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202 攻撃開始と怒れる者たち

 ◇◇ 魔法省大臣マリード侯爵 ◇◇


 新しく作り直されたばかりの王城の警鐘が、カンカンカンカンと突然けたたましく鳴り始めた。


 警鐘の叩き方で、皆は直ぐにドラゴンが飛来したのだと理解した。

 王城以外の王都中の警鐘も一斉に鳴らされ、座って仕事をしていた部下も私も立ち上がり、急いで窓の外を見る。


「ここからでは確認できない。直ぐ屋上に移動する!

 緊急時の手順通りに執務棟で働く者たちを地下室に避難させろ!

 先ずは女性、そして攻撃魔法が使えない事務官だ!」


私は大声で部下に指示を出し、数人を連れ執務棟の屋上に向かって走る。

 

 途中で法務大臣のマギ公爵や、財務大臣のレイム公爵と一緒になり、皆で階段を駆け上がっていく。


「あれだ! あそこに2頭ドラゴンが見える!」と、先に到着していた建設大臣のログドル第二王子が、下級地区の方を指さしながら叫んだ。


 到着した私は、ログドル王子の指す方に急いで視線を向け、ドラゴンの姿を探す。


「な、何という大きさだ!」とレイム公爵が驚きの声を上げる。


「選りにも選って覇王軍と魔獣討伐専門部隊が居ない時に!」と、マギ公爵は舌打ちする。


 そうだった。覇王軍も魔獣討伐専門部隊も、昨日サナへ領とマギ領に出動して留守だ。

 しかも、一般軍大臣である息子のハシムと、一般魔法省大臣であるトーマス王子は、覇王講座のため下級地区にある軍の演習場に行っている。

 

 覇王様は、王都がドラゴンや魔獣に襲われた時、対策本部を王立高学院の図書館に設置すると決められている。


 そして一般軍は、上級地区ではなく中級地区と下級地区の住民を守るため、王立高学院に人員の3分の2が集合し、学院内に軍の対策本部を設置するとになっている。


 総指揮を執られる覇王様と、副指揮官であるワイコリーム公爵の両人が不在の場合、一般軍の大臣であるハシムが、直ちに王立高学院に向かい対策本部を立ち上げねばならない。


「王城を守るのは王族や領主や大臣の務め。もしも王城が襲われることになれば、我々が先頭に立ち戦うしかありません!」


責任ある大臣の地位に就かれたログドル王子が、気合の入った声で言われた。

 覇王講座を受講し、覇王様から直接上級魔法を伝授されたログドル王子は、以前の弱気な態度から一変、王子としての責任を果たそうと努力されている。


 もちろん、態度が一変したのは王様も他の大臣たちも同じだ。

 魔獣の討伐なんて他人事だった王宮で働く者たちまで、覇王様は態度を改めさせた。


 始めは【覇気】を使った恐怖から従わせておられたが、己の命と国を守ることに繋がるのだと理解してからは、大多数が真面目に攻撃魔法を学んでいった。

 

 完全実力主義を掲げ、成績の貼り出しや試験を受けさせたことにより、頑張らざるを得なかったという感じではあったが、今では覇王講座を受講したことが、各自の自信へとつながっている。



 王城に勤務する者は、王宮警備隊の指示に従い、避難することになっている。

 それ以外の執務棟や他の建物で働く者は、一般魔法省や一般軍の指示に従い避難する。


 王宮全体の指揮を執るのは、王様と宰相であるサナへ侯爵だが、ドラゴンに関する指揮権は、覇王様とワイコリーム公爵、次いで魔法省大臣である私にある。


 王城は高い建物だから最も危険だと認知されているので、王宮内の対策本部は王城や執務棟ではなく、建物倒壊の被害を受け難い、魔法省の平屋の研究室に設置される。

 ドラゴンの姿を確認した私は、急いで研究室へと移動を開始する。



 魔法省の研究室は、城壁の直ぐ近くなので、城壁の見張り塔に上がることもできる。

 私は部下を見張りに立たせ、直ぐに作戦本部を設置する。


 5分もしないうちに、王様を始め大臣たちも集まって来た。

 大きな会議用のテーブルの中心に座られた王様に、部下がドラゴンの様子を随時報告していく。


「グレードラゴン2頭は、中級地区にある教会の大聖堂に降りました」という報告から15分が経過した頃に、ようやく執務棟や管理棟で働く者の避難も完了したという知らせがきた。


「時間が掛かりすぎる」と、管理棟の責任者であるサナへ侯爵は不機嫌だ。


「だから日頃から訓練が必要だと、ワイコリーム公爵が言っていたはずです」と、訓練など必要ないと言っていたサナへ侯爵に向かって、私はダメ出しをする。


「王城で働くメイドや侍女たちは、王城は真っ先に襲われる可能性があると脅威に感じていたので、それはもう素早く地下室まで走って避難していました」


王宮警備隊隊長(騎士団長)は、自分の管理下にある城で働く者の避難は完璧だと胸を張った。 


「確かに、ドラゴンが教会ではなく直接ここへ来ていたら、完全に避難は間に合いませんでしたね」と、マギ公爵も私に同意してくれる。


「まあこれで、訓練など必要ないと文句を言っていた役人たちも、以後は真面目にやるだろう」と、王様はサナへ侯爵を擁護するように言った。

 

 ……王宮内の危機感は、やはりまだ低い。王様と宰相が命令すれば済むことなのに・・・




 王宮には避難用の地下室が大小合わせて20ある。

 ここで働く二千人近い者が素早く非難するため、各部署ごとに避難する場所が決められている。


 そうしておかないと、高位貴族が我先にと避難する可能性が高く、弱者である女性や身分の低い役人は避難場所が無い・・・ということになりかねない。

 もちろん、全員分の地下室がある訳ではなく、戦える男性は2階建てや平屋の建物に避難する。


「このままドラゴンの様子を見ていていいのか?」


「それが最善だと、覇王様から指示が出ています宰相。もしもドラゴンが人や町を襲い始めたら戦闘を開始しますが、王都内での戦闘は被害が甚大になります。

 無暗に攻撃を仕掛けるのは得策ではありません」


ドラゴンの様子が気になって仕方ない様子の宰相に、何度も報告しているドラゴン王都襲来時の対策内容を私は念押しする。


「仮にこれから皆さんが教会まで向かったとして、その途中で王宮にドラゴンが移動したら、王宮を守る者が居なくなります。

 基本的に覇王軍も魔獣討伐専門部隊も上級地区では活動しませんから、ここは我々が守らねばなりません」


騎士団長は冷静に意見する。彼は私同様、覇王様に絶大な信用を置いている。


「ドラゴン相手に功を焦る者はいまい」と、王様はどこか楽観的だ。


「それはそうですが、もしもドラゴンが王宮に少しでも足を踏み入れたら、私は容赦なく攻撃しますよ」と、レイム公爵は戦う気満々でニヤリと笑う。


 ……誰もドラゴンと戦ったことなどないのに、その自信は何処から来るのだろう?



 どうかこのまま何もせず、ドラゴンが王都から離れてくれますようにと心の中で祈っていると、この世のものとも思えないような叫び声?というか鳴き声が、グギギャーッ! と聞こえてきた。


 その大音響は、恐らくグレードラゴンが発したものに違いないと誰もが確信し、座っていることも出来ず、数人が席を立ち城壁の見張り塔へと駆け出した。


 対ドラゴンの指揮を執る私は、当然何が起こったのかを自分の目で確認するため、真っ先に走り始めた。


「誰かが火魔法を放ったようです!」と見張りをしていた部下が報告する。


「攻撃を仕掛けただと!」と、信じられない報告に、私は念を入れて確認する。


「はい大臣、はっきりとは見えませんでしたが、ドラゴンは王宮の方を向いて着地していました。炎の攻撃は斜め後ろから数発放たれたようで、その内の一発が命中したようです!」


しっかりとした口調で、部下は間違いありませんと断言する。

 見張りをしていた他の部下や警備隊の者も、間違いないと口を揃えた。


「いったい誰が勝手なことを!」と、私は怒りが抑えられない。 


 当然のことながらドラゴンは教会の礼拝堂から飛び上がり、攻撃が来たと思われる礼拝堂の側面に向かって、翼を大きく広げ風で攻撃を始めた。


 教会までの距離は2キロ足らず。高い所から見れば、目と鼻の先のように感じる。

 ドラゴンが起こす強風で、礼拝堂の美しい飾り壁は落下し、屋根の瓦も剥がれて飛んでいく。


「なんということだ! 古代建築の秘宝である礼拝堂が・・・」と、建築物に詳しいログドル王子ががくりと膝をつく。


 ドラゴンに目を凝らすと、確かに1頭のドラゴンの翼から煙が僅かに上がっているが、直ぐに消えてしまった。

 もしかした穴が開いたのかもしれないが、飛行に障害はなさそうだ。

 威嚇するように翼を動かし、長い尻尾で礼拝堂を破壊していく。


「王立高学院の教授や学生だろうか?」


「いえ、それは有り得ません宰相。ハシムが向かっているはずですから、勝手な行動を許すはずがない!」


私は怒りの感情を懸命に抑えながら、宰相にそれはないと断言した。



 人々の心の在りどころである礼拝堂が、あっと言う間に倒壊していく。

 隣にあるレンガ造りの古い本教会の建物も、ドラゴンの起こした突風で屋根や壁が吹き飛ばされていく。


 そのレンガや屋根の一部が、教会近くの建物に次々とぶち当たり、道路などにも散乱し被害が広がっていく。

 ドラゴンという生き物の脅威を目の当たりにし、改めて恐怖を覚える。 


 壊れた教会の建物に満足したのか、2頭のドラゴンは少し上昇し、何度かその場で旋回した後、北に向かって移動を開始した。

 直ぐ北にあるのは、この国で一番高い建物であり、この国の象徴でもある王城だ。


 移動し始めたドラゴンを見て、各所の警鐘が再びカンカンカンと危険を知らせて鳴り始める。


 王城を襲うとは限らないが、皆は急いで見張り塔から退避し、作戦本部になっている研究室の直ぐ横にある、避難用の地下室に逃げ込んでいく。


 騎士団長は王様を守るように先導し、戦う気のない大臣たちも続く。

 だが私と腹心の部下は、ドラゴン討伐の指揮を執る必要があるので、見張り塔の階段に身をかがめて監視を続ける。


「あっ! 今度は上級地区の城壁に降りるようです」と、見張り塔に残ってドラゴンの動きを監視していたログドル王子が声を上げる。


 私も隠れている場合ではないと思い直し、見張り塔に戻って状況確認する。

 すると、城壁には上手く着地できなかったようで、八つ当たりをするように城壁の一部を尻尾で破壊し始める。


「くそ! いったい誰が攻撃した!」と、マギ公爵が忌々しそうに呟いた時、2頭のドラゴンは再び上昇し、真っ直ぐこちらへ向かって移動を開始した。

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