201 ドラゴンとの戦い
ラリエスを王都に帰した俺は、光のドラゴンランドルと一緒にグレードラゴンの討伐を開始した。
その数・・・中腹辺りには21頭、その500メートル上にもちらほらと姿が確認できた。
元々これだけの数が居たのかとランドルに訊くと、自分や母親であるエリスの知る限りでは、龍山のグレードラゴンは20頭くらいだったらしい。
中腹辺りで上位種魔獣を襲っているグレードラゴンは、もっと高い場所を飛んでいるものより小さい。
ということは、昨年から今年にかけて生まれた奴らに違いない。
たった1年で倍以上に増えているのだとしたら・・・いや、龍山からアホール山やティー山脈に移動した奴等が、新しく群を作っているようだから、数は3倍、いや4倍以上になっている可能性もある。
龍山で新しく生まれたグレードラゴンは、まだ人間を食べたことが無いはずだ。
だが、秋になって冬眠準備に入ると、きっと町を襲い始めるだろう。
……やはり、少しでも数を減らしておかねばならない。
ランドルは、グレードラゴンの群の中へと炎を放つため狙いを定めた。
ランドルは最近、大きな炎を放つだけではなく、小さな炎を同時に10発くらい放てるようになっている。
1頭を倒すのではなく、まとめて倒すための練習をしていたのだ。
練習の成果を試すように、ランドルは赤々と燃える炎の玉を、迷いなく群へと吐き出した。
炎の玉は、餌である上位魔獣を襲っていた8頭のグレードラゴンに命中する。
光のドラゴンが迫っていることに気付いていなかったグレードラゴンは、突然後方から放たれた炎の攻撃を避けることはできず、胴体や翼を焼かれたり穴が開いたりして落下していく。
炎の攻撃を受けなかったグレードラゴンたちは、慌ててこちらを振り返り、地上からもっと離れようと飛び上がる。
その行動を待っていた俺は、既に展開していた魔法陣を発動した。
この魔法陣は、ルフナ王子が持っている【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書に描かれていたものだ。
ルフナ王子は火の適性が一番強く、炎の攻撃を得意としている。
俺の持っている魔術書には、全適性持ちである俺にしか使えない魔法陣が多く、使用する魔力量も大きいので負担が大きかった。
しかし、俺以外の王族が持っている魔術書の魔法陣を使うと、かなり魔力消費量が抑えられることに最近気付いた。
「行けー」と叫んで、魔法陣を描いた燃えない特殊紙に魔力を叩き込む。
俺の拳くらいの大きさの紫色の炎の玉が、残っていたグレードラゴンの頭上に降り注いでいく。
炎が尾を引き、まるで無数の炎の槍が放たれたように、飛び上がったグレードラゴンたちに命中し貫いていく。
そう、貫いていくのだ。
ドラゴンを貫通した炎の槍は、地上に突き刺さったり、逃げ惑っていた魔獣の上位種をも貫いていく。
グギャー! と叫び声を上げたグレードラゴンたちの多くは、落下して動かなくなった。
数頭のグレードラゴンは生き残っているようだが、再び空へ飛びあがることはできないようだ。
『アコル、上に居た奴等が襲ってくるよ』と、ランドルが念話で危険を知らせてくれた。
俺たちはその場から急いで離脱し、龍山の南側へと移動する。
俺たちを追ってくるグレードラゴンは、先程戦ったものよりかなり大きい。
それでも、ランドルはドラゴン種の頂点に立つ光のドラゴン、ゆっくりと方向転換して迎え撃つ態勢をとった。
対峙したのは3頭のグレードラゴン。
先程と違い、不意打ち作戦はとれない。ガチの対戦だ。
……まずい、完全に俺が邪魔だ。
「ランドル、ここは一旦引いた方がいい。俺が居たら思う通りに飛べない。俺に気を使っていたら3頭相手にするのは厳しい」
『う~ん、分かった。アコルを降ろしてから戦うよ』とランドルが答えた時、ランドルより大きなグレードラゴンが高速で突っ込んで来た。
きっと仲間や子の敵討ちをするつもりなんだろう。殺気が凄い。
ランドルは直ぐに炎を放つが、残念ながら外れてしまう。
俺も攻撃を放とうとするが、ランドルがグレードラゴンからの攻撃を避けて動くから、上手く攻撃できない。
そうこうしている内に他の2頭も参戦してきて、ランドルの足に取り付けられた籠の中に、俺が居ることに気付いてしまった。
魔獣の多くは、相手の魔力量で強いか弱いかを決めるとエクレアが言っていたから、俺は上級魔獣かランドルの仲間くらいに思われたのかもしれない。
あとから来た2頭は、大きな目で俺をギロリと睨み、完全に獲物認定する。
そしてランドルの左右から体当たりしようと迫ってくる。
グレードラゴンは炎も吐けないし、ランドルのように素早く動くことも出来ない。
なのでドラゴン同士で戦う時は、体当たりや尻尾を叩きつけたり、噛み付く攻撃で攻めてくる。
もしもあの巨体が籠に当たれば、直ぐに壊れて俺は落下するだろう。
近付くグレードラゴンの翼から生まれる風で、籠がガタガタと揺れ、それだけで壊れそうな気がする。
……ダメだ。このままでは俺もランドルも上手く戦えない。
そこで俺は、自分で生み出した新しい風魔法を、正面のグレードラゴンに向かって放った。
エイトはよくドラゴントルネードを使うけど、俺が考えたのは、渦巻く方向の違う二つの竜巻を同時に発生させ、その二つの竜巻でドラゴンを挟むという攻撃だ。
残念ながら1頭しか攻撃できないけど、攻撃されたグレードラゴンは、二つの竜巻に挟まれ翼を動かすことができず、空中で動きを止めた。
そして次第に二つの渦に翼が引っ張られ、グギャー!!と悲鳴のような声を上げ、左右の渦に翼が巻き込まれていく。
「ランドル今だ。離脱するぞ」と俺はランドルに指示を出し、呆然と仲間の様子を見ているグレードラゴンに注意しながら、龍山の西側に向かって離脱していく。
飛行速度は、グレードラゴンより光のドラゴンの方が断然早い。
5分もすると、追いかけてきたグレードラゴンの姿は見えなくなった。
最初に倒したグレードラゴン20頭と上位魔獣を回収したいけど、暫く時間を空けた方がいいだろう。
よし、冒険者ギルド龍山支部に行って被害状況を確認しよう。
この時の俺は、龍山の南側に残してきたグレードラゴン2頭が、龍山から離れて王都の方に向かうなんて思ってもいなかった。
◇◇ ラリエス ◇◇
アコル様の指示で王都に戻った私は、【覇王軍】のエイトとマサルーノ先輩を指揮官としてマギ領の龍山支部に向かわせ、ボンテンク先輩を指揮官、ルフナ王子とトゥーリス先輩を副指揮官にしてサナへ領へと直ぐに向かわせた。
【王立高学院特別部隊】はサナへ領へノエル様、マギ領にはミレーヌ様が向かう。
もしかしたら大規模な救済が必要になる可能性があるので、万全な準備をして明日の早朝出発する。
今回は新しく入隊を希望する10人が含まれている。
入隊希望者は20人以上いたが、覇王講座の手伝いもあったので、今回は10人だけを連れて行く。
【魔獣討伐専門部隊】は、今では軍部も魔法陣を全員使えるようになっているし、魔法部も魔獣討伐に慣れて剣で止めを刺せるようになっている。
それでも先月の魔獣討伐で負傷者が多く出て、王都に残していく人員が居なくなった。
魔法省大臣のマリード侯爵が、王都は残っている【一般魔法省】と【一般軍】の人員で大丈夫だと言ってくれたので、【魔獣討伐専門部隊】を率いる父は、危険度の高いサナへ領へと向かった。
午後6時、やや遅れて出発した【魔獣討伐専門部隊】を見送った私は、アコル様の指示で、念のためにワイコリーム領に戻りバルバ山の様子を見に行く。
最近グレードラゴンが目撃されたので、龍山のように魔獣の氾濫が起こっていないか確認するのだ。
この時の私は、まさか翌日、ドラゴンが王都に飛来するとは思ってもいなかった。
◇◇ 一般軍大臣 ハシム ◇◇
昨日龍山から戻って来た覇王様の側近ラリエス君が、龍山のドラゴンの数が倍増しているようだと言っていた。
きっとこれからは度々グレードラゴンが王都に飛来してくるだろう。
いつかは……と思っていたその日が、今日になっただけだ。
小高い丘の上に建っている教会の大聖堂は、図書館の窓からも良く見えた。
窓から見えるグレードラゴン2頭は、まだ動く気配はない。
偶然か意図的かは分からないが、王城の方を向いているのが不気味だ。
「ハシム様、下級地区と中級地区の住民を避難させました。下級地区に50人、中級地区に50人を配置し、上官が王宮で避難の指揮を執っています」
ドラゴンが王都の上空に現れて1時間後、全員の配置が完了したと大隊長が報告に来た。
まだ襲撃を受けていなかったので、部下もなんとか対応できたようだ。
「分かった。ドラゴンが動き出しても慌てず、攻撃を受けたら安全な場所に住民を移動させろ」
「はい、了解しました」と緊張した声で答え、大隊長は学院の入場門近くに設置した軍のテントに戻っていった。
「ハシム殿、我々は教会に向かわなくてもいいのだろうか?」
戦う気満々のカルタック教授が、痺れを切らしたように訊いてきた。
「はい、覇王様のご指示では、下手に動くと標的にされる可能性があり、飛んで移動するドラゴンと戦うのは難しく、地上に降りた場合に限り攻撃するよう言われています。
なので今できるのは、ドラゴンの動きを見張ることだけです」
「それでは、この学院の上空を低空で飛行することがあれば、攻撃してもいいだろうか?」
いろいろと試したい魔法陣があると言っていたマキアート教授まで、戦いたくてうずうずしているのか質問してきた。
「既に攻撃を受けている場合は構いません。ですが、何もせず王都を飛び去るのであれば、ドラゴンを刺激する攻撃は避けて頂きたいです。
撃ち落とせたとしても、あの巨体が建物の上に落下し暴れれば、サーシム領のように大きな被害がでます」
がっかりって顔をしたマキアート教授に、今回は【覇王軍】と【魔獣討伐専門部隊】が居ない故の対応なんですと追加説明しておく。
「それでもいつかは戦わねばならない。もしもに備えて準備はしておこう」
カルタック教授がそう言って図書室を出て行こうとした時、< ギョエェェー >と、この世のものとは思えない不快な鳴き声が聞こえた。
図書室内に緊張が走り、皆は急いで窓際に走り寄る。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
行間処理をしていたら、マリード領にドバイン運送の支店を作りに行っていた話の中で、一緒に行っていたはずのヤーロン先輩が、途中から居なくなっていました。
現在は、訂正済みです。