シルクーネ先輩は、これが蛇でこっちが鹿だったら、これはドラゴンの翼で、この独特な模様はロックドラゴンだわ!って興奮しながら指さしていく。


「それじゃあ、この鋭い爪のある手……みたいなものはビッグベアーかしら?」と、ミレーヌ様が楽しそうに答える。


「あら、それならこの独特な牙はタイガー種かしら?」と、ケガが回復したチェルシー先輩も声を上げる。


「それだと、このふさふさの尻尾みたいなのはウルフ系だな」と、ラリエスが面白そうに笑って答えた。


「ああ、間違いない。この右に2つ左に2つの目のようなモノが並んでいる絵は、変異種をも束ねる魔法攻撃ができる異形のリーダーだ」


自然の摂理に反した気味の悪い異様な変異種が思い浮かび、ドラゴンより厄介だと感じたことを思い出し、文字を睨み付けるようにして俺は答えた。


「あれは最悪だったよね」と、サーシム領で異形の変異種リーダーの音攻撃に遭った時のことを思い出したトーブル先輩が、俺たちの方に歩いてきて会話に加わった。


 トーブル先輩は小型の魔術具を両手で持っており、その魔術具をテーブルの上に置くと、ある一点を指さした。


 そこには4つの目の絵と、鹿の角、アースドラゴンの尻尾、馬の足らしき文字というか図が書かれていた。


「まるであの時の異形の変異種を示すような図だ!

 鹿の頭、アースドラゴンの胴体、馬の足、そして4つの目・・・それでは、この魔術具はあの意識を失う鳴き声に対抗する魔術具なのか?」


あの時リーダーとして異形の変異種と対峙したボンテンクが、驚いたように叫んで、目を見開いて魔術具を凝視する。


 ボンテンクの叫び声と、俺たちの話を何となく聞いていた他の学生たちが、一斉に目の前にある魔術具を調べ始める。


「あっ、ドラゴンが嫌う音を出す魔術具のラッパの部分に、ドラゴンの翼の絵がある!」


マキアート教授と一緒に起動方法を調べていたマサルーノ先輩が叫ぶ。


「この魔術具には、タイガーの牙とウルフの尻尾の絵が描いてあるぞ!」と叫んだのは、王立高学院特別部隊に所属する特務部の先輩だ。


 手の空いていた学生は、まだ確認さえ始めていなかった魔術具を手に取ったり、覗き込んだりしながら魔獣を示す絵がないか確認していく。

 その結果、2つの魔術具を除く全ての魔術具に、魔獣を示す絵文字が確認できた。


「これは大きな発見だ。具体的にどう使うのかは不明だが、どの魔獣を倒す魔術具なのかは判明した」


マキアート教授は興奮したように大きな声で話し、一気に解明が進むだろうと喜んだ。


 俺は魔獣を示す絵文字が入っていなかった魔術具の一つに視線を向け、思わず「えっ!」と声を出してしまった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

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